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今、フィリピンでキチママと暮らしてます。(19)

決別



それから何事もなく、週末を迎えた。

もう忘れてるんだろうなと思っていた頃、私が娘と遊んでいて、携帯を部屋に取りに行った時、ベットで横になっていたキチママが、

「来週出ていくから。もう次の家も決まって頭金も払ってるんだ。明日まで当面の養育費、用意してね」と顔もあげようとせず、そんな話をしてきた。


え?前金払ったって、どこにそんなお金が?

一瞬凍りついた。

キチママにはそんなにお金を渡していないし、今は妊娠中だからビジネスもできないし、お金があるハズないんだが・・

と思って少し考えてから、はっとした。

そういえば、フィリピンの社会保険に当たるフィルヘルスという制度があるのだが、前もって払うと病院や治療費を一部免除してくれるが、キチママは

「そんな将来病気にかかるか、かからないかわからないのに、そんなことにお金を払うなんて、馬鹿じゃないの?入っている人たち、みんな頭が悪いよね。」

3歳児なみの知恵しかないキチママは保険という仕組みや制度を理解していないのでそんなことを言っていた。

払うのは自分なのに、ずっとフィルヘルスに入るのを拒んでいたので、代わりに将来キチママが病気になったときのためにと投資信託を積み立てて運用していた。

しかし臨月を迎えたキチママが先週、医者に加入を薦められ、フィルヘルスに入りたいと急に言ってきた。

正直、いまさら何を言ってんだ?と思ったが、私にとっても悪い話ではないと思いお金を渡していたが、ちょっと多かったのでちゃんと払ってくれるか、心配だったがやはりこうなった。

犬のために引っ越し?
保険払わないで、家の頭金?

頭いかれてるのか、こいつ。

というか、それ以上に犬のためにそこまですることなのか?犬と住むために、家族をバラバラにして、頭がどうかしているとしかいいようがない。


「いや、ちょっと待てよ!考え直してよ!それじゃ今まで何のために、頑張ってきたか、わからないだろ!」

と、私がそういうと、「もう決めたから!」としか言わない。

お腹の子供も数週間後には産まれるというのに、正気か?

この人はそんなことも、考えられないのか?

でも、キチママのことだ。きっと本当の理由は他にあるはず。犬はただの口実でしかないと思った。

犬のためになんかじゃないでしょ?本当は何なの?と聞くと、どうやら理由は他にもあった。それは家だった。

実は私は社宅に住んでいるが、今年初めから急に社宅から引っ越したいとキチママが言い出した。今の今まで一度もそんなこと言わなかったのに。しかも、1週間以内に次の家を見つけなかったら、家を出て行くとまで。

結局、その理由は居候たちがくるからだったんだが、居候(姉)に勉強部屋を与えてやりたいという親心のようなものかもしれないが、会社の都合もあり、結局引っ越しもしなかったのを、根に持っていたらしい。

引っ越しできないと言った日、家に帰ると薄暗い部屋で一人泣いていた。キチママは自分の思い通りにならないといつも悔しく泣く。


それに、社宅からどうしても出たかった理由はまだある。

社宅だと全て会社の規定やルールに縛られてしまう。キチママが好きな時に、好きな家に引っ越すことができない。何でも自分の物にしたい。思い通りにできるから。だから何が何でも社宅から出たいということだ。

私からすれば、実費負担がない社宅にいた方が固定費を節約できる。

ただでさえクレクレ、買え買え言ってくるキチママなのだ。

今は贅沢をしたり、大きな家に住むことより、子供たちの将来に資金運用が大事と説明していたが、キチママはそのたびに「教育なんて必要ない、大学にも行かせなくていい」なんてことをずっと言ってよく口論になっていた。

そもそも犬を持ってきたのも姪っ子だし、この引っ越しは全て彼女のためにやっているようなものだが、それが余計に腹が立つ。

今までずっとキチママの横暴さに「子供ため」と思い、友人を失ってまで、職場や親にまで迷惑かけてまで耐えてきたのに、犬と姪っ子のためとは・・あんまりだ。理不尽すぎる。

「もうすぐ子供が産まれるんだぞ。犬だって、引っ越しだって今することじゃないだろ」と言ってはみたが、案の定返ってきた答えは「そんなのどうにだってなるわよ!私は今すぐ引っ越したいの!」と先のことを全く考えず、今よければいいという考え。子供のわがままみたいなもんだ。


「わかった。でも最後にもう一度聞くぞ。これが最後だぞ。お前はそれでいいんだな?犬だっていつまで生きてるかわからないぞ?姪っ子だってもう18歳だ。卒業したら、家にいるかわからないよ?そんな今だけのために、俺たちの30年、40年を棒に振ってもいいんだな?」と最後に聞いてみたが、

一瞬考え込んだように見えたが、「That is life(それが人生よ)」と訳の分からない答えをしてきたキチママにあきれ、もういいやと思った。

きっとこの人に今何を言っても無駄だろう。

新しい家と犬と姪っ子たちとの楽しい生活に夢中になっているキチママに30年後の未来のことを話しても理解できないだろう。

フィリピンにきてから、それはずっと思ってる。この人たちはいつも「今」のことしか考えない。明日以降のことは明日考えればいいと。

明日は雨が降りそうだ。傘を用意した方がいいんじゃない?というと、「こんないい天気で雨なんて降るわけないでしょ」と笑われるように、この人たちに数週間後の話をしたって到底理解してもらえないのはもうわかってることだ。

日本人とは違う。

大昔から我々は毎年冬の備えをしないと、死んでしまう環境にいたが、この人たちに冬はなかった。年中、そこら中に食べ物があふれ、気温もあったかいから、半年後のことなんて考えてもこなかったんだろうと思う。

そのDNAが組み込まれている人たちを理解しようとすること自体が時間の無駄だ。

だから、もういいや。

そう思い、部屋を出た。

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