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国民的RPGシリーズ唯一のサラリーマン主人公、FF8のスコールの労働環境を社労士が考察する

ゲームが趣味の社労士

わたし、ゲームが趣味で、家にいるときはだいたいゲームしてるか、やってなくても人のゲームの配信を見てたりしている。

別にこのnoteを書いている本体の素性は隠していないので言ってしまうが、筆者は社会保険労務士(社労士)という職業に就いている。

ご存じない方に簡単に説明すると、社会保険労務士というのは人事労務の専門家で、企業から労務に関連する相談を受けたり、労働保険や社会保険の手続きを代行している。


国民的RPGの主人公を務めたサラリーマン

ゲームという趣味と、社労士という仕事のあいだには何の関係性もないので、趣味の時間は自分が社労士であることなんて基本忘れているわけだが、とあるゲームだけは違った。

というのも、とあるゲームの主人公、こいつがゲームの主人公という肩書きのくせにサラリーマンだからだ。サラリーマンとなると、労働条件等が気になるのはもはや職業病。

じゃあ、そのとあるゲームとは何で、その主人公とは誰かと言えFFシリーズでも歴代屈指の売上を誇るファイナルファンタジー8の主人公スコールだ。

おいおい待て待て、スコールのどこがサラリーマンなんだ、と思うファンの方もいるかも知れない。

が、彼の所属している組織、バラムガーデンと彼の関係を見れば、彼がサラリーマンであることは明らか(!?)だ。


バラムガーデンとSeeD

バラムガーデンとは

スコールが所属するバラムガーデンは、SeeDという特殊な兵士を養成するための私立学校

一方で、育てたSeeDを世界中の紛争地域に派遣する業務を行っており、この事業によって莫大な利益を得ている。

つまり、バラムガーデンは私立学校であると同時に、兵士の派遣を生業とする民間会社でもあるだ。

こうした特殊性のため、バラムガーデンに所属する生徒はSeeDになる前は学生で、SeeDになった後はバラムガーデンの兵士(という名の社員)という扱いになる。

SeeDになるとお給料が振り込まれる

スコールはストーリーのかなり早い段階で、SeeDになるための認定試験を受け、これに合格し、SeeDとなる。

(FF8のストーリーはスコールがSeeDになった最初の任務とそのときの出会いによって大きく動き始めるわけだが、そのあたりはゲーム本編をプレイしてのお楽しみ。)

そんなストーリーとは別に、スコールがSeeDになると、なんとゲームのプレイ時間に応じてお給料が振り込まれるようになる。

これは当時、ドラクエ以来の「なぜかモンスターがお金を持っている」システムに一石を投じる画期的なシステムだった。

が、この時間によって定額の給料が支払われる、というのがスコールがサラリーマンであることの揺るがぬ証拠だと筆者は考える。

仮にSeeDの報酬が、出来高払いや一任務いくら、とかだったら委託契約の可能性もあるかと思っていたが、時間で給与が支払われるのであれば言い訳はできない。


SeeDの労働条件を考察

というわけで、スコール:サラリーマン説について完膚なきまでに証明したところで、ここからはスコールたちSeeDの置かれている労働環境やその労働条件についてみていきたいと思う。

ゲーム内の労働法についてはわからない(というか絶対設定されてない)ので、あくまで日本の労働法からみた解説となるのであしからず。

賃金

SeeDの賃金は固定給で、一定時間プレイすると自動で振り込まれる。そして、賃金額については、ゲームの進め方によって査定があり、金額が変動する。

この賃金額はランクによって、最低500ギルから最高30000ギル(ギルはFFシリーズの通貨の単位)。

ただし、これが日当なのか、週給なのか、はたまた月給なのかは不明。


物価

SeeDの固定給が高いのか低いのかを判断するには、FF8世界の物価を考えないといけない。

ただ、FF8世界の物価は、日本円に直そうとすると謎が謎を深まる。

なにせ、ホテルの宿泊費が100ギルかと思ったら、アイテムの目薬も1つ100ギルだったりする一方、電車賃はどこに行くにも3000ギル、レンタカーを借りると3500ギルかかる。

電車やレンタカーの値段は文明レベルや国の経済レベルにも寄るし、この世界、というよりRPG世界のホテルはその(ゲーム的な)重要性から(制作者からの)超補助金産業になってる可能性もある。

よって、ここは一つ、目薬からこの世界の物価を見ていきたいと思うのだが、日本の薬局で目薬を買うと、安いので300円ちょっと、高いのだと1000円以上する。

よって、目薬からから推測する物価は、1ギルあたり3円から10円くらいとなる。

最低賃金

よって、SeeDの給与が日当だと仮定しても、最低ランクだと日本の最低賃金以下の給与しかもらえないというわけです。

というか、最高ランクでも割とたかが知れてるので、バラムガーデンって学生上がりの兵士を安くこき使ってるから莫大な利益が生まれてるのではと邪推せざるを得ない。


時間外手当・休日手当・深夜手当

また、SeeDの給与は労働時間の長さによって金額が変わることがない。

つまり、スコールたちが時間外労働や休日労働、深夜労働をしても賃金額は変わらないわけだ。

ゲーム上で通常の労働と時間外労働・休日労働をどうやって区別するんだ、というツッコミはさておき、仮にスコールたちが時間外労働や休日労働、深夜労働をしても、時間外手当や休日手当・深夜手当は支払われていないと考えられる。

ただ、これらの手当を支払わないよう社員を働かせるとなると、少なくとも日本の労働法では、なんらかの労働時間制度を活用しないと実はかなり難しかったりするので、この辺は後述の「労働時間」の項目で詳しく説明する。

出張手当・福利厚生

業務で戦地に赴く場合でも出張手当は出ません。

バラムガーデンから業務命令により、ティンバーという街に行くときの電車代も自腹

一応、そのときの電車の座席はベッドやソファーの付いた超豪華席だったのだが、自腹なので喜んで良いのかどうなのか。

労働時間

SeeDの仕事は労働時間に縛られるものではない。

戦地に送られ、そこでなんらかの目標を達成し帰ってくる、というのが主な業務だからだ。

これを1日8時間1週40時間の法定労働時間の枠で収めるにはさすがに無理がありそうなので、所定労働時間はないと考えたほうが良さそうだ。

ただ、会社の社員が、所定労働時間なしで働く方法は、現行の日本の法律だと実はかなり限られる。

その限られる方法のうちの1つは、働き方改革により導入された特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)だ。

高度プロフェッショナル制度とは、一定の年収があるもので、高度に専門的な業務に就くものについては労働時間に関する様々な規制の適用を除外することができるという制度だ。

ただ、高度プロフェッショナル制度を適用できる業種は法律で限定されており、その中に「兵士」は含まれていない。

ちなみに高度プロフェッショナル制度の対象となる業務は以下の通り。

  • 金融ディーラー

  • アナリスト

  • コンサルタント

  • 研究開発職  etc

また、先ほど見たように「一定の年収」があるかどうかについても大きな疑問符が付く。

ちなみに、日本の労働法では高度プロフェッショナル制度の他に、専門業務型裁量労働制や企画業務型裁量労働制という裁量労働が認められているが、これらは1日の所定労働時間について「○時間働いたとみなす」制度にすぎず、「時間外手当・休日手当・深夜手当」を支払わなくてもいい、という制度にはなっていない。

労働時間の適用除外

日本の労働法には高度プロフェッショナル制度とは別に、労働時間の適用除外という制度がある。

その名の通り、労働時間に関する規制の適用除外となる人について、労働基準法は定めたものだ。

SeeDがこの適用除外に当たるのなら何も問題はないのだが、では労働時間の適用除外となる人とはどのような人たちかというと、以下の通りとなる。

  • 農業又は水産業に従事する者

  • 事業の種類にかかわらず監督もしくは管理の地位にある者(管理監督者)又は機密の事務を取り扱う者

  • 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けた者

労働時間の適用除外で、最も該当することが多いのがいわゆる「管理監督者」だ。

管理監督者とは会社の経営者に近い立場に当たる人をいうので、労働時間を適用するのはふさわしくないということで、労働時間の適用除外とされているのだ。役職者は残業は付かないと良くいわれる理由である。

ただ、この「管理監督者」については過去に「名ばかり管理職」が問題になって以降、適用が年々厳格化されており、会社が「管理監督者」だと思っていても、客観的・法的に見てそうではないというケースが多発してる。

それでなくても、スコールはSeeDになったばかりのぺーぺー、彼を管理監督者として扱うには無理がある。

このように見ていくと、SeeDに時間外手当・休日手当・深夜手当を支払わないバラムガーデンというのはかなり問題あり、といえる。

年次有給休暇

ゲーム内では1ミリたりとも触れられていないので、あるのかないのか、あったとしても使われてるのかどうかなど、一切不明。

そういえば、シリーズ変わってFF7の話になるが、タークスのメンバーはあるイベントで自分たちの休暇中にクラウドと会った際、「休暇中だから」という理由で見逃してくれる。

なので、神羅カンパニーは、有給や夏休みなどの長期休暇制度が整った意外と福利厚生のしっかりした会社なのかもしれない。

ていうか、休暇中なのに一緒にいるタークスって、実はみんな仲良かったり?

評価制度

評価制度については、法律上に特に定めはありません。

なので、評価方法が客観的に見て明らかに不合理だったり、評価の結果、賃金が最低賃金を下回るようなことがない限りは、会社が自由に制度設計することができます。

では、SeeDの評価制度はどうなっているかというと、SeeDの評価はランクによって細かく分かれています。

最低ランクが「1」で、そこから数字が大きくなるほどランクが高くなります。

数字上の最高ランクは「30」ですが、さらにその上に「A」というランクがあるので、SeeDのランクは31ランクに分かれていることになります。

ランクは基本的に、道中でモンスターたくさん倒せば倒すほどランクポイントがたまり、ランクが上がっていく。

逆にモンスターを全く倒さないとランクポイントは減り、ランクははどんどん下がっていく。

また、バラムガーデンで筆記試験を受けることができ、この試験で一定の評価を受ければランクを上げることができます。

筆記試験を利用すると割と簡単にランクが上がることから、バラムガーデンの方針は、まずはきちんと勉強をしなさいということなのかもしれない。

ちなみにFF8は味方のレベルが上がると敵のレベルも上がる仕様な上、お金に困るようなゲーム性でもないので、基本的にSeeDランクを上げるためにモンスターをたくさん倒す、というのはしないほうがいい。


定年

最後はSeeDの定年について。

なんとSeeDの在任期間は20歳までとされている。

なぜ、20歳までなのか、についての詳しい説明はゲーム内ではありませんが、推測できる要素はいくつかあったりする。

ただ、それを書き始めると記事の趣旨と逸れる上に、止まらなくてしまうので今回は省略。

ちなみにバラムガーデンの在学可能期間も20歳までとなっており、それまでにSeeD試験に合格できなかった生徒もその時点で放校扱いになる。

20歳で定年or放校ということもあり、バラムガーデンは生徒たちへの進路相談も行っている。

そして、エリート兵士であるSeeD経験者の進路はかなり優秀なようで、バラムガーデン側が元SeeDの進路実績を誇る描写がゲーム内にある

こうしたバラムガーデンの定年の扱いだが、実は日本の法律でみると完全にアウト。

というのも、定年を定める場合は60歳未満の定年年齢を定めることはできないからだ。

また、定められる定年年齢は60歳からだが、労働者が希望する場合は65歳までの雇用を確保するための措置を実施する義務が会社には課せられている。

まとめ

マジレスしてしまうと、ファンタジーな世界に対して、日本の法律という定規を当てはめることのナンセンスで、縄文時代に今の日本の法律を当てはめてるのと何も変わらない。

ただ、当てはめてみると意外な発見があったりして、書いてる方はなかなか楽しめましたが、読まれた方たちはどうだっただろうか。

こういった題材をきっかけに労働法等に少しでも興味を持ってもらえたら筆者冥利に尽きる。

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