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台風の日やヒーローに会いにゆく【Dr.Izzy Report】

○はじめに

こちらの企画への参加で記事を書かせていただきました。ありがとうございます。




○「アトラクションがはじまる(they call it “NO.6”)」はどんな曲?


「アトラクションがはじまる(they call it “NO.6”)」は、UNISON SQUARE GARDENの6枚目のアルバム『Dr.Izzy』の2曲目に位置する曲である。

タイトルの「はじまる」の漢字をひらいたひらがな表記が特徴的。ひらがなにすることで、より親しみやすさ、ポップさを感じられる。「No.6」はそのまま6枚目のアルバムであることを指す。

4枚目、5枚目のアルバムの曲の中でも「4枚目」「5枚目」とどこかでカウントしていて、これまでもやってましたよ、という意味もあるのかもしれない。


曲の時間は3分58秒。ボリュームがある曲の割りにはコンパクト。展開が目まぐるしく満足感がある。4分を超えていてもおかしくない印象を受ける。

イントロから楽しくなってしまう曲調で大人でもワクワクする。遊園地のゲートをくぐり抜けて走り出すような情景が浮かぶ。歌詞を見ると大人にこそ響く言葉が詰まっている。


この曲がアルバムに入ったことで、1曲目の「エアリアルエイリアン」から3曲目の「シュガーソングとビターステップ」を上手くつないでくれている。「エアリアルエイリアン」で、なんだ、これは!?と思わせて、ちゃんと挨拶してくれる「アトラクションがはじまる」が流れて、ご丁寧にどうもと思う。

ユニゾンはこんなバンドです、という自己紹介も含まれた曲でもある。2曲目で王道のユニゾンを感じる曲調に安心していたら〈君が満足そうに抱える常識を徹底的に壊して〉と言っていて、言葉でボコボコにされる。色鮮やかな見た目で昆虫を誘い込む花のような、したたかさを感じる。

『Dr.Izzy』には「シュガーソングとビターステップ」が収録されていることから、このアルバムからユニゾンを聴きはじめる人も多かっただろう。

はじめてアルバムを聴いた人にもユニゾンがどんなバンドなのかが伝わる。昔から聴いていた人にも変わらないバンドのスタンスや、結成10年の節目が過ぎてからのこれからのユニゾンが感じ取れる。この1曲で充分な情報量がある。


1番のAメロの語尾のギターが綺麗でだんだんジャカジャカしてゆく。ドラムはずっと楽しそう。間奏のテケテケテケテケテケテケテンテンみたいな音が特に好き。

YouTubeではライブで演奏された「アトラクションがはじまる」を観ることができる。それぞれの楽器が暴れてベースの音もしっかり聴こえる。音源とはまた違った良さがある。

本当に3人?そんなわけ…ほんまや!と毎回驚かされる。ライブバージョンも最高なので是非。


『Dr.Izzy』のジャケットには牛が描かれていて、焼肉屋の壁に描かれているような、牛の身体の部位が記されたイラストにも似ている。

しかし、逆に牛の身体の中に小さな人間たちが取り込まれている。牛の体内は歯車や機械が犇めき、人間は研究者たちなのか仕事をしていたり、フェンシングをしている。ジャケットからも、常識が通用しないアルバムであることがわかる。


関西では2016年の6月からFM802のROCK KIDS 802とコラボしたカントリーマアムのミックスジュース味が発売されていた。このアルバムのリード曲が「mix juiceのいうとおり」なこともあり、ユニゾンとは関係なかったのかな、と未だに思う。

『Dr.Izzy』の発売前にROCK KIDS 802の公開収録でユニゾンがあまがさきキューズモールに来ていたのも懐かしい。

突然ですが、皆さん、佐久間一行さんの「エライ人」というネタはご存知でしょうか。

佐久間一行さん演じる社長は偉い人だけど、あるあるネタを通して、みんなと同じであることを教えてくれるフリップ芸である。

「アトラクションがはじまる」の歌詞は、AメロとBメロが日常パート、サビ前の〈さあ格別のshow timeを!オンステージの5分前 FreakyにAttract〉の部分でオフからオンへの切り替えがあるような気がする。戦隊ヒーローであれば、この部分で変身している。そして、サビでユニゾンの3人がステージに上がっている光景が浮かぶ。

佐久間一行さんのネタの「みんなおんなじ」という考えを代入すれば、UNISON SQUARE GARDENもみんな(リスナー)と同じで、舞台に立っていない日常があることに改めて気づかされる。

『Dr.Izzy』のツアーに参戦し、ライブ後に会場から駅に戻ってゆくときに〈ライブ後はみんなばらばら沙羅の花〉という俳句を創ってスマホにメモをした。

ユニゾンを好きな人に日常で会うことはなく、一人でライブに行き一人で帰ることに寂しさがあった。

けれど、最近のライブでは周りの人も一人で来ている人が多いことに気づいた。それでもライブ中は同じ時間を共有できていて楽しい。自分だけじゃない、みんな同じで、みんなばらばらでも大丈夫と思えたから、一人でも嫌だな〜、怖いな〜、とは思わなくなった。

それと、大変おこがましいけれど、ユニゾン自身もみんなと同じで、ライブ後はばらばらという見方もできるかもしれない。

今はバチバチに仲が悪いこともないだろうけど、何をするにもずっと一緒ということもなさそうである。

三者三様の違いを認め合えたから、バンドは19年も続いたのではないだろうか。違いがあるからこそ、思いがけぬ音楽が生まれる。

それぞれ別の場所で活動をしていても、UNISON SQUARE GARDENという帰れる場所がある。他のところで得たことをバンドに還元しつつ長く続けてほしい、と願うばかりである。



○MVについて


皆さんご存知のことだけど「アトラクションがはじまる(they call it “NO.6”)」にはMVが存在する。このMVの衣装がこの頃の宣材写真になっている。


MVの最初、少年はガスマスクの男性から封筒を受け取る。どうやら3時からアトラクションがはじまるらしい。少年は走り出す。

金網を超えるシーンを観ると「チャイルドフッド・スーパーノヴァ」の〈今、カナアミをぬけて〉という歌詞を思い出す。「チャイルドフッド・スーパーノヴァ」の歌詞はひらがなが多く子どもらしさが溢れている。〈小さな僕の“大冒険”です〉という歌詞もあり、このMVの少年のイメージとも重なる。

時計を見るともうすぐ3時で少年は慌てて走る。3時という時間に意味はあるのだろうか。

「アトラクションがはじまる」の時刻が午後の3時で1曲ごとに1時間経つなら〈12時過ぎても解けない そんな魔法があっても欲しくない〉という歌詞のある「mix juiceのいうとおり」でちょうど夜の12時になる。しかし、その次の「Cheap Cheap Endroll」は〈午前3時の胸騒ぎ〉からはじまって急に3時間経っているので、全然関係なかった。


少年はバスに乗り、ユニゾンの3人と覆面ダンサーズと合流する。バスのナンバープレートは「U07-06」となっており、これはユニゾンの頭文字とアルバムの発売日を表す。ちなみに、7/6は3枚目のアルバム『Populus Populus』の発売日と同じである。


途中、バスが停まって黒い耳のついたネズミの覆面の人と触角フルフェイス2人の3人組が乗車する。これは、UNISON SQUARE GARDENがインディーズ時代から交流のあるバンド、bus stop mouseを表していると思われる。

1分21秒あたりでバス停の標識を映し「BUS STOP」の文字が確認できることもフリになっている。2016年ならbus stop mouseの復活を待っていた頃だろうか。彼らの想いも乗っけてバスはゆく。


このMVの特徴は、ユニゾンと少年以外の人物はすべて顔が隠れているところだと思う。

顔が隠れたダンサーが出演するMVといえば「MR.アンディ -party style-」である。覆面レスラーや全身タイツの人たちがペットボトルの蓋の上で踊っている。

「MR.アンディ」の歌詞には〈謎の救世主です 仮面はまだ取れないけど 人一人を笑顔にするぐらいならできるよ、存外に〉〈今の世界を少しだけ楽しくできるよ、存外に〉とあり、顔が隠れた人物は救世主であることがわかる。

「アトラクションがはじまる」の覆面ダンサーズもひとりひとりが救世主で、ユニゾンがバンドを続ける中で出会った仲間なのかもしれない。

「MR.アンディ」のMVはUFOにさらわれている牛の映像からスタートする。「アトラクションがはじまる」もアルバムのジャケットが牛であるため、牛のかぶりものをした人が登場する。

共通点は他にもあり「MR.アンディ」ではペットボトルの飲料のパッケージに林檎が載っている。「アトラクションがはじまる」では冒頭のガスマスクさんがバスの中や広場で林檎をジャグリングしている。

林檎はこのあとも重力に逆らえず落下して跳ねたり、謎の引力で街を転がったりして、剝かれるまでに時間がかかった。


みんなと一緒にバスに乗っていて、手を引かれて降りたはずだが、少年だけなぜかはぐれている。バスに乗ったのは現実ではなくて本当は自力で向かっていた?けれど、最後には合流できたから現実だったのかな。

夢だけど、夢じゃなかった!みたいな感じかな。森を抜けて走る、ここの映像は映画みたいで美しい。


広場ではUNISON SQUARE GARDENが演奏し、覆面ダンサーズが思い思いに踊っている。地球儀や風船は1枚目のアルバム『UNISON SQUARE GARDEN』の要素があると思う。

ペニー・ファージング(前のタイヤのでかいチャリ)を漕ぐピエロを観ると〈自転車〉〈道化師〉から「センチメンタルピリオド」を思い出す。回転木馬が映れば「cody beats」のジャケットや2枚目のアルバム『JET CO.』を彷彿とさせられる。


「スカースデイル」のMV(2010年くらいだとPVと言ったほうがしっくりくる)でおなじみのデイルくんが出演していることにも触れておきたい。生きとったんかワレ、と喜んだ人も多いだろう。

最後に観たデイルくんは2011年にUstreamで配信されたユニゾンTVで縄跳びをしていた。左右に縄を持つスタッフがいて、デイルくんが何回跳べるのか?という企画だった(どういう意味?)。あの姿が最後にならなくてよかったと思う。

「スカースデイル」のMVでデイルくんは、少女の膝の怪我と高校生になった女の子の手首の傷を治した。そのことから、デイルくんも救世主と言えるだろう。


MVの少年は2019年頃にネスタリゾート神戸のCMに出ていた子と同一人物だと思うけど、調べても情報はなかった。CMでは少年がワイルド・バギーという乗り物を自分で運転している。

このMVから数年経って、少年が受け身ではなく自分からアトラクションを楽しめるように成長した、と思うとなんか嬉しい。今はCMの動画は公開されていなくて、ネスタリゾート神戸のホームページ上の写真でのみ少年の姿を確認できる(2023年7月現在)。


MVの少年は、ユニゾンのリスナーを表しているような気もする。常識が凝り固まっていない少年のように、純粋に音楽を楽しんでほしいという意味だろうか。

少年は斎藤さんに似ていることから「流星前夜」の〈まだ年端もない頃の僕が虹色のパレットを持って飛び出した〉という言葉を思い出す。

UNISON SQUARE GARDENを好きになってから、それまではみえていなかった、気に留めていなかった、世界の色に気づくことができた。あなたがすでに大人だったとしても、決して遅くはない。


○歌詞を読み解く


ここからは歌詞を抜粋しながら解き明かしてみたい。「アトラクションがはじまる(they call it “NO.6”)」の歌詞はそこまでわかりにくくはないため、補足としてお読みいただければ幸いである。


ハロー 記憶が霞まないお洒落をして
街へ出れば 喜びが降ってくる
ハロー 誰かにもらった航空図なんかじゃ
飛べたってさ 羽なんか伸ばせない

〈記憶が霞まないお洒落〉とは何なのか、とまず引っかかる。そのあとに〈誰かにもらった〉〈羽なんか伸ばせない〉とあるので、自分で選んだ服じゃないとお洒落だったとしても、落ち着かないという意味だろうか。

〈喜びが降ってくる〉という表現だと、乗り物に乗っての移動ではなく歩いている様子が浮かぶ。

「さわれない歌」には〈のらりくらりと 街歩いて見つけた 小さな喜びポケットにしまいこんで〉という歌詞があり、つながりを感じる。歩いていると自分の考えが整理されて、ポジティブな発想に着地する。

「クロスハート1号線(advantage in a long time)」の〈小さな幸せを道で拾った つまらない毎日が少し光る〉という歌詞も思い出す。〈拾った〉と言っているので、この頃は視線が下に向いていたことがわかる。

〈喜びが降ってくる〉という言い方だと上を向いていて、心境の変化もあったのかもしれない。上から太陽の光や花びらが降り注ぐような明るい印象を受ける。

〈霞〉が春の季語なこともありここまでだとなんとなく春っぽい。俳句で言えば〈ふだん着でふだんの心桃の花 細見綾子〉が似合うと思う。

〈飛べたってさ 羽なんか伸ばせない〉は慣用句のアレンジが面白い。同じアルバムの「マジョリティ・リポート(darling, I love you)」では〈憩い時もテレビにかじりついて歯型がfix it〉と言っていて、そんな物理的に?ガッちゃんか?と思う。既存の言葉もユニゾンの手にかかれば新鮮になる。


守りたいものはある 例えば何気ない約束とか
時間はかかるし 悲しいことは断続にある
だけど容易に投げ出したりしない

前述の通りだとここは日常パート。日常の中で何気ない約束をちゃんと守りたいと思ったり、避けられない悲しみに出会ったりする。

ユニゾンはずっと悲しみと向き合い、逃げることはしなかった。「フルカラープログラム」では〈ふざけろ!「いつか終わる、悲しみは」 どうか忘れないでよ〉と言っている。「プログラムcontinued」は〈さも当然のように悲しみは今日もやって来て〉からはじまる。

一つひとつの悲しみには終わりはあるが、悲しみ自体がなくなることはない。ユニゾンは、悲しいことがあっても時間が解決してくれる、とは言わない。時間はかかるけれど、立ち止まって考えて、折り合いをつけてゆくことはできる、というニュアンスが感じられる。そのほうが誠実で現実を生きている気がする。


人類史上最高に必要ない最上級を さあ デリバリーしちゃうから

ここは提供する側からの言葉である。ユニゾン側の視点だとすれば、ライブをすること、音楽を届けることが〈人類史上最高に必要ない最上級〉と思われる。ライブや音楽がアトラクションと読めるだろう。

リスナーはライブや音楽がなくても生きていくことはできて、死に直結することはない。そんなことはわかっている。それでも“最高”だから、届いてほしい。


台風が来たって飛ばされない様な心臓の音 僕にちょっと聞かせてよ

台風が来ているけれど、行く予定のライブが翌日だったらどうする?アーティストや運営側も不安だろうし、天候が悪ければ中止になる可能性もある。でも行きたい。お金は払ってチケットは持っているし、何ヶ月も前から楽しみにして仕事も頑張ったし。

俳句で言えば〈アマリリスあしたあたしは雨でも行く 池田澄子〉と同じ気持ちになっている。合羽やレインブーツなどで万全に準備をして、心臓の音が聞こえちゃうくらい楽しみにして、会いにゆく。


君が満足そうに抱える常識を徹底的に壊して

「水と雨について」では〈そうやって世界の常識がひっくり返るのを待っている〉と言っている。ユニゾンは変わっていなかった、むしろパワーアップしていると思った。

年齢と共に蓄積されてゆく常識を変えることは難しい。表現することを諦めなかったユニゾンの音楽なら、ずっと大切に抱えていた常識を壊すことができるかもしれないと思わせてくれる。


ハロー 片道切符で挑むmuddy road
飽きちゃったら その辺でくたばりゃいいや

〈muddy road〉はそのまま訳すと泥道という意味になる。進むことが難しい道とわかっていながらも挑む。困難な状況や人生を表す言葉には茨の道という言葉もあるが〈muddy road〉と言うことで、台風が過ぎたあとのぬかるんだ地面の様子も想像できる。

「〜しちゃったら〜でいいや」という言い方から、これは冗談で本心ではないと思われる。まだ寿命に余裕があるから言うてられるんやと思う。逆に言い換えれば、飽きるまでは生きているということである。

「プログラムcontinued」には〈一瞬も飽きちゃいないからさ 人生を譲る気がないんだ 行けるところまで行こう 小さく明日のベルが鳴る〉という歌詞がある。

〈片道切符で挑むmuddy road〉=人生、と読むことができる。片道切符で一番遠くまで行けるところまで行く。〈明日のベル〉は電車の発車音のようでもある。


ムカつくことはある 例えば交差点に沸くゲリラとか

大人になったらムカつくと思っても言ったら駄目なのか、ムカつくと思うこと自体駄目かと思うけれど、その感情も大切でそう感じたことは間違いじゃない。

「kid, I like quartet」では〈嬉しくなって飛び出して むかついて蹴飛ばして 悔しくなって恨んで って 当たり前だろう〉と言っている。

オブラートで完全に覆い隠してしまったら、気持ちが伝わらない。おばあちゃん御用達の四角いカラフルな寒天ゼリーみたいに、中身がみえるようオブラートでつつみ、個包装にして届けたらどうだろうか。

「シャンデリア・ワルツ」では〈感情は何通りもあるけど ただ 自分のためでいい〉という言葉が優しい。自分の感情を大切にしてあげて良いのだと思える。

〈交差点に沸くゲリラ〉は〈例えば〉と言っているので、他のムカつくことでも成立した可能性がある。〈喜びが降ってくる〉と歌った1番の冒頭はどちらかと言えば、天気は晴れのイメージだった。〈ゲリラ〉=雨ではないが、1番とは対比の関係にあり天気が荒れているところを想像する。〈台風〉という言葉からも導かれたのかもしれない。


時間は過ぎるし
楽しいことは年と共に減っちゃうかもしれないけどなくなんないよ

大人になって就職すると、学生時代に楽しめていたことに費やす時間が減ってしまう。けれど、なくなることはない。

1ヶ月前から約束すれば、友だちと予定を合わせて遊ぶこともできる。約束をして1ヶ月間楽しみでいられる。ユニゾンの音楽もずっと変わらずに楽しいと思わせてくれる。

インディーズ時代から存在した曲「mouth to mouse(sent you)」では〈楽しいことだけしか見つからない そんな時が来たら教えてね〉とあり、つながりを感じて嬉しくなる。


もちろん共犯関係とはいえ きっと絆なんか無い 期待なんかしないでよ

ここの歌詞で思い出す曲は「さわれない歌」である。〈もしも僕が君の前まで来て 何かできることがあるとしても この手は差し出さない きっかけは与えたいけれど〉と言ってることは近いと思う。

「さわれない歌」が「リニアブルーを聴きながら」のカップリング曲として発表されたのは2012年。アニメ『楽しいムーミン一家』の再放送を観ていて個人的に大ヒットしていたこともあり、スナフキン視点の曲という解釈もできると思っていた。

スナフキンはムーミン谷を去って旅に出る理由をムーミンに教えないことから、冒頭からスナフキンっぽいと感じていた。

『楽しいムーミン一家』の24話では、一人で旅をするスナフキンに憧れていると言って近づく小動物が登場する。小動物には名前がなく、スナフキンにつけてほしいと頼む。

スナフキンは「あんまり誰かを崇拝するのは自分の自由を失うことだよ」と小動物に伝える。

ユニゾンが〈絆なんか無い 期待なんかしないでよ〉と一線を引くのは、この時のスナフキンと同じ距離の取り方だと思う。君は君が思っているよりも自由だと言ってくれている気がする。

そもそも、ロックバンドは神様ではない。生身の人間である。だから、信仰の対象ではないし、何かを期待するのも違うということだろうか。自分の意見を持ってくれ、自分で考えてくれ、と伝え続ける。


戻る道なんて全然ないし 上品な待望論もない
そんなの関係ないんだよ

〈片道切符で挑むmuddy road〉が戻るつもりのない道に続いていた。パラレルワールドでもない限り一本の道しか存在しない。

「流星行路」には〈帰り道とか知らないよ その先を見てみたい〉という歌詞があり、この頃から戻るつもりはなかったのだと思った。それよりもその先に何があるのかを見たい、知りたいという好奇心が勝っている。

〈上品な待望論もない〉は『Dr.Izzy』発売前のインタビューで田淵さんが言っていた言葉とつながる。

ユニゾンがやりたいことって、メッセージ性の強い楽曲とか音楽で革命を起こすとか、そんな大それたものではないんです。単純にロックバンドがやりたいだけ。

OKMusic インタビュー(2016年6月29日)

単純にロックバンドがやりたくて『Dr.Izzy』にたどり着いた。『Dr.Izzy』もゴールではない。ロックバンドは続く。続くことも当たり前ではないけれど。


世界が終わったって来世で存分にかき回そう
気が向いたらおいでよ

ここで言う〈来世〉とはどういう意味なのか。「mix juiceのいうとおり」では〈何気ない毎日でもまた生まれ変わる〉とあり、生まれ変わることは必ずしも輪廻転生ではないことがわかる。

生まれ変わるきっかけは何でもいい。日々の中でたまたま誰かが話していたこと、新聞の記事やテレビやラジオから聞こえた言葉に気づかされ、自分の考えが変わることがある。

ユニゾンの音楽自体がきっかけになるかもしれない。ユニゾンの音楽がわからないと思っていた人にも響くときが来るんじゃないかと期待している。

前の世界(常識が壊れる前の世界)が終わって来世がはじまるとき(ユニゾンの音楽が響いたとき)が来たら、ライブにも来てほしい。〈気が向いたらおいでよ〉くらいの距離感がちょうどいい。

「マジョリティ・リポート(darling, I love you)」で〈最新版のヒットソングも良く思えないから〉〈間に合ってますから〉と言っていた主人公が曲の最後では、ユニゾンの曲を聴いて〈昨日聴いたナンバー嫌いじゃなかったな〉と思っている。

歌詞に〈旦那さん〉が出てくるので主人公は奥さんであることが予想される。〈最新版のヒットソング〉も聴いてみなよ、とアドバイスしたのは高校生か中学生くらいの子どもだろうか。なんとなく、いつも同じ曲を口ずさんでいる『あたしンち』のお母さんみたいな人物を想像する。

昔から好きな曲を超えることはなくても、ユニゾンの音楽をいいな、と感じることはあるかもしれない。少し希望を感じるラストになっている。

「さわれない歌」では〈みんなに届かなくてもいいから〉と歌っていた。ここだけだと音楽が届くことを諦めているように感じるが〈届くならlet me sing, let me sing〉という歌詞もあるので、もし届いたら嬉しいという意味も含んでいる。

「アトラクションがはじまる」や「マジョリティ・リポート」では、届いたら嬉しいという気持ちがさらに強く感じられる。折角いい曲なので聴いてもらいたいと意欲的である。


目が覚める鼓動が聞こえたなら 徹底的に揺らして

先ほど『あたしンち』のお母さんみたいな人物と書いたので、ここで『あたしンち』のお母さんがユニゾンに両肩を掴んで揺さぶられている様子が浮かんでしまった。全部想像でしかないけど、やめてあげてと思う。

〈気が向いたらおいでよ〉というゆるいお誘いをしておきながら、ライブに来てみた人を徹底的に揺らすと言っているのはちょっと怖い。すでにユニゾンを好きな人も離さないし、試しに来てみた人も逃さない。

〈目が覚める〉という言葉はどこかで言っていたと思い、調べると2010年のインタビュー記事の田淵さんの言葉だった。

具体的にリスナーに対して言うならば、自分で頑張れっていうことを言いたいな。そのきっかけがユニゾンだったらすごくうれしいという感じですね。誰かの目が覚めたり、夜が明けたり、何かのきっかけになればいいなと思ってやってます。

OKMusic インタビュー(2010年3月20日)

喜びも悲しみもイライラすることも自分の感情でしかない。誰かに同じ気持ちになってもらおうなんて思わない。自分と自分以外の世界と今日も向き合うためにUNISON SQUARE GARDENがきっかけをくれる。



○勝手に主題歌の可能性はある?


ここまでアトラクションとは、ライブをすること、音楽を届けることとして考察してみた。それだけで証明終了、と言うのはまだ早いのではないだろうか。

例えば「アトラクションを、はじめます!」と言ったら、トム・ブラウンの漫才はじまるのかな?と思いませんか?思いますよね?

何言ってんの?と思われるかもしれないが、こちらは極めて冷静である。

何が言いたいかというと、アトラクションには音楽だけではなくて、お笑いや演劇などその人なりの夢中になれるものを代入しても成立するということである。


タイアップ曲ではない「アトラクションがはじまる(they call it “NO.6”)」は、UNISON SQUARE GARDEN自身が自分たちのことを歌っているという読みが自然ではある。

人それぞれだが、短詩の世界には、作中主体と作者は別とするという考えがある。つまり、作中主体がユニゾン自身ではないという別の視点でみることもできる。


そこで、大胆予想!

勝手に主題歌シリーズの可能性もあるのかについて、考えてみたい。

ひとつ思い当たる漫画作品があり、もしアニメ化されていたら主題歌だったんじゃないか、と想像(妄想)してしまう。2016年からその作品にハマっていたのでそう思いたいという願望もあるが、歌詞にリンクする点も多いと思う。

その作品とは『トクサツガガガ』である。

説明しよう!『トクサツガガガ』とは、丹羽庭先生による漫画作品。『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて、2014年から2020年まで連載された。全198話。単行本は20巻で完結。2019年には小芝風花さん主演でドラマ化されている。

26歳の会社員で特撮オタクの仲村さんの日常を描いた作品で、共感できる部分がたくさんある。最初はオタク仲間のいなかった仲村さんに友人が増え遊ぶようになる。

ヒーローショーに出かけたり、カラオケに行ったり、映画を観てうどん屋で感想を言い合ったり、駄作上映会をしたり、想像でおせちを創造したりする。同僚の買い物に付き合ったり、山登りに参加したり、自分発信ではないことにも新たな気づきや学びがある。

特撮に詳しくなくても楽しめる。漫画の中の手書きの文字や主人公の表情に合わせて動物が描かれたり隅々まで面白く、1冊読むのに1時間以上かかる。

「アトラクションがはじまる」からみえる景として、遊園地を挙げた。歌詞には〈show time〉〈オンステージ〉という言葉がサビ前の計3回ある。遊園地でショー、ステージといえば、ヒーローショーが思い浮かび『トクサツガガガ』と関連があったらいいなと思うようになった。

いくつか歌詞に合わせて考察もしてみたい。
※以下、多少のネタバレを含みます。

〈記憶が霞まないお洒落〉とは、前述と同じで自分で選んだ服のことだと思う。仲村さんは幼い頃から戦隊ヒーローが好きだったが、母からは「女の子でしょ」「もう小学生なのに」などと言われ、抑圧されてきた過去がある。

可愛い服装が得意ではなく母と会うときは母の好みの服を着ているが、そんな時は羽が伸ばせない。一人暮らしをして、DVDやグッズを買い集め、普段は自分の着たい服を着て生活をする。

〈人類史上最高に必要ない最上級〉とは、特撮作品のことを指す。仲村さんは幼い頃に好きだった特撮から離れ、高校3年の卒業前まで観なくても大丈夫になっていた。なくても生きてはいけるが、特撮が好きだったことを思い出し、特撮オタクに返り咲いてからのほうが楽しそうだ。

仲村さんが特撮に再会するキーアイテムとして、VHSとテレビデオが作中に登場する。ユニゾンの2016年よりもあとのMVには、VHSとテレビデオが出てくるけれど、それはさすがに関係ないか。

〈君が満足そうに抱える常識を徹底的に壊して〉とは『トクサツガガガ』の描いたテーマに合う言葉だと思う。

コメディ寄りだが、実は社会派な作品である。女性で大人の仲村さんが戦隊ヒーローを好きなこと、男性の任侠さんが女児向けのアニメを好きなことも、全然変じゃないよと教えてくれる。

女の子はピンクが好きと思われることにモヤモヤする回があったりもする。2022年から2023年にかけて放送された『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』では、ピンクの男性戦士、キジブラザーが登場した。

また、今年からはじまった『ひろがるスカイ!プリキュア』では、男の子のプリキュアと成人プリキュアが登場したことも話題になった。実際の作品もこれまでのステレオタイプを壊そうとしている。

アンコンシャスバイアスという言葉を最近聞くようになった。アンコンシャスバイアスとは、日本語では無意識な思い込みと訳される。実際にどうかは別として、これまでの経験からこうだと認識してしまう。仲村さんと母のすれ違いはこれが原因だと思われる。

仲村さんの母が信じていることを変えることは難しい。実際の親子でも親の考えを変えるほど説得できなかったり、逆もあるだろう。『トクサツガガガ』で描かれたような親子のすれ違いは実際に起こり得ることだと思う。母の常識を壊すことはやはり難しいけれど、漫画もドラマも母との和解(?)や歩み寄りが描かれている。

〈時間は過ぎるし 楽しいことは年と共に減っちゃうかもしれないけどなくなんないよ〉とは、友人と遊ぶ時間はなくならないということだと思う。

8巻(ドラマでは5話)にて友人3人と海に行き撮影をする回がある。これから就活がはじまる大学生のミヤビさんに北代さんは「確かに学生に比べたら遊ぶヒマはへるよ。でも0じゃない。」と声をかける。

大人になっても、社会人になってからでも、友だちはできる。夢中になれるもの、楽しみは尽きない。時間をやりくりして遊ぶこともできると『トクサツガガガ』は教えてくれた。


仲村さんは特撮作品や周りの人たちから日々影響を受けながら、湧き上がる疑問に折り合いをつけてゆく。これは、ユニゾンが歌詞でこう言ってたから、こうしてみよう、これで大丈夫なはず、となぞらえることにも近い。

『トクサツガガガ』はたっちレディオのたっち漫画アワード2017の回にて、田淵さんのベスト3に選ばれている。たっち漫画アワード2018年の回では「去年の一位」と言われている。しかし、2016年やそれ以前に田淵さんが読んでいたのかはわからなかった。

ここまで書いておいて見当違いかもしれない。それでも、可能性のひとつとして考えることは楽しかった。



○おわりに


「アトラクションがはじまる(they call it “NO.6”)」を研究するにあたり、1日に必ず1回は聴くようにしていた。約1ヶ月のあいだ、そこまで気分が落ち込むことはなかったように思う。お弁当にデザートがついているような心強さを常に感じていた。


音や言葉は光である。受け取った光は、自分の中を巡るうちにひろがってゆき、栄養となる。そうやって勝手に救われて、少しずつ強くなってきた。

雨があがったら虹がかかるように、傷ついてもまた立ち上がって前を向くことができる。わたしたちは、悲しみが長くは続かないことも、楽しいことがなくならないことも、すでに知っている。


きみもみたかな二重の夕方の虹を 木田智美


UNISON SQUARE GARDENへの感謝を込めて。



○出典、参考文献


「アトラクションがはじまる(they call it “NO.6”)」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2016,TOY'S FACTORY)

「アトラクションがはじまる(they call it “NO.6”)」MV


「アトラクションがはじまる(they call it “NO.6”)」from TOUR 2021「Normal」at KT Zepp Yokohama 2021.03.02


『Dr.Izzy』(全作詞・作曲:田淵智也,全編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2016,TOY'S FACTORY)

「チャイルドフッド・スーパーノヴァ」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2010,TOY'S FACTORY)

「mix juiceのいうとおり」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2016,TOY'S FACTORY)

「Cheap Cheap Endroll」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2016,TOY'S FACTORY)

「MR.アンディ -party style-」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2009,TOY'S FACTORY)

「MR.アンディ -party style-」MV


「センチメンタルピリオド」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2008,TOY'S FACTORY)

「スカースデイル」(作詞・作曲:斎藤宏介,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2010,TOY'S FACTORY)

「スカースデイル」MV


「流星前夜」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2008,UKプロジェクト,2019(再発売),TOY'S FACTORY(再発売))
※歌詞カードに歌詞はないため正しい表記は不明

「さわれない歌」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,編曲協力:小林康太,2012,TOY'S FACTORY)

「クロスハート1号線(advantage in a long time)」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2013,TOY'S FACTORY)

「マジョリティ・リポート(darling, I love you)」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2016,TOY'S FACTORY)

「フルカラープログラム」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2008,UKプロジェクト,2019(再発売),TOY'S FACTORY(再発売))

「プログラムcontinued」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2015,TOY'S FACTORY)

「水と雨について」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2008,UKプロジェクト,2019(再発売),TOY'S FACTORY(再発売))

「kid, I like quartet」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2011,TOY'S FACTORY)

「シャンデリア・ワルツ」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2013,TOY'S FACTORY)

「mouth to mouse(sent you)」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2019,TOY'S FACTORY)

「流星行路」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2008,UKプロジェクト,2019(再発売),TOY'S FACTORY(再発売))

【ネタ】エライ人/佐久間一行


ネスタリゾート神戸(https://nesta.co.jp/)

細見綾子 ウィキペディア(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%B0%E8%A6%8B%E7%B6%BE%E5%AD%90

句集『思ってます』(著者:池田澄子,ふらんす堂,2016)

『楽しいムーミン一家』(原作:トーベ・ヤンソン、ラルス・ヤンソン,監督:斎藤博,アニメーション制作:テレイメージ、ビジュアル80,製作:テレビ東京、テレスクリーン(英語版),1990〜1991,テレビ東京系列)

OKMusic インタビュー(2016年6月29日)
https://okmusic.jp/news/179051

『あたしンち』(作者:けらえいこ, KADOKAWA / メディアファクトリー,1995〜2015)

OKMusic インタビュー(2010年3月20日)(https://okmusic.jp/news/181155

『トクサツガガガ』(作者:丹羽庭,小学館,2014〜2020)

『トクサツガガガ』(原作:丹羽庭,脚本:田辺茂範,制作統括:吉永証,製作:NHK名古屋,2019,NHK総合)

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(原作:八手三郎,脚本:井上敏樹 他,監督:田﨑竜太 他,製作:テレビ朝日、東映、東映エージエンシー,2022〜2023,テレビ朝日系列)

『ひろがるスカイ!プリキュア』(原作:東堂いづみ,脚本:金月龍之介、守護このみ、加藤還一、山岡潤平、伊藤睦美、井上美緒,アニメーション制作:東映アニメーション,製作:朝日放送テレビ、ABCアニメーション、ADKエモーションズ、東映アニメーション,2023〜,朝日放送テレビ、テレビ朝日系列)

一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所HP
https://www.unconsciousbias-lab.org/)

たっちレディオ 第358回 たっち漫画アワード2017の回(https://note.com/tacchinote/n/n0d7e4af6a897

たっちレディオ 第411回 たっち漫画アワード2018の回(https://note.com/tacchinote/n/n362b21c0b87e)

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