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鰻屋捕物帖


ありがたい事に記事の続きをリクエスト頂き、小編にまとめてみました。

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昼飯で満腹になった腹をさすりながら歩いていると、目の前で鰻屋の持ち帰り会計用の釣り銭を握りしめて駆け出す男が。
「コラ待て!」
店の扉が勢いよく開き、店員が後を追いかける。
とっさに助けようと判断し私も裏から回り込んで追いかける!
角を曲がった先に見つけた、さっきの人影!そして…

今日は研修のため本社のある神田に来ていた。いつもは永田町なんぞと言うお偉い街でシステム開発の下請けをやっている。入社5年目で新人の頃の研修以来久々に、本社から呼び出されて1日研修を受けよとの指令があり、現場で頭を下げて本社に出頭した。

講師のご高説には午前中でもうお腹いっぱいだったが、物理的なお腹はペコペコだった。
脳内では既に昼食会議が白熱していて、鰻丼、焼き鳥定食、つけ麺…と中々意見が纏まらなかった。

そんなこんなで昼休み、取り敢えず社を出て歩くままに任せた結果、商店街の中程にあるつけ麺屋さんに行列がないのを見つけて入店した。
いつも行列していたから並ばずに入れたのはラッキーで、嬉しくなって思わず大盛を注文してしまった。テンアゲ。

つけ麺は相変わらず美味しかった。これで何とか午後も乗りきれそうだ。

男と目があった。私は男を逃がすまいと両手を広げて無言で歩み寄る。男は一瞬戸惑った後、こちらが何をやっているのかピンと来て、捕まるまいと左に避ける。後ろからは店員の声。
「まてーー!」

私は男のシャツを掴んだ。そのまま揉み合いになり二人とも地面に転がっていると、追い付いた店員が男に飛びかかり馬乗りになった。

私は男から手を離すとズボンを叩いて汚れを落とした。店員から「警察呼んで」と言われて携帯で110番。手は少し震えていた。

警察に話して現場に来てくれと言うと、場所はどこだと聞かれた。私は普段この辺にいないから住所は答えられない。
住所の書いてあるプレートを探すが見つからない。取り敢えず駅の近くの商店街の裏だと言った後、店員に「ここの住所分かります?」と聞いた。

店員は男に馬乗りになりながら、男の右手に握られていたお金を取り上げて数えていた。
私が店員に声をかけたその時、店員の意識が私とお金に向いた瞬間に男は店員を押し退けて逃げ出した!

一瞬の出来事だった。あっという間に男はいなくなり、警察に「今逃げられました」と伝えた。

電話を切って5分くらい後に警察が到着した。私は店員に「じゃあ私はこれで」と伝えてその場を後にした。

結局犯人の男は捕まったのか分からないが、とにかくお金を取り戻せたのは良かった。
私の方はと言うと特に怪我もなく無事で、満腹も少しこなれてきていた。

一番の問題は…この後まだ午後の研修が残っていることだ。この事件のドキドキの収まらぬまま、冷静に研修を乗り切る事が出来るだろうか。
窃盗とか怪我の心配とかより、午後の研修の方が気が重い。人間なんてそんなもんだよねと心の中で苦笑いしながら重い足取りで本社に向かった。

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以上です。
リクエスト下さった、うめこさん、ピーチさん、ありがとうございました。

それでは、本日はここまで。




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