ラーメンを食べに行ったら上にケーキが乗っていた
映画刀剣乱舞 黎明について、とりあえず、主観の感想をばーーーーっとまとめて、他の方のつぶやきや感想を見ていたら、またなんとなくこういうことなのかな、というのがわかってきたので書き留めておきます。
※ネタバレがっつりあります。
※マイナスの感想になるので、見たくない人はスルーしてください。
※個人の感想です。楽しかった、面白かった、という誰かの気持ちを否定するものではありません。
※前回の感想はこちら。
こちらもネタバレあり・辛口なので、見たくない人はスルーしてくださいね。
こちらのツイート拝見して、ああ、なるほどなあ。と腑に落ちた部分もあります。女子高生を「主人公」と据えて彼女を追うつもりで物語をもう一度追えば、すとんと落ちる部分も多そう。
ただ、やっぱりそうだったとしても自分の中では「惜しい」という評価になってしまう。そもそもこういう形で誰かが気づいたものを読まないと「そうだったんだ!」にならないストーリーテリングという段階で、話の作り方が上手くない。
私が「いや、お前が言うなよ」と思ってしまったラストの説得シーンにしても「歴史を作るのは人間の思いだ、人間の思いが積み重なってそれが歴史になっていくんだ。だからお前が今諦めたら『本当の弟』の歴史を語れる人間はいなくなって、歪んでしまうんだぞ、何にも残らないんだぞ」ということを伝えたかったのなら、もっと、わかりやすく、そう言ってくれ。
(物の声が聞こえるけど、聞く気がないからノイズにしか聞こえなかった~云々って言ってた気がするんですけど、それがどう伊吹くんの説得に絡むのかがわかりにくいので何をいきなり自分語りを……? って思ってしまう人もいるだろうし私もそう思ってた気がする)
そこに持っていきたいのなら、事前に見せるべき情報や伏線があって、提示されていたのかもしれないけど話がとっちからかっているので印象に残らない。
あとこれは、なんというか「広告の打ち出し方」が問題だった気がします。
「女子高生を主人公に据えて人間視点から刀剣乱舞という物語をつくりたい」だったら、広告として打ち出すべきは「主人公は女子高生である」ということがわかるような情報のはずなのに、ポスターは刀剣男士ばかり。
事前情報も初出しの段階では仮の主がいるという情報はなく、あと出しで「女子高生含め人間とがっつり関わるのかな?」という出し方をされました。
今まで刀剣乱舞の作品で、人間側の主観で物語が動いたことはなく、だからこそちゃんとそこをわかるように打ち出さなければ「これは(いつもの感じの)刀剣男士がメインの物語なんだな」って皆が思うのは仕方ない。
それをプロモーションしなかったのは、邪推をすれば「女の子がメインっていうと、客が来なさそうだなあ。それなら男士を打ち出しておけばとりあえず来るだろ」って扱いをされたのかなと思ってしまう。男士=客寄せパンダですね。
確かに、実際にそういうプロモーションをしたら、行かない、という選択をした人もいると思います。ただ、作品の性質を取り違えることはないし、それでも面白ければ「とにかく騙されたと思って見に来て」と自分たちで発信しだすのがオタクです。
大人の事情なのか、誰が、どこが決めたことなのかわかりませんが、これによって深刻な「初期イメージの乖離」を起こしたまま映画を見た人たちが戸惑いとがっかり感を覚えてしまっているという状態になっている気がします。
まあ「ラーメン屋」って書いてあってラーメン食べられる! って思って入ったのに、出てきたのが寿司だったら皆「は???????」ってなるよね。
過去「ラーメン食べに行ったら寿司が出てきた」は刀ミュの源氏双騎でも言われていたことなんですが、それに対して「なんで寿司出すんだよ!!」ってなるのは別におかしいことではないですし、あれも公式の打ち出し方もうちょっとなんとかならなかったかな、というものではあります。
ただ、同時に一部の人にめちゃくちゃ刺さったのは出てきた寿司の完成度がめちゃくちゃ高かったから。ラーメン食べるつもりだったけど、出された寿司がめちゃくちゃ美味しかったのでこれはこれでアリだな! となってしまった層が一定数存在します。公式が狙っていたのかはわかりませんが(もっと広く受け入れられると思っていたら思った以上の反発をくらった可能性はある)
ただ、そもそもそれ自体がとても稀有なことかつ、それを狙うのなら「こっちの方向に振り切るんだ!」というある種の突き抜けが必須になってきます。この映画にはそれがない。
「こっちが出したいのはケーキなんだけど、客が求めてるのはラーメンなんだよね……じゃあラーメンの上にケーキ乗っけておけば満足してもらえるんじゃないかな?」という中途半端さ。結果、単体で食べれば両方素材も良くて美味しいものなのに、混ざったせいで美味しくない、みたいな不幸が起こっている。
こちらも「ラーメンだと思ってたら寿司だったわ」と言える完成度のものが出てきたなら、食べ終わった時点で「寿司は美味しかったか」「そもそもラーメン屋の看板出してるのに寿司が出てくるのはどうなのか」から話を始められるのに、まず「何を食べさせられたのか?」から考えなくてはいけないので、困惑と不満が残る、みたいな状態な気がします。
日和るな……お前が食べさせたいものがケーキなら最初からケーキ屋の看板を掲げろ……ラーメンの集客力に頼ろうとするな……
もちろんケーキラーメンをめちゃくちゃ美味しく仕上げてくれる料理人もいると思います。そうだったらよかったよね、って思います。ただ、今それを狙わなくて良くない? っていう。難易度が超難だし、ラーメン屋として売ったあとであえてそこに挑戦する必要も無いと思う。
いろいろ大人の事情があったんだろうなーとは思います。
ああいうシーンを入れてくれ、これを出してくれ、こういう展開にしてくれ。そういう要望をすべて拾おうとした結果、とっちらかったのかな、って気がします。
ただそれは、ファンには関係のない話だし、ファンを客層のメインターゲットとしているのであればファンが見たいものをちゃんと拾う必要があるのではないかと思います。
ファンに媚びろってことじゃないんです。納得できる完成度のものが見たい、ただそれだけです。それが全く新しいものでも構わない。誰が主役でも構わない。全員が満足いく作品はあり得ないけれど、お前に刺してやる! という熱を感じられるものが見たかった。
余談ですが、今作、画の撮り方にしても、メイクにしても、衣装にしても「刀剣男士をかっこよく、美しく撮ろう」という熱意があまり感じられない気がしました。
前作は「絶対にこのカットで殺してやる」という熱を感じさせる、はっと息を飲むようなカットがたくさんあったのに、今作はそれがほぼない。
今の一瞬の動きがすごくよかったな、はたまにあるんですが。
これも、何を見せたいんだろう……というぼんやり感につながっている気がします。VFXを見せたかったの? 酒呑童子の首が一番気合入ってたもんな。
多分これが他の作品の実写化なら、今回が初の実写化なら「全然見られるじゃん」で終わったんだと思います。
ただ、過去作がある。他のメディアミックスがある。刀剣乱舞という作品から生まれた心を震わせる作品を知っている。
もっと素晴らしいものが作れる、それを知っているだけに残念でなりません。
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