自分のデザインしたロゴがTシャツになって売られていたのでお手紙を送ってみた話、または法律を知ろう2019
私は個人で活動しているデザイナーです。レトロな文字のデザインが特に好きで、文字を主役にしたシールやTシャツなどのオリジナルグッズをイベントで販売するなどしています。
▲以前作った100円シールくじ(3枚入り・当たりのキラシールあり)の中身サンプル(今回の内容とは関係ないです)
事の発端
先日、SNS上で指摘してくださった方がおり、あるファッションブランドが販売しているTシャツに、私が数年前制作し販売しているシールのロゴデザインが流用されているらしいことを知りました。
はね、はらいの角度など、細かい部分の処理が完全に一致はしてないものの、パッと見同じに見えるレベル。文言も一字一句同じです。
そのロゴは既存のフォントを使って作成したものではなく一から起こしたものなので、たまたま同じ文言のロゴを作ろうと思ったとしても偶然でここまで似てくることはないかなと思いました。
そのTシャツは指摘の投稿がされたその日のうちにブランドの直営オンラインショップでは完売表示になり、直営店に足を運んでくださった方によれば同日に店頭からも下げられていたようで(実際の売れ行きはわからないので本当にその日たまたま完売したのかもしれませんが)なんとなく収束した感じにはなり、そもそも該当のロゴにはパロディ的な要素があるというのもあって、その時は特にアクションを起こすつもりはありませんでした。
その後、直営店に行ってみて(めっちゃ嘘っぽいですが、たまたま近くにいて暇を潰す必要があるタイミングがあったので…)Web上の在庫表示では在庫があるはずなのに店頭には出ていない様子を眺めたり、やがてWeb上の在庫表示でも在庫なしになっていくのを眺めたりして半分終わったことのように受け止めていたのですが、それから数週間経ち、少なくともセレクトショップなどに卸された分はまだ売られていることがわかりました。
知名度や影響力を考えると、このままではそのブランドのTシャツがオリジナルだと思われ、最悪こちらがパクったと誤認されてしまうのでは?と、ここでようやく危機感を抱きはじめました。
そこで、弁護士の方に相談した上で、ブランドの運営会社になんらかの形で通知を送ろうと思い至りました。
SNSなどを使いオープンな場で対処を求める方法もあるとは思います。しかし炎上を起こしたいと思っているわけでもなく、必要以上に不特定多数に広がることも予期せぬ事態を招きそうで、トータルでリスクのほうが大きいと感じたためクローズドな場で対処を求める判断をしました。(ちなみに最初の指摘ツイートや複数の関連ツイートについてもリツイートはしていません)
弁護士に相談してみよう!と思ったものの、幸いにも今まで弁護士にお世話になることのない人生を送ってきたため特に知り合いもおらず、伝手もなく。
法テラスの無料相談は利用条件が思っていたより厳しく利用が難しそうだったので、弁護士会の法律相談(有料)に申し込みました。今回は利用しませんでしたが自治体によっては自治体主催の法律相談が利用できるようで、私の住んでいる自治体では料金も無料でした。あと教えていただいたんですがココナラは弁護士を探すサービスもやってるんですね…。「得意を売り買い」のレベルが高すぎる。得意(超難関国家資格)!
弁護士に相談するというとすごくハードルが高く感じますが、意外といろんな窓口が開かれていることを知れたのは収穫でした。窓口によってはネット予約もできるし、空きがあればその日にでも相談できたり、土曜日も開いていたりと結構気軽に利用できるものだなと。
弁護士事務所の初回無料相談などもあるのですが、必ずしも依頼に繋がるとは限らないので、個人的には有料の法律相談なら話をとりあえず聞いてもらうことに申し訳なさも感じづらくて良いなと思いました。
通知書を作成してみる
写真の無断転載に対しての通知書文例などを参考にしつつ、通知書の草案を作成しました。草案を弁護士の方に確認していただき修正を加えた上で送付した通知書が以下になります。(固有名詞以外は原文ママ、住所などは割愛)
請求事項として記載した3点について補足します!
1)セレクトショップ等に出荷した分も含め、通知人著作ロゴを使用した商品の販売停止・販売店からの回収
Tシャツが売られ続けている状況のままでは、前述したようにオリジナルがこのTシャツだと思われてしまう可能性があるため要望に入れました。
既に一般の顧客の手に渡ったものの回収などについてはブランド側の判断かなと思い明記しませんでした。(ロゴが良いと思って買った方に罪はないので…)
2)通知人著作ロゴを使用した商品を開発・販売するまでの経緯の調査・説明
ブランドのカラーと文脈的に?自分のシールを直接見てTシャツを作った訳ではない気がしていました。
実は私の制作したシールの画像は、今回のものに限らず、誰かが「素材」として画像を無断配布しているようで、インスタなどでコラージュの素材にされまくっていることがわかっており、このロゴについても無断で使用されているものをどこかで見かけてTシャツにしたのかもしれないと思っていたため、答え合わせがしたく経緯の調査を要望として入れました。
3)貴社コーポレートサイト・SNS等にて、通知人著作ロゴを無断使用したことにより私の著作権・著作者人格権を侵害したことを明らかにした内容の表示を行うこと
当初この項目は入れていなかったのですが、弁護士の方からこれを明文化しておかないと和解に応じるが第三者に公にしないことを要望される可能性がある(もちろん突っぱねてもいいけど、そのあと揉めるかも)とアドバイスいただき追加しました。
また、個人の制作物が企業に無断使用された先行例として参考にしていた事例でもコーポレートサイトやSNSで経緯説明などの表示を行っていたので、要望としては妥当だろうと判断しました。が、この項目は予防線として入れている意味合いが大きいため協議によって内容が変わる可能性もあるだろうなと思っていました。
こういったケースでは損害賠償を請求することも可能とのことでしたが、このTシャツが発売されるに至った経緯が知りたい、このままでは自分が盗作をしていると誤認される可能性があるためそれを防ぐために商品を取り下げてほしい、という2点が通知を送ろうと思った理由であるため、特に求めませんでした。
また、草案にはなかったのですが、弁護士の方のアドバイスで「既存のフォントは使っていないため、偶然ここまで同じデザインになることはあり得ないこと」、「指摘のツイートがあった日のうちに完売表示・店頭からなくなったため、先方も指摘を認知し、流用の認識があると思われること」の2点の内容を通知書に追加しました。
通知の方法についてはメールか内容証明郵便を考えていたのですが、内容証明だと圧が強く、メールだと軽すぎるとのことでひとまず簡易書留が良いのではと勧められました。
状況的にみて先方もこの件は把握しているように思えるし、そこまでこじれることはないのではないかという見立てでした。(言うまでもないですが、もちろん弁護士の方は私が用意した資料しか見ていないし、私の言い分だけを聞いた上での判断です)
また懸念点として、いろんなところで無断使用されまくっているので私のデザインを直接流用した認識がないかもしれないことをお伝えしましたが、そこの認識のあるなしは関係ないとのご回答もいただきました。
もし期限を過ぎても返答がなかったり、弁護士が出てきてこじれそうになった場合は改めて相談して対処するのが良いとのことでした。
回答書が届く
簡易書留を発送して一週間後、弁護士名義の内容証明郵便が届きました。予想はしていても弁護士名の郵便物、それも内容証明が届くとドキドキしますね…。
できる限りニュアンスを変えずに内容を要約してみました。
アサヒビールの事例、調べてみると見覚えがあったんですが完全に忘れてました。というか過去の判例にあたるという発想が全くなかった。事実はどうだったか不明な、指摘ツイートの投稿当日にオンラインショップや店頭から消えたように見えたこと(=流用の認識があるはず)に固執しすぎて、こういう角度から反論される想定を全くしてなかったです。
ロゴの出どころはやはり無断でコラージュ素材にされていたものを見てということのようで、無断配布されている素材は画質が悪いので細部が判別しづらいんですよね。細かい部分の処理が完全一致しなかったことも納得です。
既に一般の顧客の手に渡った分の回収について明記していないのに「既に販売した製品の回収」となっているのは、セレクトショップなどに卸す分は委託ではなく買取の場合が多いようで、セレクトショップなどで店頭に並んでいるものはメーカー側からすると「既に販売した製品」だからだと思われます。(身内のアパレルの者に聞きました)
元々は私が作ったロゴを参考にしたことは認めているのでそこは良かったんですが、そもそもロゴは法的に著作物と認められないのでそれ以外の要望は対応不可とのお返事、アサヒビールの判例概要を見るとあんな大企業が起こした訴訟でこんなに似てるのに認められないとか、そんなの絶対無理やんけ〜と途方に暮れてしまいました…。
素人には判断しがたい部分があったため、改めて回答書についても弁護士の方にご意見をうかがいました。
判例の概要を読んで終わりや〜となっていたのですが、基本的には先方にとって都合のいい判例を持ち出しているにすぎないし、この判例が絶対ではないし他にも判例はあるはず、また絶対に過去の判例通りになるとは限らないとのこと。
ただ、裁判となると過去の判例を参照するものではあるので分は悪く、やるなら著作権侵害の定義を争う勢いで最高裁まで戦う覚悟が必要かも、とのこと…。ご意見をうかがった弁護士の方によれば、先方が依頼している弁護士事務所はめちゃ強有名事務所らしく、そうなるとこちらもつよつよ弁護士を探して依頼しないといけなさそうで、資金力も伝手もない個人にはなかなか厳しい状況。
可能と思われる別の角度からのアプローチについてもご提案いただきましたが、リスクとかかる金銭・精神・肉体的負担を考えると、この回答書を受け入れるしかないという結論に達しました…!(ちなみにこのnoteの内容についても弁護士の方にアドバイスをいただいています)
顛末を振りかえって
改めて考えると私が先行例として参考にしていた事例はどれもSNSなどオープンな場での拡散を契機として対応がなされているという点で特に似た例とも言えないのだなと思いました。
法的な手段に出るなら参照すべきなのは法的な先行例であって、完全に私の手落ちと知識不足だったなと。しかも片方は海外の事例だし。なんでも答えがインターネットにあるわけではない、インターネット脳の敗北や…
逆に考えると法を盾に何か言われた場合、企業としては法的な手段を以て応じるしかないとも言えるわけで、そうなると弁護士的な回答はこうなんだろうなという納得もあり。なので(このケースではどうかわかりませんが一般論として)担当者レベルでの対処であればまた結果が違ってくることもあり得るのかも、とも思いました。
ケースバイケースですが、ロゴデザインを流用され取り下げなどを求める場合、「文字のデザインは著作物と認められない」という判例を持ち出されてしまうかもと考えると法的な手段に出るのはかえって不利になる可能性があるので、私が避けていた「オープンな場所で拡散して世論(?)を味方につける」という人を選びすぎる戦法が最適解だったのかなあと思います…。かなり嫌ですが…
リスキーだし諸刃の剣感が強いし、私はスピード感をもって適切な言葉選びと対応をするのが苦手なのでなかなか厳しいなと思いました。それが正解とわかっていてもやっぱり難しかったかなと。
これを機にロゴやイラストの著作権侵害関連の判例をいろいろ見てみたのですが、個人的には「ありふれた表現ではない」判定厳しない!?という印象でした。というか裁判官の方の「ありふれた表現」判断のラインがつかめない。
著作権侵害が認められるハードルの高さ、ある意味では作り手を守っている面もあると重々承知ではあるのですが、法律の場と自分が普段身を置いている場では判断基準が全然違うと肝に銘じておいたほうがいいですね…!
しかし今まで作ってきたものの多くが恐らく法的には著作物と認められないっぽいのめっちゃショックですね!ふつうにガーーーーンってなってしまった。でもめちゃ学びでした、法律を知ることは大事やね……
自分の作ったものを法的に守るには商標登録や意匠登録をするのが一番正しい方法だとは思いますが、それも個人で活動しているクリエイターにとっては現実的ではないですね…。
「どういう経緯であのTシャツがデザインされたか」についてはご回答いただけたのでそこは満足なんですが、商品の回収などには応じていただけないということで、執筆現在セレクトショップでの販売やオンラインショップの該当ページ、SNSの商品画像もろもろそのままになっています。思うところはありつつもこの件はこれで一旦終わりかなと…!
最後に、この件ではいろいろな方にご協力いただいたり気にかけていただいたりしてめちゃめちゃℒℴνℯでした。ものすごく心の支えになりましたし助かりました。むしろ人の温かみを感じる出来事になるとは・・・!
めげずに(?)今後も地道に活動していこうと思います。本当にありがとうございました!
2019年9月11日
ki_moi
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