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IU、今からでも聴くべき20曲で振り返る13年のキャリア(2)

前回のIU、今からでも聴くべき20曲で振り返る13年のキャリア(1)に続いて今回は第二回をお届けします。IUの自作の歌詞がほとんどとなり、リリシストとしても成長し、内容はその時その時の彼女について、知れるので各曲歌詞もできるだけ紹介しています。

3. 23歳〜25歳、自己プロデュース能力を高めながら自分と向き合うIU

2015年10月、ミニアルバム『CHAT-SHIRE(チェシャ)』を発表。アルバムのコンセプト面のアイデアに加え、7曲全曲IUが作詞、4曲を作曲に関与、うち3曲は単独作曲、とソングライティング含め、自己プロデュース能力を高めます。そして何より、ファンタジー・コンセプトから離れたIU自身が全て作詞をしている、ということで当時のIUの本当の考え、葛藤なども読み取れるアルバムです。アルバム全体が「不思議の国のアリス」に登場するチェシャ猫をモチーフに、純粋な少女からは離れた、挑発的で、攻撃的、より自由で正直なIUを表現しています。また、紫色がアルバム・カバーでも目立ちますが、これが今後彼女のイメージ・カラーになっていきます。

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タイトル曲は当時の彼女の年齢から(満22歳でしたが、韓国は数え歳なので23)取った、アップテンポでファンキーな「Twenty-Three 스물셋」今後登場する「Palette」、「eight」と並べて彼女の年齢シリーズとも言える、その年代の自分と向き合っているようなテーマの曲になります。歌詞の中では相反する欲求を持っている自分、迷っている自分をそのまま正直に表現しますが、その中には世間が求める/イメージするIUのキャラクターがあり、まだ定まりきっておらず、それ自体が何なのかも悩む自分の好み/本当にしたいこと/なりたいキャラクターの間で葛藤するIUもいると思います。そういう歌を通して一旦は矛盾する部分、両面性を持っている自分を肯定するかのようです。22歳、自分も成熟したとは到底言えなかったし、やりたいことも色々あった、自分のアイデンティティ、軸がよくわからなかった時だなあ、と思わされます。MVも歌詞と「不思議の国のアリス」をマッチさせた面白い内容です。

[Pre-Chorus]
난, 그래 확실히 지금이 좋아요 / 아냐, 아냐 사실은 때려 치고 싶어요
(私は そう 確かに今が好きよ / ううん 違う ほんとは投げ出したい)
아 알겠어요 나는 사랑이 하고 싶어 / 아니 돈이나 많이 벌래
(あっわかった 私は恋がしたい / いや お金をたくさん稼ぎたい)

[Chorus]
얼굴만 보면 몰라 / 속마음과 다른 표정을 짓는 일 / 아주 간단하거든 / 어느 쪽이게?
사실은 나도 몰라 / 애초에 나는 단 한 줄의 / 거짓말도 쓴 적이 없거든
顔だけ見ててもわからないでしょう / 本心と違う表情作るのなんて / とても簡単なことだから / どっちだ?
ほんとは私もわからない / はなから私はひとつだって / 嘘をついたことはないもの
(中略)
뭐든 한 쪽을 골라 / 색안경 안에 비춰지는 거 뭐 이제 익숙하거든
どっちでもいいからひとつ選んで / 色眼鏡の中に映されるのはもう慣れたから
[Pre-Chorus]
난, 영원히 아이로 남고 싶어요 / 아니, 아니 물기 있는 여자가 될래요 / 아 정했어요 난 죽은 듯이 살래요 / 아냐, 다 뒤집어 볼래
(私は 永遠に子供で居続けたい / ううん 違う 色っぽい女性になりたい / あっ決めたわ 私は死んだように生きるわ / いや 全部ひっくり返してみせるわ)

11/20 「Twenty-Three 스물셋」(2015)

アルバム『CHAT-SHIRE』からは「あなたはとても純粋だね でもきっとずる賢いでしょ / 小さな子供みたいに透明なようでもどこか汚れてる / その中に何があるのか / 知るすべはない」と歌う「ZeZe」も似たようなコンセプトの一曲です。

サウンド面も「Twenty-Three 스물셋」以外にもレトロなR&Bポップな「Shoes」「Zeze」、公式紹介文でも60年代バブルガム・ポップという言葉が使われているZion Tをフィーチャーした「Red Queen」など統一感あるサウンドの曲たちには中毒性があります。また残りのアコースティック曲「The Shower」、「Knees」、「Glasses」は全てIUの単独作曲です。

一方2015年にはKBS2のドラマ「プロデューサー」、2016年にはSBSのドラマ「麗<レイ>〜花萌ゆる8人の皇子たち〜 (달의 연인 - 보보경심 려)」に女性主人公のポジションで、出演。俳優活動も本格的にするようになります。ドラマへの出演はIUの中華圏での人気を高めたそうです。

2017年3月、アルバム"Palette"からの先行シングル第一弾として「Through the night 夜の手紙 밤편지」 を発表します。この曲はここまで「꽃갈피: A flower bookmark(栞)」収録の「My Old Story 나의 옛날이야기」の編曲、「Heart 마음」の作曲・編曲に関わったキム・ジェヒが作曲。IUのキャリアの中でも「Good Day(좋은 날 チョウンナル)」に続くくらいの人気曲でMelonの2010年代チャートではなんと2位にランクインしています。

夜遅くに恋人に向けて送った手紙のような歌詞ですが、当時IUは不眠症に悩まされていたそうで、歌詞が書けず悩んでいたある夜遅くに「今愛する人がいたらどうやって告白すれば気持ちが伝わるだろうか。その人がよく眠れるように祈ってあげるのが今考えられる一番良い告白だろう」*1「遅い時間にその人(愛する人)に会いたいし、電話して会いたい、愛しているよと伝えられるけれど、遅い時間なので起こしたくはない、私にとって睡眠はとても大事だから、愛する人のそれはもっと大事、螢の光を送ってあげて良く眠ってくれたらいいな、これが愛じゃないかな」*2と考えて歌詞を書いたそう。実際にそういう夜遅くに聴くのに似合う優しいフォーク・バラードですね。
*1 IU 不眠症の時に「Through the night 夜の手紙 밤편지」作詞(JTBC ニュース)
*2 作詞家キム・イナがインタビューしたIUの「Through the night 夜の手紙 밤편지」作業過程

[Chorus]部分の歌詞
난 파도가 머물던 / 모래 위에 적힌 글씨처럼 
波が 押し寄せた / 砂の上に書かれた文字のように
그대가 멀리 / 사라져 버릴 것 같아 / 늘 그리워 그리워
あなたが遠くに / 消えてしまうみたいで / ずっと恋しくて恋しくて
여기 내 마음속에 / 모든 말을 
この私の胸の中にある / 全ての言葉を 
다 꺼내어 줄 순 없지만 / 사랑한다는 말이에요
全部取り出してあげることは出来ないけれど / 愛しているということです

12/20 「Through the night 夜の手紙 밤편지 (パムピョンジ)」 (2017)

1ヶ月後の2017年4月には"Palette"からもう一つの先行シングルとして、IUと同学年でもあるHyukohのオヒョクをフィーチャーした「Can't Love You Anymore 사랑이 잘 With Oh Hyuk」を発表します。当時のHyukohは「Comes And Goes」「Wi iing Wi ing」と二つのチャート1位の大ヒット曲を発表した後なので、当時大衆の間でも温かく歓迎されたコラボではないかと思います。IUとオヒョクが「倦怠期に入った男女の淡白な対話の場面」というコンセプト、作詞・作曲を共にし、これまでも「lost child 미아(迷子)」、HIGH4との「Not Spring, Love, or Cherry Blossom 봄 사랑 벚꽃 말고」, 「Leon 레옹」,「Twenty-Three 스물셋」など過去のIUの曲を手掛けているイ・ジョンフンが作曲・編曲を手掛けました。

[Chorus]パートの歌詞
사랑이 잘 안 돼 / 떠올려 봐도
愛がうまく出来ない / 思い浮かべてみても
피부를 부비고 안아봐도 / 입술을 맞춰도 참
肌をすりよせて抱きしめてみても / キスをしても
생각대로 되지 않아 / 웃긴 것 같아
思うようにいかないの / 笑えるよね
되돌려보려고 / 서로 모른 척해도
元通りにしようとしても / お互い知らないふりしても
이제 와 우리가 어떻게 / 다시 사랑 같은 걸 하겠어
今さら私たちがどうやって / また愛し合えるっていうの?

13/20 「Can't Love You Anymore 사랑이 잘 With Oh Hyuk」 (2017)

2つの先行シングルを経て、2017年4月、4枚目のフルアルバム"Palette"を発表します。

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そこからのタイトル曲がBIG BANGのG-DRAGONをフィーチャーした「Palette Feat. G-DRAGON」。当時の時代性的にもかっこよかったミニマムなヒップホップ・トラックは、IUが作曲。作詞ももちろんIU。編曲は「Can't Love You Anymore 사랑이 잘 With Oh Hyuk」と同じくIUの曲を多数手掛けるイ・ジョンフンが再び手掛けました。「Twenty-Three 스물셋」の時に言及しましたが、この曲も彼女の年齢シリーズの一つで、25歳の時の心境を歌っています。

最初のヴァースでは「楽なことが好き/今もコリーヌ(・ベイリー・レイ)が好き」と自らの心情や好みについて正直に歌い(「楽なことが好き」というのは彼女のようなスターも同世代の働く人たちと同じなんだ、ということも感じさせます)、like it/ I'm truly fineという二つの英語のフレーズが印象的な通りコーラスでは今の自分を(「Twenty-Three 스물셋」)より自信を持って肯定します。

I like it. I'm twenty five
날 좋아하는 거 알아
私のこと好きだって知ってるわ
I got this. I'm truly fine
이제 조금 알 것 같아 날
やっと少しわかるようになった気がするの 自分のこと

2回目のヴァースでも「長髪より短髪が好き」けれど、長髪だった「Good Day」を歌ってた時も可愛かったよねと、現在も(自分が好きなスタイルではなかったかもしれない)過去も肯定するのが印象的。G-DRAGONのパートは「なぁジウン(IUの本名) オッパはさ/今ちょうど30なんだけど」と彼の目線でIUに語りかける設定なのですが、ここもIUが作詞しています。そのパートの中で過去の曲名(「잔소리(ジャンソリ)」)を引用するところも面白いし、終盤で「ただ自分でいること、輝いているから怖がるな」と核心的な内容を彼に歌わせているのもすごいなと思います。

애도 어른도 아닌 나이 때 / 그저 '나'일 때
子どもでも大人でもない時 / ただ「自分」である時
가장 찬란하게 빛이 나 / 어둠이 드리워질 때도 겁내지 마
一番キラキラ輝く / 闇が垂れ込める時も怖がるな

まとめるとこの曲は、自分の好みとかのアイデンティティ、自分を肯定する自信も強まったことを表現している一曲のようです。彼女の変化について言うなら、「Twenty-Three 스물셋」の時にまだ少し気になっていた世間が求める/イメージするIUのキャラクターのようなものをあまり気にしなくなって、自分の好み/本当にしたいこと/なりたいキャラクターを正直に表現している、という感じでしょうか(あくまで歌詞やMVからのイメージですが)。「Twenty-Three 스물셋」もそうでしたが、「Palette」も歌詞の内容を巧みに表現しているし、IUの姿もカラフルに見せるこの曲のMVのビジュアル面の完成度も素晴らしいです。

14/20 「Palette」 (2017)

アルバム"Palette"からこの他にもMVはないものの「Palette」とダブル・タイトル曲扱いで、あのキム・イナ作詞家と共に作詞した「Dear Name 名前へ 이름에게」を特に聴いてほしいです。この曲はストリーム・サイトにも歌詞の内容について何も言及がないのですが、歌詞の内容(さらに、イントロのピアノの演奏が船の出航する時の音を連想させるという解釈も)からセウォル号沈没事件の犠牲者に向けて歌っているのでは、という解釈が有名です。事件は2014年ですが、2017年には船の引き上げや真相解明が進められました。アルバムの発売も3周忌のタイミングと近かったこともあります。IU自身この曲の意味については説明しないようにしていますが、「一番注意深い曲」とだけ説明しています。頼れるキム・イナに共同作詞をお願いしたのもそういう理由かもしれません。

[Pre-Chorus]
어김없이 내 앞에 선 그 아이는 / 고개 숙여도 기어이 울지 않아
いつも決まって私の前に立つその子は / うなだれても決して泣かない
안쓰러워 손을 뻗으면 달아나 / 텅 빈 허공을 나 혼자 껴안아
気の毒で手を差し出すと逃げてしまう / がらんとした虚空を私一人抱きしめるの
[Chorus]
끝없이 길었던 짙고 어두운 밤 사이로 / 영원히 사라진 네 소원을 알아
果てしなく長かった深く暗い夜の間に / 永遠に消えていったあなたの願いを知ってる
오래 기다릴게 반드시 너를 찾을게 / 보이지 않도록 멀어도
ずっと待ち続けるわ 必ずあなたを見つけるわ / 見えないほど遠くても
가자 이 새벽이 끝나는 곳 / 수없이 잃었던 춥고 모진 날 사이로
行こう この夜明けが終わる場所 / 無数に失った冷たくて残酷な日の中で
조용히 잊혀진 네 이름을 알아 / 멈추지 않을게 몇 번 이라도 외칠게
静かに忘れられたあなたの名前を知ってる / やめないわ 何度だって叫ぶわ
믿을 수 없도록 멀어도 / 가자 이 새벽이 끝나는 곳으로
信じられないほど遠くても / 行こう この夜明けが終わる場所へ

ただ私自身、この記事でIUの真意がどうであれ曲の解釈を一つに限定して書くのは本意ではないですし、この曲の歌詞は名前を持ったどんな人に対してでも贈れるでしょうし、ピアノの弾き語りベースのシンプルな曲調もよりそういう余地を与えてくれているように思えます。そして、実際IUも2017年のMelon Music Awardsでは、新人ミュージシャンとのコラボ、あるいはまだ名前が世に知られていないデビュー前のミュージシャンたちの名前をスクリーンに写しながらこの曲をパフォーマンスしました。彼女自身の、この曲を聴く人それぞれに合わせて共有してもらいたいという意思の表れでしょう。

15/20 「Dear Name 名前へ 이름에게」 (2017)

"Palette"からは他にも「Cat」で共演したことのあるSWJA (ソヌジョンア)とジャズ・ピアニストが手掛けた「Jam Jam」とイ・ジョンフン「Black Out」のエレクトロ2曲が好きです。

2017年6月〜9月にはチェジュ島でイ・ヒョリ・イ・サンスン夫婦が貸し出す民宿での生活を描くJTBCのバラエティ番組「ヒョリの民泊」に出演しました(Netflixで見られます)。

2017年9月には、2014年に発表したリメイク・アルバム、"꽃갈피: A flower bookmark(栞)"の第二弾として"꽃갈피 둘: A flower bookmark 2(栞)"を発表します。収録曲はこんな感じです。この中からは日本でもダウンタウンの「オジェパメン」で有名な「ゆうべの話」のカバーがMVも可愛らしく特に好きです。20曲には入れられなかったですが、レトロなアレンジも秀逸なのでぜひ聴いてください。またこの原曲はドラマ「応答せよ1988」を観た人にもこのシーンでおなじみだと思います。

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1. Autumn Morning 가을 아침 原曲: ヤン・ヒウン (1991年)2. Secret Garden 秘密の花園 비밀의 화원 原曲:イ・サンウン (2003年)
3. Sleepless rainy night 잠 못 드는 밤 비는 내리고 原曲:キム・ゴンモ (1992年)
4. Last night story ゆうべの話 어젯밤 이야기 原曲:ソバンチャ(1988年)
5. By the stream 개여울 原曲:ジョン・ミジョ(1972年)
原曲: 김정희, 정미조 / 작사: 김소월 / 작곡: 이희목 / 편곡: 정재일
6. 매일 그대와 毎日あなたと 原曲:ドゥルグックァ Deul Guk Hwa (1985年)

2015〜2017年はIUのアーティスト性とマルチタレント性が強まった時期であるとともに、IUの自己肯定感も強まってきたように思います。徐々にアーティストとしての自分の方向性、人間としてのアイデンティティに正直に向き合い、確信を掴みかけているような感じがします。

4.  26~29歳、アーティストとして、人間として成熟していくIU

2018年はIUにとってデビューから10年の記念すべき年でした。その10月10日にシングル「BBIBBI」を発表。トラップ・ミュージックのビートのようにスネアやハイハットが鳴り続けるヒップホップ曲は「lost child 미아(迷子)」、HIGH4との「Not Spring, Love, or Cherry Blossom 봄 사랑 벚꽃 말고」, 「Leon 레옹」,「Twenty-Three 스물셋」、「Can't Love You Anymore 사랑이 잘」などでおなじみイ・ジョンフンが作曲、イ・チェギュが編曲しています。IUの詞は韓国語と英語の混ぜ方が絶妙。リズムをとるような部分での「back off back off」、「balance balance」といったフレーズ、コーラスでの「Yellow C A R D(イェロ シエアルディ)」、「Hello stuP I D(ハロ ストゥピアイディ)」韻を踏みながら読み方を工夫していたり、面白いです。曲のテーマは、一線を超えて自身に干渉してくる人への警告メッセージ。2度目のヴァースでは相手に対しても同じ態度で接そうとします。先ほども自己肯定感という言葉を使いましたが、ヒップホップ・ビートを通して、自信感あるIUが見えてきます。この曲のMVもカラフルなIUが本当に美しいです。

[Chorus]
Yellow C A R D
이 선 넘으면 침범이야 / beep / 매너는 여기까지
この線を越えたら不法侵入よ / マナーはここまで
it's ma ma ma mine / Please keep the la la la line
Hello stuP I D / beep
그 선 넘으면 정색이야 / Stop it 거리 유지해
その線を越えたら真顔になるわよ/ 距離はキープして
cause we don't know know know know
Comma we don't owe owe owe owe (anything)
[Verse]
I don't care
당신의 비밀이 뭔지 / 저마다의 사정 역시
あなたの秘密が何かは / 各自の事情もね
정중히 사양할게요 / not my business
丁重にお断りするわ
이대로 좋아요 / talk talkless
このままがいいの

16/20 BBIBBI (2018)

2018年にはtvNのドラマ「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」に主演、2019年にはNetflixの短編映画「ペルソナ」に出演、2019年にはtvNのドラマ「ホテル・デルーナ〜月明かりの恋人」に主演するなど、俳優としてもトップクラスの地位に上がっていきます。

2019年11月に発表した6曲入りミニアルバム"Love poem"。彼女の好きながアルバム・カバーやMVでよく使われます。

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タイトル曲の一つがこのギター・ロック曲「Blueming 블루밍」ですが、私はリリシストとしてのIUの能力が一番発揮された曲の一つだと思っています。曲名は青色=Blueと花が咲く意味のbloom(ing)から取られていて、恋に落ちた後の自分は、バラの花をかせられるくらいだ、というテーマです。まずコーラスの歌詞を読んでください。

[Chorus]
우리의 네모 칸은 bloom / 엄지손가락으로 장미꽃을 피워
私たちの四角い空間は bloom / 親指でバラの花を咲かせる
향기에 취할 것 같아 우 / 오직 둘만의 비밀의 정원
香りに酔いそう / ただ二人だけの秘密の庭園
I feel bloom I feel bloom I feel bloom
너에게 한 송이를 더 보내
あなたにもう一輪あげる
[Chorus]
우리의 색은 gray and blue / 엄지손가락으로 말풍선을 띄워
私たちの色は gray and blue親指で吹き出しを浮かべる
금세 터질 것 같아 우 / 호흡이 가빠져 어지러워
すぐ破裂しそう / 息が上がってめまいがする
I feel blue. I feel blue. I feel blue.
너에게 가득히 채워
あなたにいっぱい満たして

「四角い空間」はiPhoneのiMessageのメッセージ・ボックスを、「親指でバラの花を咲かせる」SMSでメッセージを送る時、親指でメッセージ・ボックスを飛ばす動作のこと、グレーとブルーはiMessageのメッセージボックスを意味していて、相手がグレー、自分がブルーで表示されますよね。恋に落ちた相手とメッセージ、チャットでやり取りする時のドキドキ感を、色彩溢れる比喩を使いながら表現していますが、私もこの意味を知った時にはすごく驚きました。この曲は週間チャート1位、2020年年間チャートで5位の大ヒットを記録しています。

17/20 「Blueming 블루밍」 (2019)

"Love poem"収録の「above the time 時間の外 시간의 바깥」は「Good Day(좋은 날 / チョウンナル)」や「You & I (너랑 나 ノランナ/あなたと私)」、「The Red Shoes 赤い靴 분홍신/プノンシン」に続く6年ぶりのファンタジー・シリーズです。そして、中でも「You & I (너랑 나 ノランナ/あなたと私)」のアフターストーリーになっています。作曲はこれらの曲と同じくイ・ミンス、EDMを経由して過去のファンタジー・テイストの曲がアップデートされている感じでお見事です。作詞はこのシリーズ初めてIUが担当し、キム・イナが書いてきたストーリーをIUが完結させました。「You & I (너랑 나 ノランナ/あなたと私)」のアフターストーリーであることは、 下記の歌詞、MVの内容から納得いただけると思います。未来に行ってしまった恋人を追いかけたい「You & I (너랑 나 ノランナ/あなたと私)」の終わりの歌詞はこんな感じでしたね。「あなたがいるべき未来で / もしも私が迷ったら / あなたを分かるように / 私の名前を呼んでよ」

「above the time 時間の外 시간의 바깥」
[Pre-Chorus]
기록하지 않아도 / 내가 널 전부 기억할 테니까
記録しなくても / 私があなたを全部記憶するから
[Pre-Chorus 2]
이제야 한눈에 찾지 못해도 돼 / 내가 널 알아볼 테니까
一目で見つけられなくてもいい / 私があなたを見つけるから

2:45~のインストゥルメンタル・パートはIUが時間旅行をしているかのようです。

[Chorus]
드디어 / 기다림의 이유를 만나러
ついに / 待つことの理由に出会うために
꿈결에도 잊지 않았던 / 잠결에도 잊을 수 없었던
夢うつつでも忘れなかった / 寝ぼけていても忘れることができなかった
너의 이름을 불러 줄게
あなたの名前を呼んであげる
[Chorus]
기다려 / 잃어버렸던 널 되찾으러
待ってて / 失ってしまったあなたを取り戻すために
엉키었던 시간을 견디어 / 미래를 쫓지 않을 두 발로
もつれた時間を耐え抜いて / 未来を追いかけない両足で
숨이 차게 달려가겠어 / 긴긴 서사를 거쳐
息が切れるほど走っていくよ / 長い長い記述を経て
비로소 첫 줄로 적혀 / 나 두려움 따윈 없어
ようやく最初の行に書き記される / 私に恐怖なんてないの
[Verse]
서로를 감아 / 포개어진 삶
お互いを絡ませて / 折り重なった人生
그들을 가만 내려보는 달 / 여전히 많아 하고 싶은 말
それらをそっと見下ろす月 / 相変わらずたくさんの言いたい言葉
우리 좀 봐 / 꼭 하나 같아
私たち / まるでひとつみたい

「닮아(タマ)/ 삶(サム)/ 담아(タマ)/달(タル)/만(マン)/말(マル)」と韻を踏み続けるA音を強調するヴァースの歌メロもかなり耳に残って好きです。

18/20 「above the time 時間の外 시간의 바깥」(2019)

"Love poem"からは本記事の20曲には選びませんでしたが、もちろんダブル・タイトル曲の「Love poem」も週間チャート1位、2020年年間22位の大ヒットを記録している大事な曲ですね。

2020年のIUの始まりは日本ではおなじみ、ドラマ「愛の不時着」のOST「Give You My Heart 마음을 드려요」でした。この曲も週間チャート1位に加え、2020年年間チャートでも15位の大ヒットを記録します。

続いて、2020年5月に発表されたのが、彼女の年齢シリーズ最後で、28歳同学年のBTSのSUGAをフィーチャーした「eight 에잇」。ちなみにこの曲、発売日は2人の年齢を足した5月6日、曲のランニングタイム2:48(2x4=8)とMVのランニングタイムも3:41(3+4+1=8)はそれぞれ8にちなんでいるなど、細かい仕掛けで作られています!この曲は週間チャート1位はもちろん、2020年年間6位のヒットを記録しました。

作詞はIUとSUGA、作曲はIU、SUGAとEL CAPITXNが手掛け、ギターはJukjaeが演奏しています。ただ現在の自分と向き合っていた23歳の「Twenty-Three 스물셋」、25歳の「Palette」とは違い、28歳のIUは、反復される無力感と無気力感、過去への懐かしさでいっぱいのようです。その理由はあとで紹介する歌詞やMVから解釈されていますが、後述します。IUは公式の紹介文でこう説明しています。

これまで披露した(年齢シリーズの)曲たち(「Twenty-Three 스물셋」、「Palette」)が私が聴き手に直接的に話しかける随筆形式の話だったとすると、「eight 에잇」はあなたと言う仮想の人といくつかの比喩を使って私の28歳を告白する短い小説のようです。
私の個人的な感情から来るものなのか、災害(コロナウイルスのことでしょうか)による共に大変な時期を耐えている社会の全体的な雰囲気から来るものなのか、あるいは二つともなのか、確認は出来ないけれど、私の28歳は反復される無力感と無気力感、そして「私たち」が悲しくはなく、自由になれた「オレンジの島」についての懐かしさで記憶されるでしょう。

今=反復される無力感と無気力感、過去(のよかった頃)=悲しくはなく、自由になれた「オレンジの島」と対比されていて、歌詞では「挨拶もなく去っていく」、「決められた別れなんてないよ / 美しかったその記憶の中で会おう」と大切な誰かとの別れが歌われていますが、これは自ら命を絶ったIUの友人、元f(x)のソルリ、カラのクハラ、彼女たちと過ごしていた時のことだと解釈されています。記憶を保存したいIUが、記憶の中を旅するMVもまた高度ですが、素晴らしい出来です。

[Verse]
So are you happy now? Finally happy now are you?
뭐 그대로야 난 / 다 잃어버린 것 같아
そのままだよ 私は / 全部失ってしまったような気がするの
모든 게 맘대로 왔다가 / 인사도 없이 떠나
すべてが勝手にやってきて / 挨拶もなく去っていく
이대로는 무엇도 / 사랑하고 싶지 않아
このままでは何も / 愛したくないの
다 해질 대로 해져버린 기억 속을 여행해
すべてすり減るだけすり減ってしまった / 記憶の中を旅する
[Chorus]
우리는 오렌지 태양 아래 / 그림자 없이 함께 춤을 춰
私たちはオレンジの太陽の下 / 影なしで一緒にダンスを踊る
정해진 이별 따위는 없어 / 아름다웠던 그 기억에서 만나 / Forever young
決められた別れなんてないよ / 美しかったその記憶の中で会おう

19/20 「eight 에잇」 (2020)

2020年6月にはBIG HIT ENTERTAINMENTがCJ ENMと主催したサバイバル・プログラム「I-LAND」のシグナル・ソングとして「Into The I-LAND」を発表、チャート3位を記録。

そして約半年を空けて2021年1月25日に発表されたのが、"Palette"以来実に4年ぶり、今週3月25日に発表されたフルアルバム"Lilac"からの先行シングル「Celebrity」。チャートでは6週連続1位を記録、本記事執筆時点でもまだ3位にいます。

(ここからは以前、本noteに掲載した「Celebrity」の解説部分を引用、少し編集して載せています)間奏部分はトロピカルハウス風のリズム、歌メロの部分はThe Chainsmokersのヒット曲なんかも想起させるEDMポップ。作曲はIUの他に、最近はNCT 127 "Kick It", OH MY GIRL "Dolphin"などで知られるK-POPのヒットメーカー、ライアン・ジョンと彼のクルーであるデンマークの作曲家クロイ・ラティマが作曲、あとは、作曲・プロデュースにクレジットされているJeppe London Bilsby, Lauritz Emil Christiansenの2人もキーと思います。

この曲は、周囲が作った基準に合っていないという理由で"変わっている"と思われ、疎外感を感じている人へのメッセージが込められていて、その人のことを自分が大切にしたい美しい存在=Celebrityと表現しています(IU本人は曲を作りながら"これは自分の話でもある"とも思うようになったそう)。

[Chorus]
잊지마 넌 흐린 어둠 사이 / 왼손으로 그린 별 하나
忘れないで 君は暗闇の中 左手で描いた星ひとつ
보이니 그 유일함이 얼마나 / 아름다운지 말야 / You are my Celebrity
見える? その唯一さがどれほど 美しいか あなたは私のCelebrity

ここで”左手で”という言葉を使っているのが気になりますが、左利き=少数派の人たちを意味しているようです。歌詞の中では服装、音楽の趣味もマイナーだ、と歌われています。また、公式の紹介文によるとこのシングルのカバーのCelebrityの文字もIU本人が左手で書いたものらしいです。見てみると、決して綺麗な文字ではないですよね。それはきっと左利きでない彼女が書いたからであり、この曲が体現する誰かのユニークさ、不完全さを象徴しているようです。

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私はコーラスの部分の歌詞は、”自分のある部分について問題、欠陥のように感じているかもしれないけれど、それも認めて、肯定的に受け入れて見て。あなたしか持ってない個性、ユニークさだから美しいよ”というメッセージに読めました。聴き手に向けてエンパワー、自己肯定させようとする一曲です。

また2度目のプレ・コーラス(1:38~)では”Blueming” (2019年発表、bloom + blueでできている)、“Love poem”と自らの過去の曲名を引用しています。この曲もまたリリシストとしてのIUを楽しめる一曲です。

넌 모르지 아직 못다 핀 / 널 위해 쓰여진 오래된 사랑시
You have no idea, still not fully bloomed / Written for you (A bygone love poem)
君は知らないでしょ まだ咲ききらなかった / 君のために書かれた 古い愛の詩

20/20 「Celebrity」 (2021)

そして今週3月25日にアルバム"LILAC"を発表しました。アルバム・カバーと公式紹介文の日本語訳を貼ってバイオグラフィは締めたいと思います。

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"アンニョン、花びらのようなアンニョン"
"
私の心に何の疑問もない、次に行くよ"


20代の最後への華麗な'あいさつ'を予告していたIUが、春の香りとともに五番目のフル・アルバム"LILAC"で帰ってきた。 4年ぶりに披露する正規アルバム"LILAC"は二十歳の率直で初々しい感性を盛り込んで発表した20代の初アルバム"二十歳の春 The Spring of Twenty"とはとは異なり、これまで歩んで来た20代を10曲で多彩な視点で紐解き、これまでの成熟した感性を静かに表した。



今回もやはりプロデュースはもちろん、作曲および全曲の作詞に参加したIUは国内外の多様な特級アーティストとの新たなコラボを通じて、ジャンルに対する試みと完成度の高い曲を披露し、現在進行形のIUの音楽的進化が今後、新たに迎える30代にはまた、どのような姿を見せてくれるかという期待感も与えている。



また、今回のアルバムには国内最高のミュージックビデオプロダクションであるVMプロジェクト("Celebrity"、"Flu")、フリップ・エヴィル("Lilac"、"Epilogue")、サニービジュアル("Coin")が一緒に参加して、個々の個性ある、感覚的な映像とIUの音楽が合わさった、強力なシナジーを発揮した。



アルバム名とともにタイトル曲の曲名に使用した'ライラック'の花言葉は'初恋'、そして'若き日の思い出'だ。 20代の最初のページから最後のページまで見守ってくれたすべての人たちに感謝を込めて華やかで、そして少しは寂しくもある、IUだけのあいさつを伝えている。

こうしてIUの代表曲を聴いていくと、アコースティック・ポップ、バラード、ジャズやオーケストレーション、ラテンにボサノバ、ロック、ヒップホップ、EDMなど幅広いジャンルを取り入れながら、コンセプトもその年代に合わせて変え、年を経るとともにより自分と向き合ってきたをことがわかります。特に近年は聴き手を共感させたり、慰めるような歌も。ジャンルに柔軟なアプローチで、自分らしさを追求しながら、大衆にも寄り添いシーンのトップに居続けた彼女は、まさに韓国大衆音楽シーンのポップスターと呼ぶにふさわしいでしょう。さらに、サウンド、ボーカル、歌詞だけでなく、MVや作品リリース時のビジュアルなどにもアートと呼べる要素が散りばめられていて、その全てがIUというアーティストを構成している点も、ポップ・ミュージックという総合芸術にふさわしいと思います。

IU作品の作詞・作曲家

最後に2回の記事でも言及した作詞、作曲、MVの監督など、IUの作品の世界観に欠かせない人物を整理しておきます。

作詞家
キム・イナ

「Not like this」
「Good Day(좋은 날 / チョウンナル)」
「You & I (너랑 나 ノランナ/あなたと私)」
「The Story Only I Didn't Know (私だけ知らなかった話 나만 몰랐던 이야기)、「Scare Fairy Tale」
「The Red Shoes 赤い靴 분홍신/プノンシン」
「Dear Name 名前へ 이름에게」

チェ・ガプウォン
アルバム"IU...IM"、"Growing up"全曲、
「What I'm doing now」、「In a room alone」、「Merry Christmas ahead」

作曲家
イ・ミンス

「Good Day(좋은 날 / チョウンナル)」
「You & I (너랑 나 ノランナ/あなたと私)」
「The Red Shoes 赤い靴 분홍신/プノンシン」
「above the time 時間の外 시간의 바깥」

キム・ジェヒ
「Heart」
「Through the night 夜の手紙 밤편지 (パムピョンジ)」(作曲・編曲) 「dlwlrma 이 지금」(作曲・編曲)
「unlucky」(作曲・編曲)
「My Sea 아이와 나의 바다」(作曲・編曲)

イ・ジョンフン
「Not Spring, Love or Cherry Blossom 봄 사랑 벚꽃 말고 (With HIGH4)」(作曲・編曲)
「Shoes」(作曲・編曲)
「Zeze」(作曲・編曲)
「Twenty-Three 스물셋」(作曲・編曲)
「Red Queen feat. Zion T」(作曲・編曲)
「Palette」(編曲)
「Ending Scene 이런 엔딩」(編曲)
「Can't Love You Anymore 사랑이 잘 With Oh Hyuk」(作曲・編曲)
「Black Out」(作曲・編曲)
「Dear Name 名前へ 이름에게」(作曲・編曲)
「BBIBBI」(作曲)
「Blueming」(作曲・編曲)
「Love poem」(作曲)

MV監督
ファン・スア

「Good Day(좋은 날 チョウンナル)」
「You & I (너랑 나 ノランナ/あなたと私)」
「The red shoes 분홍신」
「The Story Only I Didn't Know (私だけ知らなかった話 나만 몰랐던 이야기)」
「above the time 시간의 바깥」
「Every end of the day 一日の終わり 하루 끝」
「Friday 금요일에 만나요 (Feat. Jang Yi-jeong(장이정) of HISTORY(히스토리))」
「SOGYEOKDONG 소격동」

イ・レギョン(BTS FILM)
「Through the night 夜の手紙 밤편지 (パムピョンジ)」
「Palette」

VM Project
「BBIBBI」
「Celebrity」



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