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シネマチック桃太郎

(昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました。)あれはそう、海岸で拾った巻貝の中の砂つぶを一つ一つピンセットで取り出すかのように、本当に気が遠くなるような月日を隔てた過去のある日のこと。使い込まれたナイフのように鈍い銀色を放つ白髪の割に、どこか若々しさの滲んだ笑みを口元に浮かべる老人の男と、そんな男が醸し出す未だに瑞々しい少年らしさに対し愛おしさと諦めが混ざったような視線を向ける妻である女、そんな老夫婦がこの一連の、奇妙な勇気をくれる物語の扉を意図せず開いてしまうことに

    • セクシャル・インタラクション

      ロボットないし人工知能といった非人間が人間に取って代わり、人間が自由を獲得する未来を阻害する障壁の一つに、人間がそれらを人の代替として見ることが難しい、といった点があると思う。私たちは未だにどこかそれらへの警戒を捨てきれない。自動運転車もまた然りだ。 ドラえもんやアトムのように、人間と対等なパートナーとしてのそれらを私たちは夢に見ているにもかかわらず、そのような認識を獲得するきっかけのようなものが私たちには欠如している。そしてきっかけとなりうるような事象の見通しも立ってはい

      • 完璧なフードプリンターに関する思考実験

        先日ある学生と話していてフードプリンターの話になった。そこで仮に完璧なフードプリンターが世の中に普及した場合の世界を妄想してみると、今私たちが生活している現代に対する見方が少々変わったのでここに記録として記したいと思う。 まず仮定をしよう。完璧なフードプリンターが世の中に普及していることが前提だ。あなたの家にももちろん完璧なフードプリンターがある。あなたはある夏の昼に、クーラーの聞いた部屋で熱々のハンバーガーと冷たいコーラが飲みたくなる。 フードプリンターの扉を開けて中に

        • サイバースペースからの目覚め

          サイバースペース。ウィリアム・ギブスンが1984年にカナダで出版したサイバーパンク小説『ニューロマンサー』において初めてその概念は出現した。 主人公のケイスはサイバースペースへと没入=ジャックインし、非物質の世界を泳ぐ。 サイバーパンク小説といえば『ニューロマンサー』とフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の二つが私の中には浮かぶ。同じサイバーパンク小説ではあるが、両者に描かれるテクノロジーは異なる。前者は情報技術、後者は人造人間だ。言うなれば前者

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