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Chat GPTでESを書くことに反対する理由

こんにちは、羽田です。学生向けのキャリア支援サービスや、学生の声を活かして企業の採用活動をよりよくしていくサービスをやっております。

で、今日はChat GPTと学生のESの話。

まずはじめにお伝えしておくと、僕はChat GPTは課金しているし、仕事でちょいちょい使ってもいる。そもそもガジェット好きだし、デジタル界隈の新しいツールにはまずは触ってみるタイプだ。実際、このChat GPTを使ってみたのも結構早いほうだったと思う。

ただ、そんな僕でも、Chat GPTを使って学生就活のエントリーシート、いわゆるESを書くことには反対だ。いや、正確に言うと「慎重に考えたほうがいいなと思った結果、反対だな」みたいな感じだ。

時代の流れというものがあるので、僕なんかがこんなこと言ってもきっとAIがESを考えることがあと数年もしたら当たり前になるのだろう。でも、やはり自分の意見は書いておきたいと思う。

ESをAIに書かせるサービスが出てきた

リンクは貼らないが、ESをAIで書かせるツールを出す就活会社が何社か出てきた。そのうちの1社は有名な就活会社で、彼らのリリース文を読むと「学生の多くがES書くことを手間だと思っていてその負担を削減して本来集中すべきことに集中してほしい」とかいうもっともらしいことが書いてある。

美談で就活を語って自分たちのブランディングすな

いかにも素晴らしいポリシーのようなパッケージングをしちゃうのが広報やブランディングがお上手なこの会社らしいなと思うけど、僕はこれは完全に学生のこと考えてないなと思ってしまう。

この会社が前提としているのは「充実した学生生活に裏打ちされた自分の内省化、つまり自己分析をしっかりやって、それなりに自分の言語化ができていてさらにいうと最低限の日本語力と文章力は持ち合わせている学生」を対象としている点だ。たしかに、そういう学生にとってはESを書くなんてことはただのタスク処理であり、そこに時間を割くのはもったいないのかもしれない。それはわかる。

ただ問題は、そんな学生ばかりじゃないどころかどっちかというとそんな学生はマイノリティだということだ。圧倒的多くの学生はそこまで自分を内省化できていないし、文章だってそんなにうまくない。この就活会社はきっと一部の意識高く素晴らしく優秀な学生しか見えていないんだろうなと思ってしまう。

ESを四苦八苦して書く過程が学生を成長させる

僕は日頃、学生の壁打ち相手になったり悩みの相談に乗ったりES添削をしたりしている。そうして思うのが、ESを書くという手段を通して学生が自分を見つめ直したり「論理的に伝える」ことを習得していくということだ。

通常、ESの文字数制限は一つの設問に対して200文字とか多くても500文字とかそんな感じだ。そうした制限された中で自分の特徴を効果的に文章で表現するには自分を内省化し、自分の持っている特徴や個性の序列化して優先順位をつけ、最も純度の高い自分の個性を選択した上で論理的に文章で表現する必要がある。

就活で、最も地味で最も困難で最も重要な自己分析をする必要があるのだ。その思考の探索こそが就職活動であり、ファーストキャリアを歩むうえで大切なプロセスだと思う。

ところがこれをAIがやってくれるという。それは、学生のとても大切な成長過程をないがしろにする事にならないだろうか。

一応慎重にならないといけないのは、このサービスはまだ正式ローンチ前であり、実際どんな手触り感のサービスなのか分からない。ひょっとしたら学生の思考探索もしっかり手伝ってくれるサービスなのかもしれない。

でももし、自分のエピソードや自分の性格を入力したらすぐさま制限文字数以内に文章がずらずらでてくるようなサービスだったら、これは学生の就活を馬鹿にするサービスだと思う。

AIが吐き出した文章をちゃんと自分でチェックして自分なりに書き直せばいいと思うかもしれないが、AIが書いたそれっぽい文章を、学生が手直しするのは勇気がいるのではないかと思う。Chat GPTがここまで世間に一気に広まったのは、その文章があまりにも自然で違和感がないものだったからだ。きっとAIが書いたESも素晴らしいクオリティなのだと思う。だから危険なのだ。それが学生が見て、直すことが出来るだろうか。AIが書いたことを正として、それに合わせて自己認知を歪めてしまう気がしてならない。

AIは人間起点であるべきだ

AIは便利だし素晴らしい。でもそれは、人間が起点になって、AIを使いこなす事が前提だ。
学生と普段話しているとわかるけど、就活サイトとかである職業適正診断テスト。あの結果で志望業界や企業を変えようとする学生って普通にいる。僕はあんなもん、朝のニュース番組の占いみたいなもんだ、といつも話すのだけど、大人が思っている以上に学生はテクノロジーが弾き出す結果に従ってしまうのだ。レコメンド世代だから。

するとどうなるか?例えば学生が「私の強みは辛くても最後までやり抜く力」だと思っていたとする。しかしAIにESを書かせてみたら「私の強みはコミュニケーション力です」と出す。すると学生は「そうなのか。じゃあ営業とか志望した方がいいのかな」となってしまうのだ。

思考探索のプロセスを無くしてしまうとAI起点の就活になりそうで、それは絶対違うと思うのだ。

ESで合否が決まるならいいけど、面接どうすんの?

あとそもそもAIが書いたESは素晴らしかったとして、次の面接はどうするんだろう?ESだけで内定が出る企業なんていない。必ずその後に面接がある。面接は、「上手に喋れるかどうか選手権」ではない。面接からくる質問にしっかり答えられるか否かは、自分の内省化と自分の言語化がどこまで出ているかにかかっている。そこまでの思考の探索の積み重ねこそが、土壇場で活きるのだ。

で、AIがそこを代替わりしてしまっていると、面接で突っ込まれた時にうまく対応できないんじゃないかなあと思うのだ。ESはAIのお陰で受かる。でもその後の面接が全然通らない、、、みたいなことが起きる気がする。もちろんそれじゃ意味ないよね。内定出ないんだから。

楽できるサービスがあったら、そりゃ使うよね

と、いうわけで色々思ったことを書いてみた。繰り返すけど、まだ僕はそのChat GPTを活用したESサービスを使ったことがあるわけではないから全くの的外れのことを言っているのかもしれない。でも、Chat GPTのあの素晴らしいユーザ体験から連想すると、僕の心配はそこまで的外れでもないのかなと思うのだ。

そして、楽にESが書ければ書けるほど、きっと多くの学生が使うことになるだろう。それはサービスとして、ビジネスとしては正解なのだと思う。でもねえ、この業界で教育・人材育成的な観点をガン無視したサービスはいかがなものかと思ってしまう。大学が禁止にしようが、企業が禁止にしようが、きっとこのサービスはどんどん普及するんだろう。そうなった時、ひょっとしたらES自体がなくなるかもしれない。

AIは素晴らしい。大好き。でも、それはあくまで人を起点にしたサービスであってほしいなと思うのだ。


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