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シリーズ・留学を考える [7] - ホームステイはビジネスなのか?

「出会う人を変える意味」でも書いたけれど、ホームステイのホストファミリーは生活を共にする人たちだから、留学では、学校の先生や友達以上に、留学生活に与える影響が大きい。

その上ホームステイというシステムは、とても変わったシステムだ。

留学生がニュージーランドに到着した日に、いきなり初対面の人の家に行って、その日からずっとそこに滞在する。全く知らない人の家にいて、どこに何があるのかもわからない状態で、自分の部屋といわれる見たこともない部屋で暮らし、ホストファミリーの話している言葉もほとんどわからず、食べたことがない食事が出て、生活の時間もそれまでと大きく変わる。

そんなことは、長い人生でもあまりない。

そんな変わったシステムにもかかわらず、ホストファミリーと仲良くなり、いろんな経験をして、文化を理解し、英語力を伸ばして、楽しい想い出をたくさん作り、帰国するときには別れたくないと涙を流し、帰国した後も連絡を取り合って、家族のような関係を一生続けていく留学生たちもたくさんいる。どちらかといえば、そういう留学生のほうが多い。

ニュージーランドの場合、留学生は留学先の学校を通して、ホストファミリーにホームステイの費用を支払う。中学高校留学では毎日3食がついて一学年間NZ$13,000 からNZ$15,000程度だ。オークランドのほうが地方の都市よりも少し高い。

ホストファミリーは留学生からお金をもらってホームステイを受け入れている。だったらそれは「ビジネス」なのだろうか?

「ビジネス」の定義は難しいけれど、ここで言う「ビジネス」とは「お金をもらって利益を出す活動」としたいと思う。「ホームステイって儲かるのか?」ということだ。

具体的に費用を見ると、ニュージーランドの中学高校留学の場合、一学年間で約NZ$14,000前後の費用をホームステイに払う。日本円にしてだいたい100万円だ。週当たり2万2千円程度、1日3千円程度の計算だ。

ホームステイ費用に含まれるのは、個室での宿泊、1日3回の食費、光熱費、インターネット、リネンなどの洗濯、などが基本だ。それに加えて部屋の掃除をしてくれる場合も多い。もちろん、安全と健康の確保は前提だ。だだし、学校までの送迎費用は含まれない学校がほとんどだ。

それで1日3千円。

私の知り合いでも、ホストファミリーをしている人もいる。その人たちに話を聞くと、今のホームステイ費用だと、正直マイナスになるときも多いという。

特に、冬の暖房費が高い時期は、今の費用だと足りないという意見が多い。

もし、ビジネスの定義を「お金をもらって利益を出す活動」とすると、「ホームステイって儲かるのか?」という質問への答えは明らかにNOだろう。だから、ホームステイはビジネスとは言えない。

では、なぜホストファミリーは、留学生を受け入れるのだろうか?儲からないならやらなければいいのに。

いろんな人に聞いてみると、やはり留学生を受け入れること自体が彼らにとっての経験になるという意見が多い。特に子どもがいる家庭は、いろんな国から来たいろんな文化やバックグラウンドを持つ、異なる言葉を話す人と一緒に生活をすることで、知らなかったことや気づかなかったことを理解し、それを楽しみ、成長することができる。

また、自分が海外に行ったときにいろんな人にお世話になったから、今は留学生を受け入れているという人も多い。自分の経験を活かして留学生を見守る。

お金をもらっているとはいえ、そこから利益を得ることを第一の目的とせず、自分や家族の経験、そして海外からくる留学生のためにホストファミリーをしているという人が多いのだ。

少し前ならホームステイをしてお金を稼ぐという人も中にはいたかもしれない。でも今はAirbnbというまさにビジネスが出てきて、お金を稼ぎたい人はそっちをやる。Airbnb なら一人一泊素泊まりで5千円くらいの収入は見込めるだろう。

中学高校留学生のホストファミリーなら、教育的指導をせざるを得ないこともあるし、成人の留学生よりも安全により気を使わないといけない。それがわかっていてあえて中学高校留学生を受け入れるホストファミリーは、「儲かる」以外のところで強い動機がないとおそらく長くは続かない。

ただ、「私はお金を払っているんだから、ホストファミリーにいろんな希望を言う権利があるんです」という留学生もごくたまにいるらしい。おそらく無意識なのだろうけれど、そう言った瞬間に、「ホームステイはビジネス」だと言っていることに気づいていない。

でもホームステイの多くは、「儲かる」以外のところで強い動機をもってやっている。つまり動機がお金ではない。そこに誤解や行き違いが生れる。

ただ、留学生の多くは「家族のように扱ってほしい」と言い、ホストファミリーは、家族にとっていい経験になるとか、自分の経験をから留学生を見守りたいなどと言う。こういう関係なら、どちらの希望も多くの場合はかなえられる。そんな例を数多く見てきた。

けれど、どちらから一方が、ビジネスの関係をそこに持ち込むと問題はシンプルにはいかない。留学生が「お金を払っているのだから希望を聞いてほしい」と言い、ホストファミリーが「少しでも利益を出したい」と望むと、それはビジネスになる。

初めて会う人と生活を共にする。それを長く続けていくのはとても難しい。特に、十代の人たちは、まだまだこれから成長するので、毎日の生活でいろんな問題も出てくる。

でも、留学生もホストファミリーも、そこにビジネスを持ち込むのではなく、それ以外の目的を確認しあいながら暮らしていくと、人生にわたって長い付き合いが続く新しいファミリーとなるだろう。

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