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業界人はなぜ「〇〇はオレが育てた」自慢をはじめるのか

育ての親多すぎ問題

芸能界あるあるなのですが、アイドルでもお笑い芸人でも、人気が出て売れてくると「アイツは俺が育てた」というようなことを言う人がどこからともなく現れます。


それも、TV番組関係のPやDから劇場の関係者、カメラマン、制作会社やキャスティング担当にいたるまで、いろんなところから出てくるのです。


僕がマネージャーになりたての頃、東京のグラビア界隈でお仕事をさせていただいていたのですが、当時、グラビアアイドルの頂点を極めていたのがほしのあきさんでした。


その頃、東京でグラビアの現場に行ったり営業に行くと、必ずと言っていいほど、ほしのあきさんの話題が出るのです。


ほしのあきさん、全く無関係な案件なのに、です。当時、グラビア業界ではそのくらいほしのあきさんの存在感がすごかったんですね。


で、決まって彼らはこう言うのです。「ほしのあきは俺が育てた」と。


毎回のように、新しい「ほしのあきを育てた男」が現れるのに辟易して、事務所の先輩に「これで5人目てすよ」と言うと「俺は7人知ってるわ」と返されました。


この現象を業界の極一部では「ほしのあき育ての親多すぎ問題」と呼んでいました。


要するに業界特有のフカシなんですね。ですので、マネージャーになってまず教えられたのは、いちいちそういう自慢話を真に受けるな、ということでした。


芸能界に限らず、聞かれてもないのに謎の人脈自慢を始める人は、まず間違いなく見掛け倒しですよね。(逆に、人脈がすごい人って大抵、黙ってますよね。自分が言わなくても周りの人が勝手に「あの人の知り合いなんだ」と自慢してくれるので)


よって、謎の人脈自慢を始める人と遭遇した時にこちらが取るべき対応は「マジっすか!?」「凄いっすね!」「間違いないっすね!」の三つです。


これから芸能界に入ろうという新人タレントさんは、これをしっかり覚えておいてください。うっかり信じ込んで「この人について行ったら私も〇〇さんみたいなタレントになれる!」と思い込んでしまうと後で泣くことになります。

タレントを育てるとはどういうことか?

さて、タレントの所属事務所の社長や、担当のマネージャーが「〇〇はオレが育てた」と言うのはわかります。


売れる前から芸能界について教え、レッスンを受けさせ、プロモーションに頭を悩まし、仕事を探してきたり、いろんな所に売り込みをかけていたタレントが見事ブレイクしたら、僕だって聞かれてなくても自慢したくなります。


ところが、先ほどの例でいうと、ほしのあきさんの事務所とは全く無関係の人がなぜか育てたことになってるんですね。


事務所の人間でなくても、タレントを指導する立場に当たるレッスンの講師、振付師、アイドルユニットのP、劇団なら監督や演出家が「〇〇はオレが育てた」と言うのも、まあまだわかります。


スポーツで言うなら、部活動時代の顧問とかコーチですね。ただ、養成所やスクールの先生が「あの人は私が育てたのよ」と自慢してくるイメージはあまりありません。あの〇〇さんもウチのレッスンを受けていました! みたいな宣伝に使う程度でしょう。


もっと縁遠い、一時的にお仕事で関わったことがある程度の人でも育ての親を自称している場合がよくあります。


例えばカメラマンや制作会社のディレクターが、その場でポージングや演技指導をしたりすることはありますから、育てたとまでは言えなくとも、ギリギリ「教えた(ことがある)」とは言える場合もあるかもしれません。


しかし、タレントを指導する立場でも何でもないキャスティング担当やイベント主催者にまで「育てた」と言われのはどう頑張っても無理があります。

「育てた」は「タレントとして成長させた」ではない

とまぁ、今までは「芸能界ってコエー」くらいでスルーしてきたこの問題なのですが、最近、ある知見を得ました。

どうも彼らの言う「育てた」は「タレントとして成長させた」という意味ではないのではないか? そう思っていたのは僕がマネージャーとしての目線で「タレントを育てる」ということを考えていたからではないか? ということです。


事務所、マネージャーの考える「タレントを育てる」とは、まだ新人のタレントが芸能人としてのプロ意識を身に付け、スキルを磨くことです。未成年から芸能活動をはじめた人であれば、社会経験を積むこともそれに加わります。


その結果として、色んなお仕事に出演し、知名度が上がり、ファンやフォロワーが増えるわけです。

ところが、業界の方の言う「育てた」は、結果の方なんですね。


要するに「俺がブレイクさせた」ということです。


タレントに支払われるギャラが収益になる我々と違って、彼らはタレントを使ってCDや写真集やチケットを売ったり、タレントをクライアントにブッキングすることで収益を得ているわけですから、「タレントが前よりも高く売れるようになる=成長した」ではなく「タレントを他人よりも高く売ることができる=(商品として)成長させた」ということですね。


すでにスキルも人気もある成長したタレントは高く売れて当たり前ですから、そういった場合は当然「俺が育てた(高く売った)」とは言いません。


しかし、まだ高値では売れない新人を、新人の相場よりも高い値段をつけた(ブレイクさせた)場合、それは「俺が育てた(高く売った)」になるわけです。


1,000円の商品を、自分の企画によって付加価値を上乗せし、10,000で売れた(ブレイクさせた)ら、これは自慢になります。

彼らが自慢しているのは「ブレイクさせる力」

彼らが自慢しているのは、業界の仕掛け人として「まだ売れていないタレント(商品)を俺はブレイクさせる力がある」ということです。


食べ物で言えば、食べ物を美味しくする能力があるわけではありませんし、そういう自慢をしているわけでもありません。


しかし、メニューの出し方を工夫したり、お店の営業を工夫することで、全く同じ味の料理が今までよりも高く(多く)売れたら、それは間違いなくその人の能力ですね。


これで、長年の違和感がひとつ解消されました。


芸能界で「〇〇はオレが育てた」と自慢している人は別に「レッスンをしてあげる」とか「うまい営業の方法を教えてあげる」とか「人気が出る方法をアドバイスしてあげる」とか言ってるわけではないんですね。


「俺は同業他社よりもタレントをブレイクさせるのがうまい」と自慢しているわけです。


では「あの〇〇さんがあんなにブレイクしたのは、仕掛け人である俺のおかげ」と、特に聞いてもいないのに謎の自慢をしてくる業界人に出会った時に我々はどうすべきでしょうか?


そう「マジっすか!?」「凄いっすね!」「間違いないっすね!」の三つですね。


新人のタレントさんはよく覚えておいてください。

余談 ホステスの場合

水商売を引退した女性が自分のお店を開いてママをやっているような場合、大抵、そのお店にはママの昔馴染みの常連客がいて、新参のお客にこんなことを自慢してきます。

「ママをあのお店のNo.1に育てたのは俺だ」

と。

あれは、ホステスとして成長するようにアドバイスしたとか叱咤激励したということではなく、たくさん貢いで売り上げに貢献した、ということです。

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