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仮に、沖縄で暮らしたいとして

妻と娘が寝てしまった夜に、少し思考実験をしてみようと思った。

今年のGWは家族3人で沖縄に行った。妻の実家は関東にあるものの、妻の両親の出身はいずれも那覇市内のため、沖縄は妻が子供の頃から長い時間を過ごした場所であり、精神的な故郷でもある。そのため?沖縄に来ると妻は自然に訛ってしまうのだが、疫病でしばらく来れなかった反動からか、今回は空港から宿に向かうゆいレールの中で早くも訛っていた。

那覇のGWは憎らしいほどに雨続きだった。しかも肌寒い。那覇の梅雨入りは、近年どうやらこのあたりからということでfixしたらしい。誰かさんのその心変わりは沖縄の観光産業に深刻な打撃を与えそうなものの、特に子連れだとものすごく移動しにくいので、東京から沖縄に来る場合、極力この時期を避けて訪れるようにしたいと思った。

それでも一日だけ晴れた那覇の日差しと青空には、開放感を禁じ得ない色彩と熱気があった。まっすぐ肌を刺すような日差しと、気温の割に(東京と比べると)軽やかな湿気、広くて深く青い空、島のどこにいても割とすぐアクセスできる海。夏の台風とスコールの凄まじさには閉口するものの、やっぱり僕はここの風土が好きだ。

そんな晴れ間の中、軽率にも「なんとかしてこのへんに住めないだろうか」と考えてしまった。なんなら「一回しかない人生の可能性を、自らの固定観念で狭めようとしてないか?」という悪魔の声すら聞こえてきた。よろしい、それならきちんとその声に向き合ってみようではないか。

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...と、旅先の夜にここまで書いて、もうそれ以上書けなくなってしまった。向き合う中で、いろいろな人のいろいろな言葉を思い出したからだ。

自分が生まれ育った以外の土地に移住するのは、多かれ少なかれその土地の何かしらにフリーライドする側面があると思っている。それは開発された土地や道かもしれないし、制度かもしれないし、文化かもしれない。兵庫県明石市のように育児に手厚い制度を全面に打ち出して土地の側から人を呼び込む試みもあるので、必ずしもそのフリーライドが即悪いことではないものの、土地の先人が考え培ってきたものに乗っかるという構図は返らない。

僕が沖縄に移住するとして、最も濃厚にフリーライドするのは妻の培ってきた人的リソースだ。というか、現時点ですでにおんぶに抱っこだ。沖縄の空気を吸った瞬間に訛ってしまうほどに強固な結びつきを持っている妻を通して、僕はなんの血の繋がりもない沖縄のよすがから本当によくしてもらっている。

その地縁ゆえにここで暮らせるかも?とか思ってしまうわけだが、そう口にした瞬間から、いろいろな言葉が脳裏を走る。

まだ子供がいなかったある日、妻の伯父がコザのロージャース(プラザハウスショッピングセンター)に車で連れて行ってくれた。そこでしか売っていない美味しいちんすこうがあって、飲みの席であれは美味しかったあという話をしていたら連れて行ってもらえることになったのだ。

無事ちんすこうを手に入れて昼食を取った後、ちょっとドライブしようねと言って妻の伯父は車を北に走らせた。

ほどなくして着いたのは、米軍の嘉手納飛行場だった。嘉手納の道の駅には基地内を一望できる展望デッキがあって、爆音を上げながら飛び立つ戦闘機を、バズーカみたいな望遠レンズをつけたカメラで撮りまくる日本人のマニアたちが居並んでいた。そこなら確かに青空に映える戦闘機のいい写真が撮れたはずだ。

そこから少し南下して、北谷の外人住宅街を案内してくれた。突如現れる高級住宅街のような雰囲気に、思うところを持たないわけには行かなかった。

妻の伯父は建設関係の仕事をしていたため、沖縄の大小さまざまな施設や土地の事情に詳しくていろいろなことを話してくれた。そんないろいろなことを知っている人が思うところが無いわけはないはずだが、その諸々に対して彼はいいとも悪いとも言わなかったのが今でも印象に残っている。そして僕はそのとき、沖縄の諸問題について絶対に軽々しく公言しないと決めた。

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もっと掘り下げたいところだけど、何をどう書いてもいろいろな人の顔が思い浮かんで小骨が喉に引っかかるようなものしか書けないので、ここまでにしておこうと思う。正直もっと書けると思っていた。

内なる声に向き合った結論としては、僕は沖縄に移り住めないということだ。沖縄は清濁併せ呑んでやってきた歴史と現状があるわけだが、僕が同じように併せ呑めるかといえば多分できないし、できるなんて恥ずかしくて絶対に言えない。そしてお世話になるであろうネットワークの人々と同じようにそれができない以上住めない。我ながら硬いなと思いつつも、これはフリーライドする上で最低限のリスペクトだとも思っている。

僕は沖縄や那覇の風土が好きだし、その風土が育んだ文化も好きだ。妻の地縁を中心とした人々も好きだ。それゆえに移り住むことはできないのも変な話だと思うが、僕はそういうのがとても気になるタイプなので仕方ない。

より長く走るための原資か、娘のおやつ代として使わせていただきます。