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最初の驚き

1983年から2021年3月まで特別支援学校に務めていました。2021年3月に定年退職。運動やコミュニケーションに大きな制約があるお子さん(重度重複障害児という表記には違和感を感じるようになりました)からとても多くのことを学びました。そのことを書き綴っていきたいと思います。


わからないということを教えてくれたDさん


Dさんの目前に何か提示しても見てくれないということが教員間で話題になりました。その一方、Dさんは廊下に出て行って、木製の廊下にほっぺたをつけて、その「照り」に見入っていました。また、教室では窓の近くに行ってカーテンをつかみ、カーテンを揺らしながら何かに見入っていることがよくありました。

確かに見ているのに、提示したものは見てくれない。どうしてなんだろう。

当時は、中島昭美さんが書かれた研究紀要「人間行動の成りたちー重複障害教育の基本的立場から−」を繰り返し読んでいたときでした。そしてその中に「極めて初期の段階では、明暗、光沢、輝きなどのものの表面や炎のような刺激が見えやすい。同じ事物でも、静止しているものは見つけにくく、見つめにくい。同じ人や事物でも、それに動きや見え隠れの様相を与えることによって、一段と見えやすくなる。」という一文を見つけました。

Dさんの目の使い方が「これ」なのではないかと思い、すぐに教材をひとつつくってみました。

黒い画用紙を二つ折りにして、アルミホイルをくしゃくしゃにしてから広げたものを黒画用紙の中央に貼り付けました。そして画用紙を閉じました。

翌日、Dさんの前に行って、二つ折りに閉じた黒画用紙を目前で開いたり閉じたりしてみました。するとDさんはすぐに気づいて、黒画用紙の中央のアルミホイルに手を伸ばして触ってくれました。とても驚きました。

Dさんは、私が見ることについてまったくわかっていないということを教えてくれました。この時が私の人生の転機になっています。実際に「見ることの支援」に焦点を合わせて勉強するようになるのはずっと後のことでしたが、「わからない」ということを教えてくれたDさんに感謝しています。

後に「知識に関する知識:メタ知識」、「わからない」ということがわかることの重要性を考えるきっかけも与えてくれました。

ですから今でも「わかること」よりも「わからないことがわかること」の方がはるかに大切だと考えています。


研究紀要「中島昭美:人間行動の成りたちー重複障害教育の基本的立場からー」重複障害教育研究所は入手可能です。極めて初期の目の使い方はP33。http://chohukuken.or.jp/kiyo.htm

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