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芭蕉布作りの“苧積み”は孤独な作業なのか

特別な日のお出かけに着物を選ぶようになって、早2年。
先日ようやく、憧れの布、”芭蕉布”の大切な作業工程である苧積(うーう)みを体験することができました……!


芭蕉布作りを志して1年、ようやく苧が積めた!

苧積みデビューをさせてくださったのは、沖縄本島の真ん中らへん、太平洋側に位置する宜野座村の「鈴木芭蕉布工房」さん。ご自身の制作がひと段落している時期にだけ、芭蕉布についてのレクチャーやプチ苧積み体験といったワークショップを開催されています(詳しくは、鈴木芭蕉布工房さんのInstagramにて、どうぞ)。

芭蕉布に恋焦がれて移住してしまった私ですから、柳宗悦『芭蕉布物語』はもちろん、喜如嘉の芭蕉布保存会が昭和に発行した本とか過去の展示会図録をはじめ古本屋に流通している芭蕉布解説本も、それなりの冊数に目を通しているつもり。本から吸収した知識とはいえ、制作工程は把握しているはず。これまで学んだことのおさらいタイムになるかと思っていたのですが……。

「鈴木芭蕉布工房」の幼稚園児にもわかる作り方説明に感動

大宜味村立芭蕉布会館では見学者へのレクチャーを担当したこともあるという鈴木芭蕉布工房の鈴木隆太さん。「幼稚園児にもわかる解説」を目指しているというその説明は、これまで読んだ数多の芭蕉布解説本よりもわかりやすい!

資料とオリジナル教材を使って教えてくださるわけですが、この教材が素晴らしすぎるのです。
まずは糸芭蕉という植物の特徴や栽培方法について解説。続いて、ダンボール製の糸芭蕉模型を用いて、繊維が採れる部位を説明してくださいます。
え? 繊維が採れるのって、そっち側だったの……!?

エービ(竹バサミ)や、糸芭蕉の繊維を巻いたチング、杼にセットするためピーナッツ形に巻かれた糸など、芭蕉布本で目にするアイテムの数々ともご対面。実物を目の前に、興奮が抑えきれません!

さらに座学だと仕組みを理解しづらい“絣模様の染められ方”も、お手製模型のおかげで一目瞭然! 天才か。

こういう知育玩具、ドイツあたりで売られてそう

驚きなことに、実物の糸芭蕉の繊維だって触らせていただけます。手袋なしで。
芭蕉布だって、八寸帯地と九寸帯地、着尺地の3種類がおさわり可。くどいようですが、こちらも手袋なしでOK。
「そうか、こんな具合に厚みが異なるのか……」
「芭蕉布のお着物って、着続けるとこれほどしなやかな質感に変わるのね……」
長年の片想いの末、ようやく素手で触れられた喜びよ。私は、この手触りを肴にお酒が飲める。下戸にもかかわらず、そんな妄想を思い描いてしまうほど感慨深い瞬間でした。

触っていると欲しくなるのが、着物好きのサガ。
マイ財布の紐がちぎれる音が聞こえた。怖

鈴木さんは、ときには美術館の学芸員さんから展示について相談を受けることもあるんだとか。確かに、このプレゼン力の高さ、アドバイスを求めたくなるだろうな……。

ひと苧積みしようぜ!

チング、ういやつ……♡

ここまででも相当、ヲタ心が満たされたわけですが、この日のハイライトは「プチ苧積み体験」!
意を決して、喜如嘉エリアのある大宜味村に引っ越してから約2ヶ月。もう我慢の限界です。想い詰めてしまったのか、昨夜は夢の中で糸芭蕉の繊維を炊いておりました。お願いです、私めにやらせてください、苧積みを。
ということで手ほどきを受け、残り時間は童心に返って手を動かしたのでした。至福……。

こちらは鈴木さんの積まれた糸。
今の私がこれだけの量を作ろうと思ったら、果たして何日かかるのだろう……


“苧積み”は糸芭蕉との対話

「この苧積みの作業って、孤独な印象を与えることが多いみたいですけど、実はそんなことないと思うんですよ」
鈴木さんの言葉は、糸芭蕉の繊維に触れてほぐしていると、なんとなくわかる気がします。

”あなたは、どっちの塊につきたいの?”
指先で繊維を割いている途中、何かに突っかかって動かなくなると、知らず知らずのうちに心で問いかけてしまいます。
本当は、この繊維は隣の繊維と寄り添っていたかったのかもしれない。もしくは、捻れているだけなのか、水分が足りないのか、それとも初心者中の初心者である私には想像できない別の要因か……。あれこれと考えを巡らせながら、試行錯誤。
ようやく引っ掛かりが解けて、目指す細さの糸が(たぶん)取り出せたと思ったら、今度は結縁相手の糸端が待ちくたびれて乾いた状態に。申し訳ない気持ちで湿らせてあげて、2本の糸ではた結びを試みます。結んだはずが、引っ張るとなぜか解けてしまうことも。また結び直して、結び目の先の余った糸端を切ります。ホッとして新しい糸を引き出そうと膝の上に置いていた繊維の塊を掴むと、今度はこちらが乾き始めているようです。慌てて湿らして……。

このように、苧積みは終始とっても忙しいのです。
この道、何十年という先輩方は、ゆんたく(おしゃべり)をしながら無心でこなせる作業なのかもしれないけれど、ど素人である私は常に脳がフル回転。”割かれたいですか? 残りたいですか??”と糸芭蕉のご機嫌を伺いながら、文字通り手探りで進めていきます。
苧積みとは、糸芭蕉の声なき声を受け止めて形にする作業なのかもしれない……。なんて、悟ったようなことを綴るのも、おこがましいほど初心者ですが。でも、そんな感想を抱きました。

繊維を手に取って集中していると、次第に心も鎮まっていくのが不思議です。このプチ体験中に瞑想的な心地よさを感じた私。もっと上手くなりたいという想いも相まって、追加でチングを2巻求め、鈴木芭蕉布工房を後にしたのでした。大変、お世話になりました。

その後、苧積みが
就寝前のお楽しみタイムになりました

もしもお気持ちが向きましたら、サポートいただけますと大変有り難いです。頂戴した費用は、芭蕉布をはじめとする伝統工芸品の魅力を発信するための取材活動などに使用させていただきます。ご検討くださいませ。