めぐり愛 後半

チャイナタウンにあるこのスタジオに初めて訪れたのは2017年。例年行われるコンサートの初日だった。そんなにライブ音楽好きならと紹介してくれたのは同じアートスクールを出た旧友。実にそのコンサートの専属シェフも30年以上やっていた。彼女は素晴らしいアーティストや教育者だけでなく、さりげなく料理もとてもうまい。後々、彼女の料理のお手伝いとして誘ってもらうことになる。


一昔前のニューヨークに存在していた「スウェットショップ」と呼ばれる搾取されるタコ部屋縫い物工場跡をうかがわせる、のっぺりとした外観のビル。大きな重い鉄の扉を開け、建物の中に入った。郵便受けが横一列で埋め込まれた壁面。その真上にある長方形のスチール製ケース内に住人達のリストが表示されている。ひと眺めしたところで記憶しているのは、棟数自が少なくビルで、全階あわせて8世帯ほど。

右手には厚い木の手すりと鉄製で飾られた大きなタイル張の踊り場のある幅広い階段があった。高い天井からくさりで吊るされたアンティークの大きなランプ型照明が目にとまる。きっと一度はガス灯だったと想像する。それとは対照的な後で作られたであろう小さなエレベーターが左手にある。大人4人乗ればきゅうくつ。


そのロフトへ初めて足を踏み入れた夜、最前列の席に腰かけた。ハンガリーの現代音楽シーンの仕掛人であるふたりのアーティストのコラボ演奏を体感した。前衛音楽と映像あらゆる言語で書かれた文章を朗読する声が流れてきた。ことばの意味は英語と日本語を聴いた時しか分からなかった。

その音が聞こえてくる方向を見たら、前方右手の床に少し斜めの角度で置かれている三つの異なったメーカーの大きなスピーカーがあった。その真ん中から、透き通った音声がわたしの耳に伝わってきた。子守唄のように「音楽」という言語を使って話しかけてくるように距離感が近い。

その途端に脳から不思議な液が分泌され気持ち良くなった。そのスピーカーには修理がほどこされた跡があった。垂れ下がっている途中で固まったコールタールのように黒光りし液体が側面についていた。ホコリをかぶり年季の入った箱の外見に関係なく、中身の方は普段から手入れされているのが見て取れた。

よく目を凝らしたら小さな金色のプレートに印刷され少しかすれた黒いロゴ。そこに『クリプシュ』とのスペル。『ラ・スカラ』という名前のフロアスタンディング・スピーカー。どうして自分の耳が反応したのか納得。大阪のパーティー『モード』で、このスピーカーの良質な音を体感させてもらい、ブルックリンのパーティーの後、友人家でも、同タイプが置いてあり音楽を聴かせてもらってもいた。


のちにフィルに聞けば、彼が自分の手作りスピーカーを作ったあと、クリプシュの公認ディーラーで、沢山のスピーカーを販売したと言っていた。


めぐり愛とはこういうこと。



前編に書いたアーサーに関して、フィルから聞いた話をm書きたかった。今、動画仕上に追われている最中。なので、また改めて別の日に書こう。

48歳から人生の本編スタート。「生きる」記録の断片を書く活動みならず、ポエム、版画、パフォーマンス、ビデオ編集、家政婦業、ねこシッター、モデル、そして新しくDJや巨匠とのコラボ等、トライ&エラーしつつ多動中。応援の方どうぞ宜しくお願いいたします。