【トークセッション】”個性強すぎ”な西の編集者たち、これから腕組んでなにをする?
Q. 編集者になったきっかけは?
竹内
大阪の京阪神エルマガジン社という出版社に入ったのがきっかけです。今、いろんな編集の現場に関わるようになって振り返ってみると、雑誌編集部って特殊な世界だったなと。月刊というスピードで大量のコンテンツを捌くため、複数の編集者が議論してひとつの号を作っていく。今は、自分ひとりで判断する局面が多いし、だいたい各現場に編集者って一人なんです。だから、編集面において何か発言すると、もっともらしく意見が通っちゃうことも多くて…。
雑誌を含めた定期刊行物って、ならではの仕掛けができる楽しみもありますね。たとえば、KIITO(デザイン・クリエイティブセンター神戸)で定期的に出すニュースレターの編集を担当しているのですが、毎号、異なるデザイナーにお願いしています。KIITOがデザインを標榜する機関でもあるので、いろんなデザイナーのやり方を定期刊行物ならではのアプローチで試してるという面もあります。これって単発の媒体ではできないことかなと思います。
あと、雑誌ならではの面白みというのもやっぱりあって、いまも「雑誌的に考える」ことは好き。編集視点で面白いと思うものを寄せ集めて、整理しすぎず雑然とごちゃっとした、けど筋の通ったものに魅力を感じます。
しまだ
私はライターという側面もあるのですが、竹内さんが「雑誌的」であれば、私は「ラジオ的」かもしれません。話すように、というか。
そんな私が編集の世界に入るきっかけは、まず小学校の頃に放送委員と新聞委員になったこと。給食の時間に流す「お昼の放送」の内容を考えたり、すごく絵がうまいクラスメイトを見つけて「それ、新聞に載せへん?」って声かけて、一緒にコピーしに行ったり。私は自分が主人公になって目立つのが好きだけど、いろんな人に主人公になってもらうのも楽しいなってその時思ったんですよね。
竹内
編集者として完璧なエピソードやん(笑)。
しまだ
社会人になってからは「HELLOlife」というNPO法人で働いていたんですけど、その時に初めて書く仕事を発注してくださったのが竹内さんなんです。いろんな職業の人が、日記を1週間ずつリレー形式で書くというもので。
竹内
懐かしいね。
しまだ
プロの編集者に出会ったのも、竹内さんがきっかけ。竹内さんも周りの人達も、みんな働き方や考え方が素敵で。その時に「編集者っていいな」という印象がついて、その後、人間編集部に誘われた時も「やるやる!」と思えたんです。
竹内
今の話を聞いて「編集者っていいな」って思ってもらう、憧れてもらうことって大事だなと感じました。そもそも「編集者」を知っている人が少ないですよね。
光川
編集者って裏方・黒子であることが美学と思われる部分が多いし、実際制作物の中で著者やデザイナーの名前は出ても編集者の名前が出てくることってほとんどない。Amazonでも、最近はデザイナーの名前が登録されるケースはあるんですが、企画の中核にいる編集者の名前が流通することはないですよね。それに対する悔しさはあります。
トミモト
特に関西だと、業界の中では目立っている編集者だとしても、学生から憧れられることってないですもんね。編集ってどうしても「裏方」って立ち位置になっちゃう。
竹内
もっと目立つ編集者が増えてもいい、と個人的には思いますね。
光川
2010年代のメディアを牽引した、顔出し型のWeb編集者の登場によって、かなり編集者像もアップデートされたと思います。
Q. 現状の関西における「編集」についてどう思う?
しまだ
私はポジティブに捉えています。こういう団体が今こうやって立ち上がっている時点で希望があります。関東の知り合いから羨ましがられましたよ!
光川
この協会を立ち上げるという話が、Web編集をしている「人間編集部」と「しがトコ」から出てきた、というのが面白いと考えています。
出版社をはじめとした紙媒体のビジネスモデルって、版権のこともあってClose&Onlyであることで成立していますよね。競合意識も強く、編集者同士の情報共有も良しとされていない。一方、WebってOpen&Shareのマインドがあっていいですよね。
トミモト
WebはWebで、紙の業界に対して、権威性というか、踏み込みにくさを感じていたりします。紙媒体の方にWebの仕事をお願いするのに申し訳なさを感じてしまうんですよね。
でもだんだん紙媒体の方々のつながりが増えてくる中で、紙媒体の編集者とも、もっと色々できるんじゃないかと思えてきました。
しまだ
地域性の話をすると、私は、お店への取材のしやすさは大阪が圧倒的だと感じます。お店で喋ってそのまま記事にしやすいです。東京と比べて関西は、お喋りな人やお節介な人が多いので、初心者でも情報を取りに行きやすいのかも?
トミモト
大阪人は自分のことを説明するのが下手だったり、ストレートに表現できない所があって、「ちゃんと編集せな!」って気持ちに駆られる(笑)。都市のキャラで見ても京都は編集が上手いですよね。
光川
一方で京都は、情報やコンテンツの多くが編集し尽くされているので“余白がない”と感じます。読者がたどり着かないレベルで、コンテンツをこねくりまわしている感は否めない。お隣の滋賀はまだまだコンテンツのフロンティアが残っていて、開拓する楽しみがあります。奈良はどうでしょう?
しまだ
奈良はそもそも編集に対する危機感は薄めかも…奈良は奈良のペースがあるというか。地域の特性でいうと、奈良って歴史や伝説が多すぎて、何がほんまか分からんくて面白い。先日、本当の歴史と自作の伝説を混ぜて語るツアーをして遊びましたが、全然バレなかった(笑)。「余白の滋賀」なら「虚構の奈良」、私は奈良の虚構を編集したい。
トミモト
関西の面白さって、それぞれ個性が強すぎること。狭いエリア内で「これが奈良!」「これが京都!」のような「らしさ」がはっきりしていますよね。だから関西は編集しがいがありますね。
関東だと、「みんな東京を目指す」という空気感があるけど、関西はそれぞれのエリアで独立しているのが特徴だと思います。
光川
ここでも和歌山の話が出ないという…。和歌山の編集者、ぜひお待ちしています!
Q. 今後、何を保安していきたい?
トミモト
私は、「編集協会」じゃなくて「編集保安協会」をつくりたいんですよね。関西はアピールが下手で東京に負けてしまうところがあって、編集の力で関西の良さを保安して守らなきゃ、という思いで立ち上げました。
セカンドオピニオン制度は先んじて人間編集部でやっていたんですが、「編集者がつかない仕事をしてるんやけど念のため見てほしい」という声がフリーランスの中であって、それならみんなで気軽に相談しあおうよ、ということで始めたんですよ。
しまだ
私はSNSでのバズがきっかけで、あまりイロハを知らないまま作家活動がはじまりました。過去には、書いた記事がネガティブに燃えてしまったこともあって。「プロの編集者や専門家に見てもらったらよかった」と、情報を発信する前のセカンドオピニオンの必要性を感じました。
竹内
雑誌の会社にいる時は編集者が複数人いることがよくあったけれど、今って編集者が1つの案件に一人しかついていないことが多くて、編集者が何気なく言ったことが大きな力を持ってしまうこともある。編集が力を持ちすぎていないかという不安があります。
光川
何を保安をしたいかは、立場によってまちまちだと思います。重要なことは、この協会が権威化しないこと。サークル感覚を保つ意識を持ちたいです。「編集ってどこまで知財権に関与できるのか」みたいなまじめな話をするグループもあれば、もっとラフな目的で集うグループがあっても良いと思うんです。
竹内
「良い編集とは?」みたいな話もしていきたいですね。今年の「ベスト編集賞」を決めたりとか。
Q. 今後この協会でやりたいことは?
しまだ
たくさん考えてきましたよ!まず、「赤字校正交換会」。赤入れした原稿を交換し合って、「そうやって伝えるんや~」って学びたいです。
竹内
確かに、どの場面で誰に伝えるかによって赤入れって変わりますね。赤字校正の背景や目的とともに展示できると面白そう。
光川
赤入れもいいですし、ラフも見せ合いたいですね。「ラフ展」したい。
竹内さんと一緒に仕事していて一番感心するのは「ラフの展開力」なんです。単に情報を並べるんじゃなくて、前後のページを立体的に使いながら、アイデア溢れる導線設計をなされている。赤字校正より、差が出るかもしれません。
しまだ
あと、いろんな編集担当の15分を駄々漏れさせる企画もやりたいんですよ。「へ~この人って著者に電話する時、こう伝えるんや~」て感じで、フィードバックのやり方を見てみたい。
光川
そういえば、「関西の編集者ってコミュ力があるから、モノを作るだけじゃなくて、営業トークから飲み会のおべんちゃらまで複合的にできて有能だよね」と東京の編集者から言われたことがあります。東京だとたくさん人材が集まる分、分業化が進んでいてそうはいかないそうです。「電話の話し方」のような副次的な要素から編集者の個性を見ていくのもおもしろいですね。
しまだ
もう一個。子ども向けにもっと気軽に編集を知ってもらうために、「へ~んしん!」じゃなくて、「へ~んしゅう!」ってイベントをやりたい!
竹内
それが言いたいだけやん!
しまだ
バレたか(笑)。 でも半分は真面目に考えていて、ヒーローみたいに困りごとを「解決」するんじゃなくて、「編集」というスキルに触れることで、考え方・楽しみ方・取り組み方を学んでもらえたらいいなって。
光川
教育に「編集」が入り込むことで、小さい頃からこの仕事を知ってもらえるといいですよね。普段触れているコンテンツがどう作られているかを、例えばゲーム形式で学べるようなツールを作ってみるのもおもしろいかも。
トミモト
子どもたちも多分、知らぬ間に遊びを通じて編集をやっていると思うんですよね。それが編集だと気づいていないので、教える機会を作れたらいいですね。
~質問タイム~
トークセッションの終わりには、会場からの質疑応答・意見交換も。編集者による編集者への編集に関する質問と、それに対する編集者の回答が繰り広げられました。
Q.
編集って雑誌のイメージが強いですけど、雑誌って読まれなくなっていってる。そんな時代で、若い世代がどう編集に憧れるんでしょうか。(株式会社人間 山根シボルさん)
A.
しまだ
映像、特にTikTokなどのショート動画や、音の編集なんかが身近にありますよね。
光川
SNSなどのプラットフォームは、デザインや構造がフォーマット化されている分、コンテンツ勝負なところがあり、編集できる領域が少ないですよね。その点、紙やWebサイトはメディアの世界観を自由度をもってカスタマイズできますし、裁量権が広い分、やりがいを感じますね。
とはいえ、TikTokをはじめとしたショート動画は、短時間に圧倒的な情報量を提供できるし、ユーザーがコンテンツを選択するのではなく、サービス提供者側が次々とコンテンツを展開するので中毒性があります。メディア環境や媒体の特性を研究するチームとかもつくりたいですね!
トミモト
編集保安協会を通じて、今後のメディアのあり方も考えていきましょう。
最後には集合写真も撮影。
また、トークイベント後は懇親会も行いました。