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読んだ本と、読みたい本のこと
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#読書記録

今はここが居心地の良い場所|『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』読書感想文

海外に昔から興味がなかった。 「行くならスペインかオーストラリアかな〜」なんて言ってはみるけれど、実際には行かないんだろうなと思っていた。 新婚旅行は大分。良い宿に泊まり、温泉に入り、美味しいご飯を食べたかったから。 それは日本で十分に叶う。 韓国旅行に誘われて、結局都合がつかず、無しになってしまったことがある。 でも、それにほっとする自分もいて。 韓国料理を食べることも韓国コスメを買って使うことも、日本でできる。本場でしか味わえない体験はきっとあるんだろうけど、私は日

自分が見ている世界と、誰かへの優しさを疑う|『流浪の月』読書感想文(ネタバレなし)

『事実と真実は違う』 何度も語られるそのテーマに、私は自分のことが信じられなくなる。 序盤を読んでいて、自分がいかに幸せ者で、知らない世界のことは何も見ていないんだということを思い知らされ、つらかった。 物語の中で紐解かれていく、人の痛み、絶望、やるせなさ。自分が経験してきたものとはあまりにかけ離れた彼女の人生に、胸を痛める。けれど。 「これは自分が生きている世界とは別の話だ」と思うことで、私は胸を痛めるフリをして、つらさから逃れようとしているだけ。 途中からそう気づいたと

彼らの未来、わたしの未来|『告白』読書感想文(ネタバレなし)

暗くて、とにかく重い話が読みたい気分。 「そういう年頃だね〜」なんて母は言いながら、湊かなえや凪良ゆうをオススメしてくれた。 実家の本棚には、小説やエッセイがぎっしり詰まっている。 母の昔からの趣味と、その母に影響されて育った私と弟の読んできた本たち。 私は高校生くらいの時から、音楽を聴くことのほうが増えて、読書の時間がそれまでより少なくなった。 だから、私がまだ読んでいない本が、実家にはたくさん並んでいる。 その中のひとつ、湊かなえの『告白』。 あまりにも有名だけど、

『傲慢と善良』を考える|読書感想文(ネタバレなし)

「人生で一番刺さった小説」という帯。 んなわけあるかい、と思いながら、惹かれて買ってしまった。 ずーんと暗く、考えこんでしまうような物語をあえて読みたい、観たい、そういう気分だったのかもしれない。 主人公たちは、私より少し上の世代。でも読んでいるとそれを忘れる。時に共感するし、時に理解できないし、なんというか、ものすごくリアル。 内省的な描写が多く、一緒に考えこんでしまう場面がたくさんある。 でも、ずーんと暗いかと言われるとそうではない。 20歳前後で読むとまた違うんだろ