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【開幕レポート】「うた」が導く愛の物語『彼方からのうた -SONG FROM FAR AWAY-』

 8月2日(金)、舞台作品『彼方からのうた -SONG FROM FAR AWAY-』が吉祥寺シアターにて開幕を迎えた。本作は、ローレンス・オリヴィエ賞やトニー賞を受賞した劇作家サイモン・スティーヴンスと、シンガーソングライターのマーク・アイツェルが脚本を手がけた作品だ。演出は、来年2月に世田谷パブリックシアターでサイモン・スティーヴンス作品のダブルビル公演を控えている桐山知也。翻訳は、過去にもサイモン・スティーヴンス作品の翻訳を手掛け、信頼関係を築いてきた髙田曜子が務める。出演は宮崎秋人溝口琢矢伊達暁大石継太の、年代やバックグラウンドの異なる4人。イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出による初演時には1人芝居として上演されたこの作品を、4人の出演者でどのように描くのか。本レポートでは開幕の様子をお届けする。

 舞台上に組まれたブルーグレーを基調としたセットを、蛍光灯の無機質な明かりが照らしている。ニューヨークのビジネスマン・ウィレムが取引先と商談をしている最中、母から着信が入り、弟のパウリが死んだことを知らされる。ウィレムは弟の葬儀のために、長く離れていた故郷・アムステルダムへと向かう。

 この作品は、ウィレムが道中に弟へ書いた手紙を読み上げるモノローグで展開されていく。受け取り手が不在の手紙には、帰郷のなかで再会した家族や過去の恋人との関わりが率直に記されている。モノローグでありながら、関わった人たちがそこにいるかのように姿を浮かび上がらせる。4人の俳優は、青年から壮年まで異なる年代のウィレムを演じる。人間が歳を重ねるごとに変化するように、4人のウィレムも、ひとつの手紙のなかで違った振る舞いを見せる。それは再会した相手との距離だったり、物事の受け止め方だったりする。シンプルな構成だからこそ、俳優の力量と、演出やステージングの精緻さが際立つ。4人で演じることにより、ウィレムという人物の歴史が多層的な深みをもって現れる。私にはそれが、世界へ、全人類へと向かうような広がりにも感じた。

 『彼方からのうた -SONG FROM FAR AWAY-』は、現代を生きる人間を描いた作品だ(余談だが、意外とビジネスマンを主人公とした演劇作品は少なく、新鮮に感じた)。この作品で描かれた一人の人間にとって決定的な、特別な瞬間。それはこれから私にも、あなたにも起こるかもしれない。その瞬間、「うた」は心にどう響くのか。実際に歌唱のシーンもあるが、ぜひ劇場で聞いてみていただきたい。本作は8月13日(火)まで、吉祥寺シアターにて上演される。近年日本でも上演が増えつつある劇作家サイモン・スティーヴンスによる注目作の日本初上演だ。ぜひお見逃しなく。

公演情報:彼方からのうた -SONG FROM FAR AWAY-|吉祥寺シアター (musashino.or.jp)

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