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DTM楽曲制作フロー大公開: 歌モノ編

最初に

動機

これまでの記事を見ていただいている数をカウントしていると、どうもDTMガチ勢よりかはDTMエンジョイ勢、DTM初めたばっかりみたいな方が多いように思う。かくいう私もDTMエンジョイ勢、いわば同じ立場の仲間である。

そんな仲間のために何か有益なことは無いかと思い、自分自身のワークフローなどを紹介する企画を数回にわたり書いてみたいと思う。

DTM歴とレベル感

DTM歴は結構長く大体10年ちょっとぐらいやっているのだが、大まかなフローが確立してきたのはつい最近のことである。これは当時はまだ情報が少なかったことで勉強したり試行錯誤しながらやってきたことや、恥ずかしながらお金をかけていなかったのでCubase 5を約9年にわたり使い倒していたので、時代に取り残されたところがある。

記載範囲

音楽理論やプラグインなどソフトウェア的なところよりは、どういうテーマだったのか、何を考えながら作ったのか、どれが偶然でどれが偶然じゃないのか、こだわりポイントはあったのかみたいなところを中心に述べる。他の同じような人にとって有益な質問などあればコメント欄にお願いしたい。

取り上げる楽曲

第一回目に取り上げる楽曲は2022/01/14公開の「神様聞いてるの?」である。リンクからとりあえず一回聞いてもらえたらと思う。

神様聞いてるの?


制作の動機

作曲を始めるときにその動機は様々である。「あの人のあの曲みたいなのを作りたい」「このジャンルかっこいいから自分でもやってみたい」「新しいVSTインストゥルメントを手に入れたから使いたい」「なんか降りてきた!」などなどである。

この曲の場合は「リリースカットピアノが流行っているらしいから使ってみたい」というものであった。リリースカットピアノ、略してリスカ (嫌な省略形だな) は電子ピアノの鍵盤を離した後の残響音をゼロにすることで独特の切れ味のある音色とすることである。いちばん有名なのはYOASOBIの「夜に駆ける」のイントロのアレである。

夜に駆けるのイントロのアレ

リリースカットピアノは音色があんまり豊かじゃないほうがいいのでCubase付属のピアノの設定をいじるだけなのでお手軽のも良かった。

コード進行を決める

基本的にはコード進行を決めてから進めることが多い。リリースカットピアノと相性の良いコード進行はJust Two of Us進行 (丸の内サディスティック進行: Ⅳ-Ⅲ-Ⅵm) と言われていたのでまずそれを取り入れて、そこから改造することにした。キーがEm (GMで表記する) としたのでコード進行は基本的に

CM7 | Bm7 | Em7 | Em7 

ここからまずテンション9を全体的につける。(というかCubaseのコードパットにもとから9thの音をプリセットで入れているので大抵の曲では入れている) 

こんなコードパッドを使っている。「テンション高め」

次に、Em7への進行をなめらかにするためにBmをB7、更にマイナーに行きやすいテンションを入れてB7 B7(b9) と改造した。
さらにCM7に帰ってきたいので戻るためのコードGM7、G7を加えてテンションを調整し、GM7(9) G7とした。二周目は最後のG7を裏コードのDb7で置換した。

なお、この辺のやり方はこっちの記事を参考にしてもらえるとまとまっている。

コード進行戦略: 終点を決めてたどり着くための考え方

結果的に出来上がったコード進行はこちらの8小節のパターンである。
CM7(9) | B7 B7(b9) | Em7(9) | GM7(9 ) G7
CM7(9) | B7 B7(b9) | Em7(9) | GM7(9 ) Db7

ちょっと複雑にしがちなので後で自分でギターとか入れようとすると大変苦労する・・・。

自分の曲は大抵の場合Aメロ Bメロ サビ 間奏 Aメロ Bメロ サビ サビ で、それぞれ違うコードを取り入れることが多いが、この曲では上記コードをずっと循環させて使っている。

ピアノトラックの制作

コード進行ができたら中音域を支えるピアノを打ち込む。Cubaseだとコードトラックからドラッグアンドドロップで白玉バッキング (音を完全に伸ばした状態でのMIDIデータ) に変換してくれるので便利である。

リリースカットピアノのピアノロールを図に示す。

リリースカットピアノのピアノロール画面

以下の点に気をつけて打ち込んだ。

  • なるだけ機械的な印象をつけたいのでベロシティはランダムにしないで一定にした。

  • リリースカットという特性上短い音符が多いほうが切れがあって良い。そこで普段よりも32分音符を多用した。

  • リリースカットピアノは伴奏だけではなく、合いの手的な裏メロディーも担当するので要所要所でよく聞こえるC4あたりの高い音でのメロディーを加えた。

前奏は音を痩せた感じにしたかったのでEQを操作して中音域意外無いようにしている。中音域だけにすると音がラジオっぽくなるのでテクニックとしては便利。バツっと音を変化するならトラックを2つ用意したほうが早いがちょっとゆっくりとした変化が欲しかったので今回はトラックオートメーションを使った。使い方は難しくなるがEQ系のプラグインでいじっても良い。

EQの時間変化
前奏のリリースカットピアノのEQ
前奏以降のリリースカットピアノのEQ ①と④の移動に注目

なお、リリースカットピアノを上手に打ち込むにはシカクドット氏の以下の動画がとてもわかりやすい。

同じピアノでも白玉バッキングで支えるピアノはリリースカットピアノではなく普通のピアノ (Neo Piano 無料だからおすすめ) を使っている。これは盛り上げるために利用した。

ドラムトラックの制作

リリースカットピアノを主体に考えると、これ自体が自然には存在し得ない音なので、ドラムも合わせて機械的なダンスミュージック風4つ打ちドラムを目指すことにした。

基本的には以下の通りである。
キック: 4分音符を基本に4拍目裏も
スネア: 2と4拍目
ハイハット: close/openを8分音符で繰り返し open強め

でもハウスみたいなジャンルは全部これになってしまうので味気ない。ここで登場するのがサンプル音源である。今回はハイハットループ素材を二種類重ねて使用することで、複雑にした。

なお、こういう場合、低速のサンプルをスライスして (音ごとに切り刻んで) 無理やりBPMをあわせると、極端に速いリズムになって機械的なニュアンスが出る。ハイハットループで良いのがない場合はドラムループの低音500Hz以下をカットして使っても良い。(低音同士は音が濁るかもしれないので避けたほうが無難: ローインターバルリミットで検索してほしい)

ベーストラックの作成

ベースはサビ意外は音数を少なくして、リリースカットピアノのリズムに合わせて支えることを念頭にした。オーソドックスではあるがやはりコードのルート音と5度の音を中心にして、4拍目で次の音へつながる音を入れている。ベロシティはほぼほぼ固定。

Aメロでのベースのピアノロール画面

サビではちょっとジャズっぽい雰囲気を出すためにウォーキングベースというジャズで使われる8分音符中心の音がずっとなっているものにしている。
個人的にはとても好きなので多用するが、やり過ぎると単調になるので注意。ベロシティは裏拍で大きくなるように設定。

サビでのベースのピアノロール画面

なお、ベース音源はAmple Bass P Liteという定番のフリー音源を利用している。これはかなり良い音がなるのでおすすめである。
https://www.amplesound.net/en/pro-pd.asp?id=19

パッドトラック

ここは単にコードに合わせて白玉バッキングにしている。音源はフリーソフトシンセで最も有名なものの一つVitalを使用

使い方はLOBOTIX氏のシリーズがわかりやすいし楽しい

ボーカルトラック

ボーカルはNEUTRINOを常に使用している。モデルはNo. 7を利用。この当時はあんまり複数のモデルを重ねるということはしていなかった。

この曲ではコーラスが無いのでボーカルガイド用のトラックを一つだけ、シンセサイザーの音で用意して打ち込み、MIDIデータに変換して、MuseScore
(https://musescore.org/ja) でmusic xml形式に変換している。ここで、打ち込み時は音符の位置も長さもクオンタイズしていたほうが作業が楽である。コーラスがあるとその分作業は何倍にもなる。

この曲の歌詞は結構難産だった。歌詞の補助ツールについてはこちらの記事を参照されたい。
作詞に便利!いつも使っているお助けサイト

MuseScore上では歌詞を流し込む作業があるが、ひらがなにして間を1文字ずつ半角スペースを入れていると順次歌詞を流し込んでくれる。この変換は結構厄介だが、歌詞変換 for 歌声合成ソフトが非常に便利である。

ボーカルはトラックを2つに分けて、片方は思いっきりコーラスとリバーブを掛けてブレンドすることではっきり聞こえるけど豊かな音になるようにしている。メインの方はDeEsser程度のエフェクトである。

ミックスとマスタリング

ミックスを行う前にプリセットの設定として、ボリュームとルーティングがある、

まず全部のトラックのボリュームを元から-7dbに設定している。小さめにしていないとどんどん重ねるので飽和して良くないように思う。

ルーティングは同じ音域で重ねる楽器をグループチャンネルとしている。そして、すべてのグループチャンネルが、「Space」という響きの調整用のチャンネルに接続し、「Space」は「Comp」という音圧調整用のチャンネルを経由してOutputに出る。(「Space」ではリバーブを全体にかけているが、これについてはFxチャンネルにsendで送ったほうが良いとされる。でも、めんどくさくてしていない。)

Mixは各トラックあるいは各グループチャンネルに対してEQをかけて無駄に重なっている周波数帯を下げることから始める。AIで自動調整してくれる無料プラグインBalancer (https://www.sonible.com/balancer/) でとりあえず整えてから気に入らなければ自分で調整している。EQ用のプラグインはあまり使わず直接トラックに付属の4バンドのEQで調整していることが多い。EQは下げることはあっても、音が歪んでしまうのであまり上げないようにしている。

パンについてはこの曲では実はあんまり振っていない。基本的には電子音楽ではほとんど振らず、バンドサウンドでは中音域以上の楽器をグループごとに振るのが基本である。ドラム、ベース、ボーカル (コーラス除く) はセンターが基本だと思っている。

音響は主にCubase付属のRoom Works SEとStrereo Enhancerを愛用している。特にRoom Worksは4~8%程度、あくまでうすくかけたほうが良い。Stereo Enhancerはいつもかけているからなんとなくでやっている部分が正直ある。(前述のようにパンを振ってないわけであまり効果的ではないだろう。)

音圧は難しいところがあるのでOzone 9 Element (なんと無料だった期間があった) で大半の調整を行い、次に定番の無料プラグインOTTをうっすらかけて、最後にコンプレッサーをちょっとだけかけて、一番音が大きいところのLUFS (Short-Term) が-13.5あたりになるように調整している。これはYouTubeへのアップロードをしたときに強制的に-14.0に下げられるという仕様のためである。最後のプラグインは普通のMaximizerでも良いが、VST Dynamicsに付属のLimitterを-0.1でかけておくことでクリップを防ぐ意味があるので後者を使っていることも多い。

以上でワークフローの完了である。

最後に

長くなってしまったが典型的な歌モノの制作プロセスをざっと説明した。制作の参考になれば幸いである。

また、もっといい方法とか便利なプラグインがあればコメント欄にお願いしたい。他の人にも助けになるはずである。

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