秩序・停滞/変革・誕生

(男の意識領域に「死」が移植された後)

その頭蓋には内なる闇が満ち、膨張する超新星残骸の如く出口を求めて外側へ溢れ出そうとしていた。

「ぐ‥‥ぐふっ;」

膝を突き、蹲りながら咳をすると、その口からは闇の欠片が吐出され、路上に落ちて渦を巻く。

「これを‥‥止めるすべは無いというのか‥‥嫌だ!常闇の感染源になるのは!」
犰狳のように身を丸め、痙攣して悶え苦しむ男。

それを笑みを浮かべて見守る「死の播種者」の顔に、訝しげな表情が浮かんだ。
魂の終焉を迎えて絶望の淵に沈んでいたはずの男の身体から、それまでとは違う異質な何かが湧き上がる兆しが胎動している。

「あ、ああああ!!」

男は立ち上がり、頭を手で覆った。
指の間から垣間見えるその眼は、もはや人のものとは思えない光彩を放ち、身体が痙攣するたびに明滅している。

やがてその光が収まり、震えが止まった後には、閉じることなく星々を映す漆黒の瞳を持つ右目と、漲る力を湛えた左目とが顕現した。

男は話し出す。
その言葉は、時空に満ちた万物の守護霊が人の口を借りて語り出したかのようだ。

「聞け、闇に生まれ、闇の力をもって人と人の世の刻を止めんと企てる者よ。」

「闇は滅亡ではなく誕生である。破壊ではなく変革である。」

「秩序であり停滞である光と、変革であり誕生である闇とが、互いに糾える縄の如く絡み合い、混沌となりながらも交わらず、相補うからこそこの世界の時間が動き出す。」

「汝が闇の種子を播くのなら、我は光の苗木を植えよう。いずれかが他方を覆い尽し、未来が絶えてしまわぬように。」

「知れ、時の狭間にある全ての者たちよ。死と生は分かたれた半身であり、それ故に死は生を求め、生は死を求めるのであることを。」

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