見出し画像

「カップヌードル」

長女は常々、店のおおきなテーブルを卓球台にしたい、という野望があったようで、このあいだ家族でホームセンターに行った際に、「あ!」とおもむろにスポーツコーナーに小走りし、「これ買って!」と、細長い箱を買い物カゴに入れた。もちろん、卓球セットなるものだった。
夢叶った長女は、「早く卓球やりたいなー」と、ルンルン。
スポーツコーナーのすぐ脇は、防災用品売り場であった。
おびただしい種類の、超ポップなカップラーメンが並ぶ陳列棚をしげしげ眺めていたら、何やら怪しいカップヌードルを見つけた。
てっきりバッタものだと思ったそれは、「トムヤムクン味」だった。
わたしにとってカップヌードルとは、スタンダード味ないしカレー味、という2択で止まったままなので、(夫が『俺はチリトマトが好きだった』というが知らなんだ)「なにこれ!」と、心躍ってしまった。おまけに隣には「ラクサ味」なるものもあって、「ラクサまで!」とびっくりしていたら、「おかーさん、それけっこー前からあるよ。」(『復刻』と書いてあった)と冷静に言われたけど、まぁそれぞれのタイミングなので、わたしにとっては「めっちゃ新しい!すなわち新発売!」なのだった。
もの珍しさに家族分、トムヤム×5個、ラクサ×5個、計10個をカゴに入れると、たちまちカゴはカップヌードルで満載になった。
そんなカゴの内情を見て長女は、「おかーさん、これ(カゴを指差して)波羅蜜のお客さんに見られたらまずいと思うよ。わたしがカゴ持ってるから、少し離れていて。」と、まるで危険物を扱うSPみたいな身のこなしでわたしからサササーっと距離を取った。
カップヌードルがジャンクうんぬんよりも、世界の日清が手がける「トムヤムクン味」の再現度への好奇心の方が遥かに勝っていたので、内実、「なんと思われようが関係ないさ〜」とか思ったけれど、そんな長女の気配りは、ある方向性では的を得ていて、なんだか守られている気分になった。
それだけでもカップヌードルを買ってよかった、とすら思うほど。

帰ってから、非常時を待たずしてトムヤムクン味を試食。
結論からいうと、かなりのものだった。酸味がビシッと(クエン酸だろうか)効いていて、五味のバランスを徹底的に計算し尽くしているんだな、と思わせた。パクチーの味も海老の味もしっかりと感じる。
「トムヤムクンっていったらこうでしょ」と、王道を行く。この調子だったら、仮に「トムヤムクン味」のラムネを作らせたとしても、すごいクオリティで完成させるのだろう、日清食品よ。
(食品成分をいくら読んでも理解できないけど)

以前、沖縄ハレクラニのホテルのバーで、「タコライス」なるカクテルを飲んでみたことがある。恐る恐るひと口、紛れもなくタコライスの味だった。レタスの味も、トマトの味もチーズの味もする。開発した方に説明を聞いたけれど、タコライスのフレーバーを徹底的に研究し、素材からエキスを抽出したり、乾燥させて粉にしたり、鬼気迫る追求がそこにはあった。
そんな飲むタコライスは、2800円。「ゴーヤーチャンプルー」もあったような気がする。

それこそ、昔はそこそこストイックで、長男がちいさい頃はその傾向がいちばんつよく、例えばお友達家族といっしょに出かけた先で、「コーラ飲んでみてもいい?」という長男の好奇心を、むげにも「ダメ」と一蹴したことがずっと心に残っている。長男の隣に座っていたお友達は買ってもらって飲んでいたというのに。
なんて残酷な光景だろうって。「うちはうち」と言えども、こちとらそれほど崇高でもないのにね。
後になって息子は「ダメって言われると思ったよ。やっぱりね、って。」と笑った。

そして末っ子は、屋上階に住むじいじ&ばあばの猫っ可愛がりのおかげで、ヤクルトから始まり、カルピス、雪見だいふく、ごはんですよ、永谷園のお茶漬けと、昭和の味を網羅している。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?