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※ネタバレあり 映画刀剣乱舞 黎明を見てきた話

映画刀剣乱舞 黎明を見てきました。
※ネタバレ含む感想になるので、未見の方はご注意ください。
※マイナスの感想を多々含むので、そういうの見たくない!って方はスルーしていただけますと幸いです。



ざっくりとした全体の感想で言うと「素材は良かったし、おいしくなる可能性は十分あったのに、全体的に料理の仕方がおいしくなかった」みたいな印象です。ただし、食べられないほどおいしくないわけでもない、という……

いいところから。
現代の景色を背景に、大立ち回りをする刀剣男士が見たい! という希望をかなえてくれます。これは今までにないビジュアルでわくわくしますよね。学校の屋上で、ぼろぼろのアパートの廊下で、空港で、渋谷のど真ん中で戦う刀剣男士。いい。エモい。そういう絵面大好き。
心配していた人間キャストも、個人の感想になりますが、鼻につくようなキャラはおらず、素直に受け入れられる性格設定の人たちばかりでよかったと思います。神主の倉橋さんがキュートで穏やかなおじさまで素敵でした。ギャルもかわいかった。あれはオタクに優しいギャル。
なので、悪いところばかりではないんですが、じゃあ手放しですごくよかった!!と言えるかというと……うーん……見たいものではなかったかな、というのが正直な感想です。

まず、これは刀剣男士の物語ではないということ。どちらかというと人間サイドの物語なんですけど、じゃあ主人公は誰なのかと言うとそこもぼやっとしている。三日月の仮の主になる女子高生が主人公? なのかな? という感じなんですが、それにしては彼女の内面的な部分はふわーっとしか見えてこず、じゃあ三日月が主人公なのかな? というとそれはそうではない。主要登場人物ではあるんですが、主人公ではない。女子高生と三日月のバディもの、として見るには関係性の構築が甘いし、刀剣男士は謎の事態に「これってどういうことなの?」というムーブをしつつ現状の対処に精一杯、という感じで後手後手に回っているようにしか見えない。
なんだか、主軸がふわーっとしていて何を見せたいのかよくわからない映画になっている。刀剣男士の活躍を見せたいのか、主人公の女の子の成長を見せたいのか、どっちつかずでメッセージが伝わってこない。
主人公ポジションの三日月と女子高生がそんな感じなので、他の男士&仮の主ペアの関係性はもう、ぺらっぺらです。長義の仮の主の政府役人の各務くんのセリフ、片手で数えるくらいしかなかったし、最後まで「冴えない窓際役人」でしかなかった。ギャルはギャルであるがゆえにキャラが立っていたので一番印象に残ってますが、それでも足りない。もっと長谷部とのやりとりを見たかった。倉橋さんもそう。多分、見えないところでいろんな話のやりとりや、関係性があったと思うんです。でも想像するしかない。それが見たいのに。すっぱり切って女子高生と三日月の関係構築に全振りするならそれはそれでアリだったと思うのに、あちこちをつまみ食いするように見せるから、どれも中途半端な印象です。
話もそうで、山姥切がどうしてあの伊吹という少年に付き従っていたのか、どこで出会ったのか、結局あの「弟」はなんだったのか、どうしたかったのか、こういうことなのかなあ? と想像しないと話が補完できないので、そういうことに慣れていない、苦手な人だとなんで????? で話が終わっちゃいそうな気がします。尺が足りてない。足りてない割にテンポが悪い。詰め込みすぎた結果どれもおいしくない、みたいな状態になっている。
人間視点からの刀剣男士の物語が見たい、って人も、刀剣男士メインの物語が見たいって人もなんか物足りない、みたいな感じになっている気がします。

あとまあ、ビジュアルは、まあ…………まだもうちょっと頑張れたと思うんですよね…………男士のメイクにしろ、ウィッグにしろ、衣装にしろ。特にウィッグ。ぼさぼさなのが気になってたけどやっぱりぼさぼさでした。レイヤーさんの作るウィッグのほうが質が良くて綺麗な気がする。
カメラでの映し方も「もっとこの人を綺麗に映せる撮り方あるはずなのに」って場面が多々ありました。絵として美しい、みたいな画面がほぼない。これは好みかなあ。全体的にVFXやCGも含めて画面がチープで私の好みではなかったです。今回のほうが予算上がってるはずなのに、前回のほうが全体的に画面の作り方も重厚で上質だったのはなんで。お金はどこに消えたの。

あと一番気になったのは、現代日本を舞台にすることによって起こる「消しきれないモブの不自然さ」
ラストの渋谷での戦闘で、男士たちを取り囲んでる群衆は何やってるんですか?立ってこっち見ながら無言で「頑張れ!」みたいな顔してるけど、そうはならんやろ、って思ってしまった。刀振り回してるよくわからない集団がいたら、私なら逃げます。撮影だと思っているならカメラを向ける人もいるでしょうし、自分たちのために戦ってくれてる、って認識なら声を上げて応援したり、遡行軍が倒されたら歓声を上げたりするもんじゃないでしょうか。それが、ただ無言で取り囲んで立ってるだけ。何やってるんですかあれ。
前列をほぼ若い女の子たちが埋めてるのも気になりました。渋谷って場所柄若い人が多いのはわかるんですが、ほとんど男性がいない。意図的に顔をアップにしたカットを挟んだのは「これはあなたたち(ゲームのプレイヤーである審神者)ですよ」ってことを暗喩したかったんだと思うんですが「誰しもが審神者になる可能性を秘めている」という結論にしたいのなら、若い女の子ばかりを審神者の象徴として見せるのはしっくりこない。

主人公のよくあるヒロインムーブラスボス説得パートは『ワシお前のこと全然わからんから勝手言ってごめんな!! でもお前の知ってる弟はどう思うかな!?』って路線の説得だったのでまあ、ギリ、その方向性の説得ならまあ、って思いはしたんですけど、ぶっちゃけ相手からしたら『お前に何がわかる』で終了なんですよね。伊吹くん聞いてくれるから良い奴だな……って思ってました。特殊能力に悩みつつも、恵まれた環境(私立っぽい女子校に通わせてもらって、2012年に自分用のスマホ持ってるだけの財力が家にある)で生まれ育ってる主人公が、どう考えてもアレな伊吹くんに弟さんはそんなこと望んでないんじゃないのムーブしても逆にうるせえ!!で終わるのでは……説得されるだけのフックがない。二人にお互い共感できるポイントがないのに説得されてもなあ、っていう。特殊能力関係で弟もそういう力持ってたとか、せめて弟じゃなくて妹だとか、もしくは主人公も昔弟を亡くしたことがあるとか、なんか引っ掛かりがないと空回りしてるようにしか見えないんですよね。そして尺が長い。伊吹くんの説得するならまんばくんが説得した方が納得いく流れになった気がするんですが……その間三日月もまんばくんも口出さずに大人しくしてるだけだしなんだろうこれ……なにやってるんでしょう……?

なんか「こういうのを求めてるんだよね?」って出されたものがこちらのニーズから外れている居心地の悪さを感じます。なんとなく、価値観が今にあっていないというか、アップデートされていない感じがあるというか……「良くも悪くもおじさんが考えた話」って感想を見かけたんですが、しっくりきました。おじさんがかわいいっていうピンクかわいくない、ってやつですね。
四年前、これが初の実写映画作品、として出されていたら普通に受け入れていたと思うんですが、一作目が良すぎたんですよね……こういう実写が見たかった、がほぼ全部叶えられていたので。この尺でこの話をちゃんと展開してたたんだ上に、男士のキャラクター性までちゃんと描き、歴史の上で人はどう生きるのか、男士はそれをどう見ているのか、まで書いてくれた。あれが奇跡だったんだな……

お話としてすごくだめ、ではないです。クライマックスの渋谷の戦闘シーンはテンションわーーーーー!!!って上がります。でも刀剣乱舞を知らない人にはおすすめできないし、知ってる人にもちょっと手放しでおすすめはできないかな……好きな人は好きだと思います。私は前作のほうが好きでした。脚本はいろんな事情で当初の予定とは変わってしまうことも多々あると聞きますが、基本の部分が面白そうなだけに、どうしてこうなったんだろうを感じる作品でした。ある意味で「よくある実写化」と言えるのかもしれません。おいしくなる要素はたくさんあったと思うんだけどな~~~~


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