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塩が甘い

ラテン語のsal「塩」や英語のsalt「塩」の語源である印欧祖語*séh₂-l-sは、ロシア語のсладкий (sládkij) 「甘い」やリトアニア語のsaldus「甘い」の語源にもなっている、と書いている人がいた。

一方で、ヨーロッパの印欧語で「塩」を表す語はゲルマン系、スラブ系、ロマンス系のいずれも語頭にSがくる(キリル文字だとС。オランダ語ではZに転化した?)のに、リトアニア語では「druska」となっており、周囲の各国語から孤立している。
古の非印欧語に由来するものなんだろうか。

Wiktionaryで調べてみた。再建印欧祖語の*sh₂el-d-u-s、*sh₂el-(*séh₂ls「塩」の拡張型)から原バルト・スラブ語のsāˀlisが派生するけど、この語の本来の意味は「塩辛い、おいしい、スパイシー」だったという。

sāˀlisから原スラブ語のsolь、ラトビア語のsāls、古プロイセン語のsal、リトアニア語のsaldusが分岐したが、最初の3語は原義どおりの「塩」を指しているのに対して、リトアニア語では「甘い」という意味に変化している。

原スラブ語のsolьは、古東スラブ語>ロシア語のсоль、ブルガリア語のсол、チェコ語のsůl、ポーランド語のsól等へと分岐していくけど、そのどれもが「塩」。

その一方でsāˀlisからは原スラブ語のsoldъkъが派生しており、ここからロシア語のсладкийが分かれたが、ここではリトアニア語と同じく「甘い」という意味になった。

「塩辛い、おいしい、スパイシー」が「甘い」へ変わるには飛躍があるけれど、当時の食文化を考えるとその背景がわかったりするのかもしれない。
とりあえずここまで整理してみた。
(2023.3.9)

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