見出し画像

柔軟性と先見の明をもつ気鋭の酒蔵

 KIBITAKI プロジェクトでは双葉町における食を通じた町の再出発について、さまざまなゲストをお招きしてお話を伺います。
 第4回のゲストは新作クラフトジン「ふたば」の原料が旅をした、鳥取県にある酒蔵「千代むすび酒造」の岡空聡さんです。鳥取から世界へ数々のお酒を送り出す、老舗の伝統を引き継ぎながらも臆することなく新しい技術に挑戦し続ける気鋭のつくり手。今回のゲストはどのように双葉町と結びつき関わっていくのか。KIBITAKIプロジェクトの3名とともに話しあっていただきました。

ゲスト プロフィール
  岡空聡 おかそら そう
千代むすび酒造株式会社 社長室長
蔵人として酒をつくり、販売、営業まで積極的に務め、日本でつくった酒を海外各国へ輸出するため精力的に活動中。
KIBITAKIメンバー プロフィール

  高崎丈 たかさき じょう


元JOE’S MAN 2号・キッチンたかさき オーナー(新規店舗開店準備中)


日本酒のお燗を広める活動を展開中

株式会社タカサキ喜画を双葉町に設立


  小祝誉士夫 こいわい よしお


株式会社TNC 代表取締役/プロデューサー


海外70ヵ国で展開するライフスタイル・リサーチャーを運営し、

国内外での事業クリエイティブ開発をおこなう


  島野賢哉 しまの けんや


株式会社サムライジンガ 代表取締役/プロデューサー


ブラジル、台湾における芸術文化を中心としたプロジェクトに携わる


クリエイティブサウンドスペース 'ZIRIGUIDUM'(ジリギドゥン)創設者

島野:今回は丈さんからのご紹介でご参加いただきました、千代むすび酒造さんとの対談です。千代むすび酒造さんの普段のお仕事のことから、食を中心とした双葉町の町の再出発をどのように発展させていくかという、われわれのKIBITAKIの活動につながるようなお話をしていきたいと思っています。岡空さん、よろしくお願いします。

岡空:よろしくお願いします。仕事の話を始めますとキリがないんですが(笑)けっこういろんなところでお話をさせていただく機会があって、そのたびにいままでやってきたことや、いま思うことを話したりして、過去と今後を整理するいい機会になります。こういった機会はありがたくて、それによってどんどん変わっていくんですよね。

島野:そうなんですか。岡空さんと丈さんがどのように知り合われたか、前回の山口歩夢くんとの関わりなどもお聞きしたいですね。

岡空:わかりました。質問があればなんでもお聞きください。千代むすび酒造は1865年から今年で創業156年、いまは私の義理の父が5代目の社長を務めており、私がつぎの6代目候補ということになっています。私が生まれた家は蔵の近くの大山町(だいせんちょう)というところですが、酒蔵とはまったく縁がありませんでした。大学を卒業したあと地元の銀行に勤めて、そこで千代むすび酒造の長女さんと出会い、2011年に結婚しました。結婚とともに名前は岡空に変わりましたが、しばらく銀行の仕事は辞めず転勤で近畿に住んでいたところ、いまの社長からご相談を受け34歳のときに後を継ぐ決意をして地元に戻り、千代むすび酒造で働くことになりました。仕事を始めてから3年半ほど経ちますが、いろんな経験をさせていただいています。製造現場に入ったり、営業をさせてもらったり、そのなかでたくさんの方にお会いできました。千代むすび酒造は日本酒を主軸としていますが、35年ほどまえから焼酎もつくっております。ちなみにいまも当時とまったくおなじ蒸留機をつかっています。それから焼酎をベースにリキュールをつくったり、2年前からはジン、昨年からウォッカ、今年からウイスキーもつくっています。全国的な規模でいえばうちはそれほど大きな酒蔵ではないのですが、なんでもやろうということでさまざまなお酒をつくっています。地ビールをつくったけれども続かなかったという失敗などもありましたが、失敗をふくめた多様な経験がいまにつながっているとも感じています。

島野:濃密な3年半ですね。

岡空:サラリーマンで銀行員をしていても3年半なんてすぐ終わってしまうので。こんなに考えて行動することはたぶんないですね。なぜお酒を作っているのかということまで考えますからね。

小祝:2年前からジンをつくられていたんですね。

岡空:はい。ジンを始めたことがきっかけとなって山口くんや、山口くんの所属する「エシカル・スピリッツ」さんに関わっている「未来日本酒店」さんの山本社長と出会うことができました。彼らとは本当にいろんなことをさせていただいています。「エシカル・スピリッツ」さんのつくる「ラストジン」の蒸留をうちにお任せしていただいたのですが、他社の「真澄」さんの焼酎が瓶ごとドカンと届いて、それをジンにするという、これまでやったこともない仕事でした。いまはビールを蒸留するお話もいただいているのですが、そういった新しいことをやってみることが酒蔵としていままでまったく頭になかったんですね。「エシカル・スピリッツ」さんの取り組みは本当に素晴らしいと思っています。どうしても副産物として酒粕はかなりの量が出るのですが、どの酒蔵もその有効活用は永遠の課題で、酒粕が古くなってしまうと有料で廃棄することになったりします。うちが酒粕焼酎を過去からつくっていたことがよかったのかなと思っていますが、その焼酎づくりで得てきたノウハウが「エシカル・スピリッツ」さんの取り組みとちょうど合致したように思います。いろんな経験を経たうえでの今回丈さんからいただいた双葉町のジンのお話だったので、福島の酒粕からアルコールをとることができました。多種多様なお酒をつくることが効率的かといえば、集中して日本酒だけをつくっているほうが効率がいいじゃないかという考え方もあると思うのですが、うちは逆の発想でいろいろなことをしていくなかでつながりや可能性が広がって、結果としていいほうに向かうことがあるんじゃないかと感じています。

島野:酒蔵さんがつくる酒粕焼酎というのはまだ珍しいものなんですか。

岡空:まずその焼酎をつくっている酒蔵というのはそんなにないと思いますね。

高崎:酒粕焼酎をクラフトジンにしたのって千代むすびさんが一番最初ですか。

岡空:いや、たぶんほかにもあると思いますよ。ただ、たまたま酒粕焼酎をもっていたところで山本社長と出会って、それをジンにできないかという話になったんですね。まさか「真澄」さんの焼酎が届くと思ってはいませんでしたが。

仕込み①

千代むすび酒造ではもうふたつ力をいれていることがありまして、ひとつは観光PRです。ここ境港市は漁港としても有名なのですが、水木しげるさんが出身の町で、2年前までは年間300万人の方がお越しになる観光スポットでした。インバウンドも盛んだったので、多いときには1日1万人以上が町を歩いているという状況があり、そこでこの酒蔵がどういうしかけができるかと考えていた矢先のコロナではあったのですが、現在のコロナ禍において、そしてそれが収まってきたあとの観光業についてを常に考えています。もうひとつが海外輸出です。すでに25年ほどまえから輸出には取り組んでいて、海外でまったく日本酒が売れない時代から、いまの岡空晴夫社長が他社の酒蔵さんとニューヨークに行ってプロモーションをしたり、まだ成功してはいないのですが、ヨーロッパのパリでお酒を売りこみにいったりと、海外を視野に入れた活動に昔から注力しています。輸出についてはおかげさまで好調なのですが、長期にわたって得た経験や関係がいまにつながっていると思っています。酒蔵を活かした観光と輸出という点が千代むすび酒造の大きな特徴ですね。

島野:数多くの国に輸出をされていますよね。シンガポールや香港など。

岡空:はい。国の数だけが取り引きではないと思っていますが、いま20ヵ国以上と取り引きしています。しかしこれまでは商社さんを経由しての取り引きでしたので、売っている人の顔が見えないという状態だったのですが、このコロナ禍で直接輸出というものを進めていて、オーストラリアとカナダはうちが輸出者となり、現地のインポーターの方と直接取り引きしています。今月カナダに出る商品はフルコンテナ千代むすびで、うちだけのものでご用意しました。中国とも交渉中ですが、これもフルコンテナ千代むすびのみでのお話です。

高崎:コンテナの内容は日本酒に限らず、ジンやウォッカなど他のお酒も入っているんですか。

岡空:他のお酒も入っていますね。以前はいろんな酒蔵の商品を混載したコンテナで、少ないと1ケースだけの注文がきたりしていました。それははたして取り引きといえるのかと。本気でうちのお酒を売ってくれる人と話をしないと長続きしないんですよね。でもこういったお話をいただけるのも、たまたまのご縁からはじまったものだったりして、私のFacebookを見ている方からのお話で関係をいただいたりもしました。

小祝:日本全国から輸出している日本酒は本当にたくさんありますよね。海外の日本酒市場なんて競合ばかりではないかと想像するのですが。

岡空:賞をとったものなどを買いたがる方は多いと思いますが、長続きするためにはいかに売っている人と密にコミュニケーションをとるかだと考えているんですよね。なので今回のカナダの件でも、私がひとつひとつの商品にプロモーションの資料を用意しまして。蔵がどういった想いでお酒をつくっているとか、ペアリングの際にその国の食事のことを調べて資料をひとつひとつつくりこんで、送付できるものであればポップや、水木しげるのTシャツを欲しいなんていわれたりもするので、前掛けやグッズを送るだとか、国ごと、人ごとに対応しています。

小祝:コミュニケーションを密にすることが大きなポイントなんですね。

岡空:そうですね。本来であれば現地に行って直接お話ししたいのですが、いまはできないのでメールやZOOM、LINEなどで頻繁にやりとりしています。

小祝:日本酒だと伝えやすい情報がたくさんあると思うのですが、日本酒の酒蔵さんがウォッカや焼酎、スパークリングなどを売るということにおいて、日本酒以外のお酒はどのように海外とやりとりをされているんですか。

岡空:当然味を伝えるということが第一にありますが、やっぱり見た目もけっこう大事で、またうちのサイトを見ていただきたいんですけれども、http://www.chiyomusubi.co.jp/catalog/shouchuu/index.html
ジンやウォッカは和モダンみたいなデザインですよね。オーストラリアではリテールショップなどに出すので手にとるまでが大事でして、和風のデザインを気に入っていただいているようです。統一したシリーズの絵にしていますが、ウイスキーもおなじようなラベルで展開してほしいと海外からはいわれていますね。

小祝:漢字と英語がうまく混じり合っていますね。

岡空:現地で誰に売るかなんですよね。いま世界的にもECが進んでいるので個人の消費者さんが見るときに買いたいなと思えるものであるということが重要ではないかと思っています。

シャンパーニュ現地見学

続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?