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【こんか漬けとお酒】「天狗舞 山廃仕込純米酒」

今回は再び石川県の伝統的な保存食である魚のぬか漬け「こんか漬け」と、それに合う石川県の地酒のお話です。

「天狗舞 山廃仕込純米酒」

今回紹介するのは石川県白山市の車多酒造の看板商品である人気銘柄「天狗舞」、その中の看板商品である山廃仕込純米酒です。

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このお酒でよく目にする商品の宣伝コピーや蔵元自身の紹介文は以下の通りです。

このお酒は、純米酒・山廃造りの代名詞とも言われる天狗舞の看板商品で、山廃仕込み特有の濃厚な香味と酸味の調和がとれた個性豊かな純米酒です。
濃い山吹色は目も楽しませてくれます。

濃い山吹色

このお酒の特徴的なのは、まず色です。山吹色と表現されるうすい黄色みがかったきれいな色をしています。

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この色に仕上がるのは製法に依るところです。車多酒造では、強い酵素力の麹を用いますが、この山廃仕込純米酒では時間をかけて育てた山廃酛で造り込み、これをゆっくり熟成させるため、このような特に濃い黄金色に輝く酒に仕上がるのです。

伝統の山廃仕込み

伝統の山廃仕込みは、米と米麹、水の原料だけで一から酵母を作るので、とても手間のかかる造り方です。山廃仕込みとよく比較される造りで、生酛という造りがありますが、簡単に言うと両者の代表的な違いは米をすりつぶすか否かという違いがあります。

生酛は米をすりつぶすことで乳酸菌を取り込む手法ですが、山廃仕込みは米をすりつぶさずに自然に任せ乳酸菌を発生させます。生酛と山廃仕込みで出来た日本酒では、それ故にそれぞれ味や香りが違ってきます。


天狗の舞_ラベル2

初めて山廃を飲むという方にぜひお勧めしたい、抜群の完成度の日本酒です!

この酒造が山廃に拘り続けているのは、酒本来の旨味は山廃でこそ醸せると信じているからです。「天狗舞 山廃仕込純米酒」の信条、それは

「米の旨味を飲んでいただきたい」というこだわりで生まれた純米酒

濃い複雑な香り

伝統的でじっくりと仕上げられたこのお酒の香りも独特で、まず最初にお米を感じさせる稲穂や麦の香ばしさを感じられ、迫力のある香りがします。

次に、香り自体は落ち着くのですが酸味(カブの葉、水菜、春菊のような)や蜂蜜のような濃い甘み(かりんとうのような)を感じる香りがしてきます。

調和がとれた、且つ複雑な味わい

まず口に入れると、熟成から来る一瞬のまろやかさがあり、感触はやわらかくとろりとしています。

その後に山廃造りによるはっきりとした酸味が出てきて口に広がります。香ばしさを伴った旨味とともに味を形成し、含み香に蜂蜜やザラメのような濃いめの甘みや、そしてほんのり苦みも感じられます。辛口感が持続されますが、これはまろやかですがはっきりとした酸味が後々まで残るからです。

色々な味が感じられ、ある意味ではバランスが取れた調和された味わいですが、様々な味がするので甘いのか辛いのか良く分からなくなってくる、香り同様に複雑な味わいとも言えますね。

抽象的な言い方だと、圧倒的な迫力と繊細さが共存し独特の世界観を創造している、非常に個性的で、ややもするとそれ故好き嫌いが分かれるかもしれないお酒ともいえるのではないでしょうか。

冷酒も常温も熱燗も美味しく飲めるお酒

冷酒(10℃前後)…控えめながら個性的な香りはあり、味わいには酸味が強めに出て口の中が締まり、その後に来る甘さや旨味がじんわりと口の中に残ります。余韻で渋味や苦味が感じられます。

常温(20~5度)…まろやかな香りに、味わいも酸味がやや薄らいで甘さや旨味などを感じやすくなり、やわらかくなります。ただ渋味も増す印象で複雑さが増して、クセが強く感じられるかもです。

ぬる燗(40℃前後)…やわらかい香りがして、味わいは酸味がさらにやわらぎ、まろやかな甘みが出てきて、お米の旨みが引き出された濃い味が口の中に広がります。飲んだ後に口の中に程よく残る酸味や苦味が芳醇なお酒の印象を醸し出しています。

熱燗(50度前後)…香りに少し辛口感が出てきます。口に入れると熱さによる辛口感がありますが、さらに酸味が和らぎ甘みや旨味が出てきて、じんわりと口の中に残ります。

このお酒に合うこんか漬け

「天狗舞 山廃仕込純米酒」は、醸造用アルコールが入っていないので、よりお米本来の旨味を感じやすくなっています。つまり、旨味が強いのでおかずやご飯を食べながら、晩酌用として飲むのにぴったりな日本酒です。

また味わいが濃厚かつ酸味のある日本酒なので、濃い味付けの料理や個性的な料理が合います。

そこでお勧めしたいのが、ふぐの卵巣の糠漬けである「ふぐの子」です。

ふぐの子容量そのまま

「ふぐの子」は、ふぐの卵巣を塩漬けと糠漬けけし、2年以上発酵し熟成させた食品で、石川県でしか製造されていない伝統的な発酵食品の珍味です。<世界的に珍しい>とか<奇跡の食品>と紹介されることが多い食材ですが、ふぐの卵巣には猛毒が含まれており、その卵巣の毒が塩と糠に漬けることによって、無毒化される(その無毒化のメカニズムは科学的に未だ解明されていません)ことに由来しています。

2年以上漬け込むので、こんか漬けの中でもかなり個性のある、<クセが強い>濃い商品で、発酵の際に産出する多数の乳酸菌による独特の味わいと、このお酒の複雑な味わいが絶妙に絡み合います。

また<クセが強さ>でいうと「へしこ」とも合うと思います。「へしこ」とはサバの糠漬けで数ある青魚の糠漬けの中でも脂ののった味わいを堪能出来る商品です。

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「ふぐの子」にしろ、「へしこ」にしろ個性あるクセが強い食材ですが、複雑な味わい・色々な味の側面を持ち且つ飲み口で表情を変える「天狗舞 山廃仕込純米酒」と合わせることにより、肴が食べやすく、より美味しく堪能出来るという利点があると思います。

また、いずれも保存食として発展してきた形態の食材ですので、塩辛い(塩分濃度が10~12度)のですが、両者のマッチングによりこのお酒の持つ米の旨味が一層引き立てられ、「ふぐの子」や「へしこ」の塩辛さがマイルドに、もしかすると甘くも感じられることがあるかもしれません。その際、このお酒を頂くときの温度帯は常温かぬる燗を、そしてつまみとなる肴の方はいずれも加熱せずそのまま(生のまま)召し上がるのをお勧めしておきます。



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