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バックパッカーの種類

「うわーこのホステル合わないわ…」
「こういう感じの人たちか…」

平均したら少なくとも週に1回は住む場所を変えている私は、こんな風に感じることが日常茶飯事だ。自分に適していないホステルに泊まり、自分と合わない人たちと同じ空間で過ごすことは、自分が思っている以上にストレスになるし、そんな時間がもったいなく感じる。

「いや、同じバックパッカー なんだしみんな仲良くすれば?」「バックパッカーなんてみんな同じじゃない?」と思う人もいるだろう。確かにその気持ちは分からなくはない。しかし、それは「同じ野球ファンなんだから阪神ファンも巨人ファンもみんな仲良くすれば?」「オタクなんてドルオタも鉄オタもみんな同じじゃない?」と言っているのと同じくらいナンセンスだ。

バックパッカーも多種多様だ。別に互いに忌み嫌いあっているわけではない。「バックパッカー」という帰属意識があるから基本的には仲良くやっている。しかし、自分のような稀有な種が集まるいわばユートピアのような場所をやっと見つけたと思ったのに、それが違ったと分かった時のショックは割と大きい。だから、他人に対してというより、自分自身への落胆が生まれてくる。

それではどんな種類のバックパッカーがいるのだろうか。私の独断と偏見で種類分けしてみようと思う。ただ、私は普段日本人バックパッカーと交流する機会が少ないので、日本人はこの限りではないかもしれない。

バックパッカーの種類

1. 観光派

おそらく、一般の人がバックパッカーと聞いてイメージするのがこのタイプの人たちだろう。日本人バックパッカーもこのタイプが多い気がする。観光派の人たちはその名の通り、ガイドブックに載ってるような観光地に出向き、その観光地での「やるべきこと」「見るべきもの」を制覇していく。チープな観光客とも言える。観光派は、比較的国を回るペースが速く、スタンプコレクター(パスポートのスタンプを集め行った国の数を増やすバックパッカー)も広義にはここに含まれるだろう。彼らの年齢層は幅広く、日本でも観光地として知られている場所に行き、見るものがたくさんある都市部に滞在することが多い。

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2. デジタルノマド

日本でも最近浸透してきたデジタルノマドとは、世界中場所に囚われずパソコン一台で仕事をしながら旅をしている人たちのことだ。Macにステッカーでスタバでコーヒーのような、いわゆる意識高い系の人たちだ。ブロガーもこの部類の人たちだ。年齢は20〜30代の人が多く、ホステルやゲストハウスよりはWi-Fi環境の安定しているAirbnbに泊まっていることが多い。おしゃれなカフェで見かけることもよくある。長期滞在する人もいて、タイのチェンマイやジョージアのトビリシ、インドネシアのバリのようにデジタルノマドのコミュニティができることも珍しくない。

3. ヒッピーバックパッカー

以前の記事に書いたように、バックパッカーはヒッピー文化から派生したものだ。ヒッピーバックパッカーは、60年代のこの流れを汲む人たちであり、ドラッグやレイブ文化とも混ざり合っている。圧倒的にベジタリアン、ビーガンが多い。見た目は他のバックパッカーと全く異なり、ドレッドヘアにタイダイシャツ、アラジンパンツが多く、若干小汚い。ちなみに彼らにとって小汚いは必ずしも侮辱ではない。都市部から外れた自然の多い山奥やビーチがヒッピーバックパッカーには人気で、インドやネパールなどが彼らの聖地だ。基本的には同じようなヒッピーバックパッカーが経営するホステルやゲストハウスに泊まっていて、そのようなホステルではコミュニティ感が強く、誰がゲストで誰が働いているかが分からないこともよくある。アクセサリーなどを売って生計を立てている人もいる。

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4. パーティーピーポー

いわゆるパリピは、バックパッカー界にも存在する。彼らは10〜20代前半の若者が多く、ギャップイヤー・バックパッカーと重なる部分もある。基本的にバー併設のホステルに滞在していて、毎朝二日酔いで12時過ぎに起きてくる。一夜限りの相手を求めていることも少なくない。オーストラリア、イギリス、最近はアメリカ人がこの種には多い気がする。彼らの間で人気なドラッグはアルコールとコカインである。ちなみに、レイブ好きなヒッピータイプと同じに見えるかもしれないが、パリピ組はサイケデリック好きなレイブタイプを狂った変人と思い、逆にレイブタイプはパリピ派をテンションの高いうるさい奴らと思っているので、意外にもこの二派は仲良くできないことが多い。

5. フラッシュパッカー

この概念は最近になって出てきた。フラッシュパッカーとは、従来のチープなバックパッカーと異なり、お金に余裕のある散財的バックパッカーのことだ。インスタグラマーはここに含まれると私は考えている。彼らは一般的に少し豪華なホテルに泊まるか、ホステルであっても個室に泊まっている。何時間もかけてバスで移動するのではなく、国内でも飛行機で周る。若者よりは少し年配の人が多く、子連れの人もいる。バックパッカー原理派にはこのタイプをバックパッカーと認めない人もいる。

6. 自然派ライダー&キャンパー

自分で自転車やバイク、もしくは車を運転して世界中を旅するライダータイプのバックパッカーのことだ。彼らは自身の足で世界中どこにでも行けるので、行ける場所に制限がなく、宿泊施設の全くない場所で一人で何日もキャンプを楽しんでいる。スポーツブランドを身につけていることが多い。ユーラシア横断や南北アメリカ大陸縦断が彼らに人気のルートだ。

7. NGOタイプ

バックパッカーの中には、ボランティアを行っているものもいる。彼らにとっては、ボランティアがメインの活動であって、おそらく自分自身をバックパッカーとみなしていない人も少なくないはずだ。彼らが行くのは、アジアやアフリカの貧しい地域が多いので、奇しくも物価の安い場所を好むその他のバックパッカーと行動範囲が被るのだ。余談だが、カンボジアの首都プノンペンにはNGOタイプとセックスツーリストが混在し、互いが互いを快く思っていないことが目に見えて分かる非常に面白い世界でも珍しい場所だ。

なぜこの種類分けが重要なのか

バックパッカーが皆それぞれ違うことが分かっていただけただろうか。完全に私の主観に基づく部類分けが、これを書いたのには二つの目的がある。

一つは、もしこれから旅に出る人がいるとしたら、この違いを分かっていてほしいということだ。私みたいに何年も旅をしているならいいが、きっとそういう人は少数派で、ほとんどの人の旅の時間は限られている。その限られた時間を、自分に合わない人、自分が関わりたくない人のところで無駄にしてほしくない。パリピタイプの人がデジタルノマドタイプの人の集まるホステルに泊まったらつまらなく感じるだろうし、フラッシュパッカーがヒッピー宿に泊まったらストレスになるだろう。自分自身を〇〇タイプのバックパッカーと定義する必要は全くない。しかし、自分がどのタイプの人と馬が合うかを把握しているだけで、何千何万とある目的地や宿泊施設の選択がしやすくなり、旅がより濃いものになる。

そしてその選択は自分自身だけの問題ではない。先ほどの例を反対の視点から見てみると、デジタルノマドは翌日も働かなければならないからパリピに一晩中騒いでほしくはないし、ヒッピーは雰囲気が壊れるからフラッシュパッカーの豪勢さを持ち込んでほしくない。これは、どっちの文化が優れているとか、他のコミュニティの人を入れたくないとかいう排除的なものではない。それぞれの文化での価値観とルールを知らないと気づかないうちに自分が失礼に値していることもあるということを知っておいてほしい。

最近はこれを知らずに、完全にヒッピー向けの宿に泊まり設備が不十分だの朝食がついていないだの文句を言ったり、パリピ向けの宿に泊まってうるさくて寝れないなどとネット上にレビューを書く人が多く見られる。それは、その宿が悪いのではない。あなたがターゲットじゃないだけだ。イタリア料理を食べに行って、「なぜラーメンがないのだ」と文句をつけているのと同じくらい不条理だ。

もちろんバックパッカーにいろんな種類があることを知った上で適当にフラーっと行ったところで出会いを楽しむ、それも旅の醍醐味だ。しかし、自分の旅の経験をよりリッチなものにし、他人に失礼にならないようにするためにも、なんとなくの種類分けを知っていても損にはならないだろう。

そして二つ目の理由は、もしあなたがバックパッカーと無縁の人であるならば、あなたが普段目にしているバックパッカーに関する情報は、バックパッカーの一部を切り取ったものでしかない、ということを覚えていてほしいからだ。

基本的にネット上のブログやInstagramで目にするバックパッカーの情報は、デジタルノマドやブロガーたちが書いているものだ。ヒッピー目線の物なんてほとんど見られない。だからなんだと言われればそれまでなのだが、ブロガーやインスタグラマーが提供する「キラキラバックパッカー」こそがバックパッカーの代表と言われると、なんとなく腑に落ちない思いがある。キラキラパッカーへの憧れや嫉妬では全くなく、自分が好きなバックパッカー・コミュニティが「間違った」とまでは言わないが、偏った形で代表されているのには少し違和感がある。そういう風に思っている人もいるのか、くらいにでも覚えていてくれたら、私は嬉しい。

ちなみに私はというと、基本的にヒッピーが集まる場所で暮らしているし、ベジタリアンだし、アクセサリーも売っているし、それらしい格好もしているのでヒッピータイプと言えるだろう。しかし、そのような生活をするにしても、お金が必要になってくるのが資本主義社会の現実なので、嫌々オンラインの仕事をしている。つまり自分ではあまり思っていないが、デジタルノマドでもある。それを快く思ってない人もいるだろうが、どっちのコミュニティにも失礼のないように最善を努めているつもりだ。

いただいたサポートは、将来世界一快適なホステル建設に使いたいと思っています。