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10年以上ぶりに、資格試験を受けにいった

この間、ものすごく久しぶりに資格試験を受けた。別に何かの必要に迫られたわけではなく、年明けくらいからなんとなく知識を整理したい気分になっていたからだ。

IPA(情報処理技術者試験の通称)のST(ITストラテジスト)区分を受けた。いわゆる高度試験というやつだ。STを選んだのも今季受けられるものの中で今の仕事との親和性が一番高いのはこれっぽいなと思ったからだった。資格取得の難易度が弁護士とか会計士に次ぐみたいな話も見かけるが、それはさすがにいやいやご冗談を…と思う。

今のうちに言っておくけれど、これは久しぶりに資格試験を受けに行った心象を思い出して描写するだけの文章だ。試験の攻略法みたいなものは今後も含めて一切書くつもりがないので、それを期待される方はこのへんでの離脱をお勧めします。

IPAを最後に受けたのはまだSIerで働いていた2011年の春で、前月に起きた震災の影響で4月ではなく6月に開催された。その時は応用情報を受けた。午前問題を終えて途中退室した後、周りに本当に何もなくて仕方なく周囲をひたすら徘徊したことを覚えている。大学ではなく、昭和島だか平和島だかの催事場で開催された。試験は無事受かっていて、当時の職場から何万円かのお小遣いをもらえた。合格証書の署名が経済産業大臣を退任する直前の海江田万里氏だったのが印象的だった。

このように、SIerだと資格ゲットすると大抵お小遣いがもらえるので受けるモチベーションが起きたものだけど、そういうのとは無縁な組織を渡り歩くうちにいつの間にかIPAとは疎遠になっていった。そもそも、IPAが開催される4月と10月は自転車の、特に僕が参戦しているBrevets de Randonneurs Mondiauxのジャストシーズンなのだ。勉強なんかしてらんねえと自転車を乗り回していた。

そんな中、気が変わったのだ。何かを変えたい「ぼうばくとしたおもい」があったのかもしれない。今年のテーマは「軽率に手を出す」なので、その気変わりを大事にして受けることにした。

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試験当日、9時10分までに会場に行かなければいけなかったので、8時半からのプリキュアも見れずに家を出た。

土地勘のある地域での試験だったので、会場の最寄り駅から試験会場となる大学キャンパスへの道順を一切調べずに向かったが、案の定、駅から明らかに学生ではないおじさんがズルズルと連なって歩いて行くのが見えたので、躊躇なくそれについていく。

以前からIPAの試験って「まちの大運動会」の雰囲気に似てるなあと思っている。国家試験だけど。

学生時代かなり熱心にとある法律系資格の勉強をしていたのだけど、その試験の本番はなにかもう、剣呑というか、全員が凄まじい殺気を放って試験会場に赴いていたものだった。どういう事情だったかはよく覚えていないけれど、人生を賭けて臨んでいる人も割といた。

当時の試験会場に漂っていた、そうした殺気の澱みたいなものはIPAの試験会場にはない。IPAを受けている大部分の人はおそらく定職を持っていて、これに落ちてもタマは取られないというか、かつてや今の僕のように力試しとかお小遣い狙いで受けている人がほとんどであるように思う。まちの大運動会に人生を賭けて挑む人はたぶん滅多にいない。それを物語るように、僕が指定された教室の出席率は半分強といったところだった。おそらく起きれなかったのだ。もしかしたら近所の人間関係がダイレクトに結びつく分、まちの大運動会の方が参加に対する強制力があるかもしれない。

試験は9時半に開始したのち、午前1・2、午後1・2の4つの試験を経て16時半に終わる。それぞれの試験の合格点を取らないと後続試験の採点すらしてもらえないノックアウト方式で、まちの大運動会としては結構タフなボリュームだ。

しかし、午前1・2はマークシート、午後1は読解問題なので正直そんなに負担がない。というのは、僕は実は今の職場の何代目かのクイズ王で、知識を問う系の択一試験には正直言って自信がある。午後1は過去問を見る限り現代文の問題だったので、これも個人的にはさほど問題にはならない。技術力のなさはいつだって国語力でカバーしてきた。

そしてこれらは実際に問題とならなかった。たぶん合格点は取れてるはずだ。(実際、公式の解答速報が出ていた午前問題は両方とも取れていた)

問題は午後2の論文試験だ。試験時間は2時間、小問3つで計4000文字近くをHもしくはHBのシャープペンか鉛筆で手書きの論文としてまとめる。2時間で4000文字だ。構成を整えたり推敲する時間を省くと、1時間半で4000文字とかになる。3秒で2文字書くのを1時間半続けるのだ。簡単だと思う?思った?じゃあ、聞きますよ。

最後に、ボールペンではなくシャープペンで1時間半文字を書き続けたのはいつですか?

僕は試験当日です。つまり、フィジカル面に関しては全くのノーガード戦法で当日を迎えたのだった。論文に関しては元々準備不足だった負い目があったが、肉体面を一切考慮しなかった浅はかさを痛感したのは、試験開始から1時間を経過しようというところだった。

突然、手の甲が異常に張った痛みで手首を動かせなくなってしまった。そこからは肘を動かす感じで文字を書いたが、それもまた疲れるものだった。腕の疲れのあまり薄れゆく意識の中で一瞬、日本国は2時間で4000文字を手書きするのが現代の情報処理技術者に必要とされる技能と考えているのか…と頭をよぎった気もするが、感傷をOFFにして頭の中の言葉を文字に起こすマシンと化した。が、万事休す。3問目の途中、CFOが固定費について注文をつけたあたり(そういう話を書いていた)でタイムオーバー。4000文字は書ききれなかった。

終わっても手の筋肉が固まって、ペンが手からスムーズに離れない。この時僕は、かつて落合博満がバッティング練習に集中するあまり、練習を終えてもバットが手から離れなくなった伝説を思い出さざるを得なかった。ただその時の落合には物陰から見守ってくれていた稲尾和久がいたが、当然ながら資格試験を受けにきた僕には誰もいない。すっかり疲れきって家に帰った。

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一応それなりに勉強はした。そして知識を整理して組み直していくのは結構楽しかった。得た知識が実際に仕事で生きた場面もあったし、視座も上がった気がする。受かってるかは知らないが、受けた意味はあったと思う。思いたい。

午前1が合格点を取れていたので、制度上は2年間の午前1試験免除資格を得たことになる。これにより、高度試験を受ける際にはしばらく午前2からの参加で良くなるので、今回落ちていたとしても最低限の爪痕は残せたかと思う。

論文試験、僕はこんなこと書こうかなあとぼんやり想像しただけで臨んでいたが、プロ(!)は予め書き込んだ論文を持ち込んで現場では微調整するだけという状態に持っていくらしい。これを終わってから知るあたり、準備不足感は否めない。

STはまた来年だが、秋にもIPAはある。何を受けられるかすら分かっていないものの、午前1は免除されるので今回よりも専門分野に注力できる。ただし受けるかどうかは、右手首と相談して決めたい。


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