星空への好奇心

皆既月蝕があった。化学本館の玄関の前で、1時間くらい月を見ていた。人が来て、帰って、また静かになって、その間に月の上を影が動いていくのを見ながら、時間が流れるのを感じた。

星の名前をひたすら覚えていて、月2回欠かさず天文台の一般公開に通っていて、買えもしない望遠鏡のカタログ集めをしていて、フリーの宇宙旅行ソフトでずっと遊んでいた、小学校1〜2年生の頃が、私の原点なのかもしれない。あのとき天文台で、何もわからない小学生にたくさん星のことを教えてくれた大学院生や先生たちの姿から、未知のものに対する憧憬を知った。ちょうど準惑星が定義されて太陽系惑星から冥王星が外れた頃だった。冥王星のような星がいくつも見つかって、冥王星だけを特別扱いできなくなってきた、という話だった。その会議の最終メンバーであった渡部潤一先生には、新書にサインまでしていただいて「東大で待ってるよ」と言っていただいたことを鮮明に覚えている(先生は所属上は東大ではなかったのだけれど、きっと小学生にもわかりやすいようにそう言ってくださったのだろう)。それから15年ほど経って、専門が天文学でこそなかったが、私は東大で大学院生になった。いまの私は、果たして同じようなことができているだろうか。子どもの心にも届くような純粋な好奇心を、ここに点せているだろうか。

先日、高校生を相手に実験授業をする機会があった。それはそれで面白かったが、もっともっと小さな子どもたちにも、語れるような仕事をしたいと思った、月蝕の夜。

1億円くださった方の名前を論文の謝辞に記載させていただきます