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日替わりで選べる関西の編集インターンプログラムを取材しました

こんにちは、フリーランスの編集・ライターをしている宮田です。

編集者の卵を保全・保安し、関西発の編集者を増やす団体・関西編集保安協会(以下、協会)。協会の設立からまもなく行われた学生向け合同インターンシッププログラム「イレカエインターン」が2023年夏に1週間おこなわれました。
「イレカエ」とあるように日替わりで自分が興味のある会社を選び、編集を学べるユニークなインターンプログラム。
今回、インターンを受け入れた編集者とインターン生に取材をしました。


イレカエインターンシップの概要

前半は人間、後半はバンクトゥといったぐあいに、インターン生は興味のある複数企業に応募ができる

参加企業

  • 株式会社人間

  • 株式会社週刊大阪日日新聞社

  • 合同会社バンクトゥ

インターン生の所属大学 ※五十音順

  • 関西大学

  • 京都精華大学

  • 甲南女子大学

  • 神戸大学大学院

▼イレカエインターンの詳細はこちら


肩書きのない「超生命体」を編集する(株式会社人間)

まずお話を聞いたのは株式会社人間のトミモトさんです。とがった企画を世に出し続ける同社では、どのようなインターンがおこなわれたのでしょうか。

▼インタビューした人

-- インターンで実施したプログラムの内容を教えてください。

トミモト:1日完結型のプログラムで、実際の取材現場を体験してもらうこととと、企画を考えて企画会議に参加してもらうことの2つの軸で構成しました。また、進行管理も大事な業務なので、

トミモト:1日目の午前は、取材前に必要な情報のインプットをしました。自社メディア『ヘンとネン』のコンセプト説明から、取材時のマナー、読まれる記事を書くための構成、取材先のリサーチ、想定質問の用意など「取材の心得」をレクチャーしました。

初取材で写真撮影を任されたインターン生のR.Hさん。
取材前は不安げな表情を浮かべていたが、いざ始まると楽しんでいたという。

トミモト:実際の取材を通して「これがそういうことか!」と取材前にインプットした心得を極意として学んでくれたみたいで、自らその学びを説明してくれました。参加した学生は「インタビュイーの話を聞くことで精一杯だった」と言っていましたが、興味をもって楽しむことが一番大事。驚いたり笑ったり、いい顔をしながら話を聞いて、インタビュイーを気持ち良くさせていたので100点満点でしたね。取材後は、実際に撮った写真の選定と、見出しやタイトルに使う「パワーワード」のすり合わせもしました。

実際に取材した記事がこちら

トミモト:2日目は、企画会議に参加してもらいました。1日目に取材体験をしてもらったことで、会議でどんな話をして取材に至ったのかわかってもらえたかなと思います。

年齢、経験は一切関係のない株式会社人間の企画会議。面白いアイデアであれば学生インターンであっても大歓迎

トミモト:人間って、変なことやってる会社なんですけど、一緒に仕事すると「ちゃんとしてますね」と驚かれるんです。真面目にふざけることを仕事にしているので、。企画会議に参加してもらうことでアイデアをどうジャッジしているか、計算されて企画が考えられていることを知ってもらえたかなと思っています。

-- 今回のインターンシップに参加して良かったことを教えてください。

トミモト:他の企業のインターンプログラムを覗き見できたことや、参加企業間で良かったことや「次はこうしよう」といった考えを共有することができて良かったです。

-- 今後の展望について教えてください。

トミモト:私たちのミッションは人間を編集すること。コンテンツを作る人、取材する人、彼らを編集できる人たちを育てていくことが人間編集部のコンセプトです。編集はあらゆることに必要だと思っています。でも「編集」という言葉は「デザイン」ほどなじみがありません。
表面的な情報や言葉だけを捉えるのではなく、相手の言葉の背後に隠れている思いなどそういった奥深い部分に目を向けていくことが大切だと考えています。そうやって深く掘り下げられる人たちを育てたい。
大阪には自由に生きている熱量の高い人たちがたくさんいて、私たちは「超生命体」と呼んでいます。彼らは自分のことを説明できない、肩書きがわからないことに悩んでいます。
「あなたはそのままで素晴らしいです」と全肯定しつつ、彼らを編集して世の中にわかりやすく伝えていくことで大阪のバイブスを高めたいと思っています。
2025年の万博に向けて「大阪の人ってやっぱりおもしろいよね」と再認識してもらえるよう、大阪一丸となってモチベーションを上げていけたらいいなと思っています。


インターン生の感想

甲南女子大学3年生 R.Hさん
私の趣味が写真撮影だったこともあり、取材の際に撮影を担当させてもらいました。トミモトさんからこういう写真が欲しいと具体的な指示をいただき、やりやすかったです。2人で写真の選定をして、インタビュイーに好きな顔や表情をヒアリングしながら最終的に決めました。トミモトさんから共有いただいた原稿のクレジットに、自分の名前が載っていてすごく嬉しかったです。



無料配布にこだわる新聞社の現場を生体験(株式会社週刊大阪日日新聞社)

続いては、大阪を拠点に無料で自宅に届く地域新聞『週刊大阪日日新聞』を発刊している株式会社週刊大阪日日新聞社(以下、日日新聞)の礒見さんにお話を聞きました。

▼インタビューした人

業界全体で編集者を育てる関西編集保安協会の理念に共感した礒見さん。合同インターンの話を聞き、参加表明までにそう時間はかからなかったと話す

-- インターンで実施したプログラムの内容を教えてください。

磯見:日日新聞のスタッフは、広告営業・記者・企画・編集など複数の職能をもっており、さまざまな業務に携わっています。インターン生には、営業から、企画、取材、記事の編集までひととおりすべての業務を体験してもらえるプログラムにしました。

朝は社内定例会に参加してもらい、そのあとは地域特集のテーマについて自由に考えてもらいました。午後は取材訪問し、帰ってきてから1時間程度で記事を仕上げてもらいました。

自分の書いた記事が12万部発行され各家庭に届けられる。一度発行されるとやり直しがきかない現場の緊張感を体験した

-- 今回のインターンシップに参加して良かったことを教えてください。

磯見:業界のなかでも見落とされがちなローカルなフリーペーパーやタウン誌などの媒体があることを、知ってもらうことができました。また、前職で採用担当をしていた経験から、求人情報だけでは会社の雰囲気や働き方が伝わらないと課題を感じていました。今回のインターンで自社の仕事の魅力や働き方について話せて良かったです。
また、イレカエインターンに参加したことで個別のインターンを受け入れることを決めました。以前は個別のインターンシップ受け入れに慎重でしたが、イレカエインターンに参加してみて、良い結果が得られたことで、個別のインターン受け入れに前向きになりました。

-- 今後の展望について教えてください。

磯見:新聞を発行し続けていくことを大前提に、「おもしろい」とか「新聞って意外といいよね」って思ってもらえる人を増やしていきたいです。もちろん読み物の媒体としても、仕事としても「日日っていいな」って思ってもらえるよう、おもしろいことをやり続けたい。

ターゲットはあえて絞らないスタイル。大阪の独自ネタ、暮らしに役立つ記事を発信している

磯見:今回のプログラムでは、期待を込めてハードなスケジュールを組みました。インターン生にとってはハードルが高いかなと思っていましたが、そんな不安をはねのけるようにすべての課題をこなしてもらい、彼らの能力の高さに驚きました。これを学びに今後のインターンでは、思い切ってインターン生に仕事をお任せしようと思います。


インターン生の感想
神戸大学大学院修士2年 N.Sさん
インターンの説明会で、日日新聞さんの編集の切り口が一般的な新聞社とは違う印象を受けて、応募をしました。
社内定例会(企画会議)で遺産相続ネタについてディスカッションする社員さんを見たり、実際に中津エリアで取材〜記事執筆を担当させてもらい、日日新聞さん独自の色を感じることができてよかったです。
また、個人的にライフワークバランスにも興味をもっていました。堅苦しい新聞社のイメージとはかけ離れた柔軟な勤務形態を取る日日新聞さんの組織文化も非常に印象的でした。



さまざまな角度から編集の正体を探る(合同会社バンクトゥ)

▼インタビューした人

編集を専門的に学べる機関が日本には少ないなかで、イレカエインターンは編集を学べる貴重な機会だと語る光川さん

-- インターンで実施したプログラムの内容を教えてください。

バンクトゥの通常業務をOJTで体験してもらった

光川:大きく3つの構成で実施しました。1つ目は、現役の編集者から学ぶ。地元の噂をもとに取材・情報発信をしている観光メディア 『ポmagazine』を、約3年間バンクトゥで運営しています。ちょうど振り返る良いタイミングだったので、過去3年間でどんな記事がおもしろかったか、編集して何が印象的だったかを運営メンバーで話す場を設けました。インターン生にも同席してもらい、企画の仕方、編集のまとめ方などのポイントをレクチャーしました。

記事ごとのアクセス数に応じて、噂の広がりぐあいが可視化される仕掛けに ポmagazineより

光川:2つ目に編集の基礎を習得。社内の研修プログラムでもある編集基礎リテラシーを受けてもらいました。メディアや編集の定義、バンクトゥが目指す編集について、編集工程におけるポイントなどをレクチャー。そのあとに世の中で活躍している編集者のケーススタディを通して、編集について一緒に考察しました。

3つ目は、実践。約35万フォロワー数を超える京都観光のSNSメディアの投稿記事の企画、原稿作成、編集までインターン生に手を動かしてもらいました。過去の投稿やトレンドのリサーチ、写真の選定、文章を考えて書くなど、普段僕らがやっているような実践的な業務を1日かけてやってもらいました。


「地域に寄り添う町医者的なスタイルの編集でありたい」と話す代表の光川さん

インターン生の感想
甲南女子大学3年生 R.Hさん
光川さんの「編集者は何もできない(しない)仕事」という話が印象に残っています。私は写真撮影が趣味で、写真に携わる編集がしたいと考えていました。知識が豊富なわけではなく自信をもてなかったところに「編集者が専門的なことを知らないことが、むしろ強みである」と挑戦を後押ししてくれる言葉をかけてもらえました。
課題のワークについては、正直、難易度が高かったです。企画を考えることの”難しさ”を体験したい気持ちで参加したものの、実際に取り組んでみて編集のしんどさ、厳しさを目の当たりにすることができたのは学びでした。

インターン生の感想
神戸大学大学院修士2年 N.Sさん
インターンに参加する前までは自分のスキルが編集業界でどれだけ通用するのかわからず、キャリアに悩んでいました。編集基礎リテラシーのなかで「編集者の意義」についてお話を聞いたとき、「編集者をやってもいいかもな」と思えました。またSNSメディアの投稿記事の企画・編集のワーク結果に対してのフィードバックで評価してもらえて自信につながりました。


-- 今回のインターンシップに参加して良かったことを教えてください。

光川:通常のインターンは「はい、終わり。お疲れさまでした!(解散)」のようにあっさり終わるんですが、合同でインターンをすることで密度の高いお祭りのようなムードがありましたね。インターンの最終日に交流会をしたのですが、参加した各企業とインターン生が集まって、それなりの人数の飲み会になりました。企業同士でも意見交換をしたり、インターン生とフラットに会話したり。彼らにとっても、将来の同業仲間になるかもしれない貴重な機会だったと思います。

-- 今後の展望について教えてください。

光川:まだまだ日本には編集を専門的に学べる場が不足していると思っています。デザインやテック関連の学部は増えていますが、編集専門の学部は聞いたことがないですし、そこに社会の需要とのギャップを感じています。だからこそ僕たちのやっているインターンは意義があると思っていますし、今後もやり続けたいですね。
次回のインターンでは、参加企業間で密度を高めるために、一緒に何かに取り組んでもいいかなと考えています。たとえば、実施期間のうち1日は全員でフィールドワークしたり、一緒に企画会議をしてみたりするのもいいかもしれません。編集という職能は汎用性が高いと思っています。"場の編集"、"町の編集"、”経営の編集”などあらゆる領域で重宝されるし、つぶしがきく職業だとも思います。もしキャリアに悩んでいる学生さんがいたら、ファーストキャリアとして「編集者」になる選択肢があることも伝えていきたいです。


インタビューを通して

私自身、編集を学んでいる途中だったこともあり、今回のインタビューを通して多くを学ばさせていただきました。一番の学びは、デザインと同じように編集にも「広義の編集」と「狭義の編集」があること。
今まで編集に対するイメージは、Webメディアや雑誌などの"最終アウトプット"に紐づけられていました。しかし、編集というのはいろんな場面で使えるスキルで、「これが編集だ!」のように正解はひとつじゃない。「編集」をもっと広く捉えられた気がします。

協会として初めて実施したインターンプログラム。すでに次回のインターン実施に向けて、協会ではアップデートをかけているようです。
「編集に興味あるけど、どう学んだらいいかわからない」「編集者になりたい」と思っている学生、「編集に興味のある学生を採用したい」「学生と交流したい」と思っている企業は、関西編集保安協会への入会を考えてみてはいかがでしょうか?

2023年11月取材

プロフィール
宮田寅成(みやだ・とらなり)
関西編集保安協会の会員、フリーライター。上海人の父と台湾人の母を持ち、台湾原住民のルーツを持つ。日本と台湾をブリッジするプロジェクトに関わりながら、台湾原住民メディア『ngiha’ Magazine(ニハマガジン)』を運営。


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