やりたいことをやれ

自分の記憶を辿ると、本当に心からやりたいと思って自分から行動を起こしたのは、中学2年生頃に声優事務所のオーディションに応募した時だったと思う。

薄緑色の応募用紙に父親のデジカメを借りて実家リビングのクロスを背に撮ってもらった自画像を添付して、個人情報を書き終え郵送した。
無事書類選考を通過し母親に大阪か東京での面接に参加したい旨を伝えると「無理」と。

お金が理由なのか将来性が理由なのか定かではないが、幼き少年の夢はいとも容易く打ち破られた。
だからと言って当時の熱量は大人になった今はもうなくなり、声優になろうとする努力は何もしていない。

そんな経験が私に与えた価値観・考え方が、「本人がやりたいと思うことをやるべき。そして、そのことに対して全力な本人を周りの人間、こと家族に関しては全力で応援するべき。」というものである。

当時の経験とその経験から得られた価値観・考え方、併せて結果として夢を叶えられない人間になってしまっている自分にコンプレックスを抱く私が起こしたちょっとした事件について書く。

まず大前提として、私には世界で一番大切な存在がいる。
それは双子の弟である。
弟はドラマーとしてバンド活動をするためにアルバイトで生計を立てて一人暮らしをしている。

事件が起こったのは遡ること高校三年生の大学受験期直前。
弟はドラマーとしての専門的なスキルアップのため、音楽専門学校への進学を希望していた。
しかし、両親は私たち兄弟に大学進学を勧めた、と言うより、大学進学の道しか選ばせる気がなかった。
私の父親は元ドラマーであり、大学卒業後に社会人をしながらドラムスクールに通っていた。
しかし、30歳になる頃にバンドマンとして花咲くことができず、生まれてくる私たちのためにその夢を諦めることになる。
父親としてはその経験があるため、息子にそんなリスクの大きい道を辿って欲しくなかったのは想像に難くない。
そして母親は、母子家庭だったこともあり大学に進学できるような経済状況でなかったことから高卒で企業に就職をした。
あくまで予想の範囲内にはなるが、大学卒業者と高校卒業者に対する社会における扱いの違いは肌で感じてきたことだろう。
そんな両親が私たちに与えた進路は、「少なくとも父親が通ってた大学は最低でも進学しなさい」というものだった。
勿論、弟と両親はそのことでぶつかったが、当時高校生の息子が18歳で突然独り立ちするにはあまりにも酷で勇気のいる行動だ。
そのため、弟は大学受験の1ヶ月前から勉強を初め、無事父親がかつて通っていた大学の最難関学部を合格した。

それから私と弟は別々の大学に通い、それぞれ大学の軽音楽部やバンドの中でドラマーとして活動をしていた。
同じドラム担当ということもあり、たまに会うとドラムに関して話すことも多く、他のバンドの話をしていてもそのバンドのドラマーや楽曲のドラムパートについて話すことがほとんどだった。
そんな中で、弟にはやはり音楽専門学校へ行けなかった後悔があったことはわかった。
そして大学2年生頃、弟は大学を中退し、実家を出てフリーターとして一人暮らしを始めた。
それも、大学一年生のうちに取得できる上限単位はきちんと全て履修・取得した上でだ。

そして時は経ち、私が大学四年生の5月、事件は起こる。
その日は、久方ぶりに家族で日帰りの旅行に行った。
母親が運転する車で神戸の方へ行き、ビール工場やめんたいパークを周り、実家に戻ってきたのち四人で居酒屋に行ってお酒を飲んだあと、カラオケに行って歌っていた。
そんな中で不意に、父親と私で弟の話になった。
酔っ払っていたこともあり、弟が過去にプロのドラマーを目指して音楽専門学校への進学を希望したがそれを反対したこと、進学できなかったことについて大学在学中も後悔し結局大学を中退し実家を出て行ってフリーターになったことを思い出して口論になった。
私は人生で初めて父親の胸ぐらを掴み、手が出そうな勢いと喧騒で怒鳴り散らした。
お前のせいで、弟がどんなに辛い思いをしたのかと。
子供の夢を心から応援できないやつに、親の資格はないと。

これが事件の全貌である。

勿論、言い方や考え方含め私に落ち度がある。
勿論、両親が息子を心配して下した判断だったことも理解できる。
だとしても、弟の夢を真摯に応援できなかったことに我慢ができなかった。
事実、私は大学を卒業して就職をしたが、周りの友人やバンド時代の知り合いの動向を見ても、やりたいことに本気で真摯に向き合えてる人間の方が、人生を全うしてるように映ってしまう。

やりたいことやなりたい夢が持てることはある種幸せで、それに本気になれることがどれだけ幸せか。
そしてそれをまっとうしてる人間を、周りの人間は支えていってほしいと心から思う。
私はこれからも、弟の活動を応援し続ける。

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