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そもそも音について: 周波数と音階

前回のおさらい

この記事は前回の記事「そもそも音について: 音の三要素」の続きである。

前回の重要な部分は以下の通り。

  • 音の三要素は音量、音高、音色の3つ

  • 音量は圧力の大小

  • 音高は波の周波数

  • 音色は波の形

本記事では特に音高と周波数について掘り下げ、音階について考える。

周波数を倍にする

音、つまり圧力の波が一秒間あたり何回上がって下がってを繰り返すかを周波数と呼び、単位はHzだった。

例えば55 Hz、これは88鍵の普通のピアノで言えば左端から二番目のラの音に相当する、の音があったとする。この周波数を2倍にすると、110Hz、元の1オクターブ上のラの音になる。さらに2倍にすると220 Hz, もう一つ上のオクターブのラの音になる。同じように、440 Hz, 880 Hz, と順次オクターブ上のラの音が続く。このように周波数を倍にすると音はオクターブ上になる。

周波数を整数倍にする

先程は2倍を繰り返したが、今度は3倍、4倍、・・・というのを考える。

周波数を書くのは面倒なことと、やっぱりドから始まったほうがわかりやすいのでもともとの音をとりあえずド (普通のピアノの真ん中の一オクターブ下のド、C3にしておく。(なんでさっきはラだったのかは後で説明する。)

2倍はさっきと同じで1オクターブ上のド (C4) である。次に3倍を考えると、一オクターブ上のソ (G4) の音が鳴る。4倍は2倍の2倍だからさらにオクターブ上のド (C5)、5倍はミ (E5)、6倍は3倍の2倍だからソ (G5) 7倍はシのフラット (Bb5) といった具合にだんだん新しい音が出てくる。

このようにしてできる音の列を自然倍音列と呼ぶ。ギターのパワーコード (ルート、完全5度、オクターブ) の力強い響きや、映画「2001年宇宙の旅」の冒頭のドボルザーク「ツァラトゥストラはかく語りき」の神秘的な物を感じるメロディーも自然倍音列からできている。

周波数を簡単な分数倍にする

先程、周波数を整数倍にすることで新しい音が出てくることがわかったが、周波数が大きくなっていくのでどんどん音が高くなってしまう。そこで、周波数を簡単な分数倍にして2倍以内に収まるようにすれば、1オクターブで12音分の音階が作れるはずである。

実際にやってみるとこんな感じになる。(ドが始まりの場合)

  • ド (1/1)

  • ド# (16/15)

  • レ (9/8)

  • レ# (6/5)

  • ミ (5/4)

  • ファ (4/3)

  • ファ# (45/32)

  • ソ (3/2)

  • ソ# (8/5)

  • ラ (5/3)

  • ラ# (9/5)

  • シ (15/8)

  • ド (2/1)

周波数が簡単な分数の比であると、波が重なり合った時にズレが無いので、結果的にハーモニーが美しくなる。上のように決めた音階を純正律と呼ぶ。

ところで、鋭い人は疑問に思ったのではないかと思うが、自然倍音列から1オクターブに納めたとすると、分子はオクターブずらしていくので2の累乗の数、4とか8とか16とか、しか出てこないはずである。よって分母に奇数が出てくるのは違和感があると。

そう、実は純正律と自然倍音列はズレている。音楽をやる上ではハーモニーが重要なので、自然倍音列より簡単な分数になる純正律が重要性が高く、こちらのほうがよく使われる。

純正律の問題点と妥協的解決

さて、周波数と数学的な原理から音階が出てきた。しかし、純正律には課題もある。音階の周波数の間隔が全然一定にならないのである。

例えばドとド#の周波数の比率は16/15 ÷ 1/1 = 16/15 ≒ 1.067だが、ド#とレの周波数の比率は9/8 ÷ 16/15 = 135/128 ≒ 1.055で値が異なる。他にもレ#とミの比率は25/24 ≒ 1.042になる。大体近いと思うかもしれないが、これは耳のいい人なら分かる程度のズレである。

間隔が異なっているということは、移調や転調をすると和音の響きやメロディーの感じ方が違う、気持ち悪い状況が発生する。これが純正律の最大の課題である。仮にピアノを純正律で調律してしまうと、美しいのはハ長調だけで他の調は美しくない、大変不器用な楽器になってしまう。

このような不器用さを何とかするためには、隣同士の周波数の比率を一定に保つしかない。周波数が2倍になると1オクターブ上になるというのは動かしがたいので、比率は「12回掛けたら2になる数字」つまり「2の12乗根」ということになる。数学的にこの比率の十分な近似値は計算可能で1.05946309程度になる。これならどんな移調や転調も何ら問題ない。このような便利な音階を平均律と呼ぶ。現在ほとんどの音楽で平均律が採用されている。

平均律は妥協である。本来、最も美しく響く純正律から少しずつズレている。(実際の上に出てきた数字とのズレに注目) よって、どの和音を弾いても、周波数が合ってないことに由来する若干の「うなり」が発生する。移調や転調の便利さによって失われたものもあるのだ。

基準音

純正律にせよ平均律にせよ (他の別のものにせよ) 音階と周波数の関係ができた事によって、ある一つの音の周波数を定めれば、他の音の周波数は全て計算できることになった。この音を基準音といい、ピアノの真ん中の鍵盤のドの右側に最初に出てくるラ (A4) を440 Hzにすることになっている。

このルールは国際標準化機構 (ISO) が決めているものなのだが、結構従わないことが多い。例えば多くのオーケストラでは、音がきらびやかという理由でちょっと高めの442 Hzを採用することも多い。(実際、音大出身者や楽団所属の人に聞いても442 Hzが多かった。) 逆にバロック時代にはこの基準音がもっと低かったと言われており、こだわる楽団は当時の周波数に合わせることもある。よって基準音が何なのかは演奏する際に合わせる必要がある。

まとめ

  • 周波数をOO倍すると、音階ができる。

  • 周波数を整数倍していくと、自然倍音列ができる。

  • 周波数を一オクターブに収まる簡単な整数比とすると、純正律ができる。

    • 純正律はハーモニーが最も美しくなるが、移調や転調をしたらとたんに美しくなくなる。

  • 周波数を一定の数字 (2の12乗根) で掛けていくと平均律ができる。

    • 音階の周波数の比率が一定なので移調や転調をしても問題ない。

    • ハーモニーの美しさは純正律には及ばない

  • 基準音は普通440 Hzをラ (A4) とする。

    • 他を基準音にすることもあるので注意

次回は倍音と音色のお話。



補遺

補遺1 なんで説明がラから始まってたのか

本記事の最初の方でラで説明を始めたのに途中からドに変えている。これは基準音が関係している。まず前回からの話のつながり上、説明の最初では周波数とドレミの組み合わせが書きたかった。しかし、上記説明で分かる通り、基準音であるラ以外の音は音階によってはズレることがある。つまり、音階を指定しないとドの周波数がわからないのだ。

途中からは周波数ではなく周波数の比率だけで話が通じたので、読者がわかりやすいドに変更した。(Aメジャーで音階を説明されたら混乱に拍車がかかるだろう) 若干ややこしい話になるがご容赦頂きたい。

補遺2 C4とかの表記が間違ってない?

実は音の高さを示す音名は国際式とヤマハ式の2種類ある。国際式は基準音がA4であり、ヤマハ式だと同じ音がA3と一つ数字が減る。この記事は国際式で表記されている。

筆者のDTMソフトウェアはCubaseであり、これはヤマハの子会社のSteinberg社から発売されているのでヤマハ式の表記である。真ん中はC3と言われたほうがしっくり来る・・・。他の記事ではもしかしたらこっちで書いているかもしれない。混乱を避けるため、オクターブが重要な場合は「ピアノの真ん中のド」を基準に表記することにしている。


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