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ボクはどうして「キャプテン」との出会いが遅かったか。


谷口タカオという男のことを知ってるだろうか?とりたててイケメンでもなく、口びるつんと尖らせず、への字にぎゅっと締めてることから容易に想像できる頑固さとひたむきさ。淡々とした態度からは想像もできない異常かつ過酷な練習量を(ごく自然に)周囲に納得させる才能を持つこの男は野球マンガの革命児であり唯一無比のキャラクターである。


「お・・・おれたちみたいみたいに素質も才能もない奴はこうするしか方法がないんだ」
(パパと夜中の神社の練習時の台詞)
「あしたじゃない。今からだ」
(対青葉戦特訓開始時)
「なんだお前、負けるつもりで練習してたのか?」
(淡々と言うとこがイイんだ)

墨中野球部に入部前まで、まともにノックも打てなかったこの男は異常な努力と練習を重ね気がつけば全国レベルの実力を身につける。だけど努力に努力を重ねても再試合による勝利は掴んだものの全国大会(出場経験なし)や甲子園にも行けなかった。だけどそこがイイ。

「キャプテン」をまともに体験したのはアニメがきっかけだった。1980年に初めてスペシャルとして制作オンエアされたのを偶然観た。この年の4月に初オンエアで再試合の箇所を追加して8月に再度オンエアされてるけどボクはこっちは観た記憶がない。青葉との再試合云々は単行本で知ることになる。

「キャプテン」という漫画自体は知っていた。初めて知ったのは78年の夏か秋か。亡父が「出張先で買った」とくれた月刊少年ジャンプ。今画像検索したらコレだコレ!と思ったのが出てきたのが1978年9月号。百里あきらの「ガッツ乱平」、中島徳博の「朝太郎伝」この2作品が無理だった(笑)どうしても入っていれないのが絵柄の独特の臭み。この号でぎりぎり読めたのが「どぐされ球団」(竜崎遼児)、「白い戦士ヤマト」(高橋よしひろ)は「悪たれ巨人」で免疫あったせいか問題なかったし「救世主ラッキョウ」(小林よしのり)はイケた。だが「キャプテン」はダメだった。1ページも読めなかったのだ。近藤キャプテンのあの風貌とこの号新連載1発目で激プッシュされている「ガッツ乱平」の絵柄の臭みが悪しき相乗効果を生み出し、ボクの「キャプテン」第1印象は最悪なものとなってしまったのだった。

とにかく「ガッツ乱平」なんですよね。自分がどうしても入っていけないマンガのベスト10に入るかもしれない。おそらく「おれは鉄兵」的な学園スーパーヒーロー(多少ヌケはある)ものなんでしょうが絵柄のどこに感情移入すればよいのか。あとは「朝太郎伝」ね。世代的に「アストロ球団」に間に合わなかったボクにとってやはり絵に感情移入できず、さらに主人公の朝太郎の制服のベルトが縄なんですよ。縄。と思って今画像検索かけたらそんな絵はどこにも見つからずで思い込みだったのかもしれないけど体臭が絵柄から伝わってくるようでダメだった。それとこの号で本宮ひろ志の「硬派銀次郎」も掲載されているけどまったく覚えていないんですよ。先に読んだのは週刊の「山崎銀次郎」ですからね。あれはよかったなあ、最終回もちゃんと泣けるし。まあこのへんになるとボクもマンガの(読み手としての)経験値も上がってたので対応可能になっていたのでしょう。だけど「ガッツ乱平」は今でも無理だなァ。申し訳ないですが。

コロコロコミックだと「ゴリポン君」、のちに「100点コミック」(双葉社)に移籍して「釣りバカ大統領」なる奇作を残したキド・タモツも絵柄に癖はありましたがどこかポップなんですよ。ゆえにOK。コロコロでいうと「ハムサラダくん」の吉田忠は厳しかったなあ。あのひとの絵柄独自の臭みと「ガッツ乱平」の臭み、なんか共通項は感じますけどね。まあ単に好みでしかないかもしれませんが。絵の臭みは「釣りバカ大将」の桜多吾作がぎりぎり許容範囲でしたかね。

とにかくボクは「キャプテン」という野球マンガ史上名作中の名作との出会いに遅れまくった。だが、ほぼNO知識で観たアニメ「キャプテン」は衝撃だった。梶原(一騎)イズムとは真逆の魔球もなく過剰な演出もない(アニメは多少オーバーな表現ありましたけど)水島新司の野球マンガみたいにスーパーヒーローもいない。ただ淡々と努力をし強豪青葉学院と対決、そして負ける結末には小学生のボクは感動した。和製がんばれベアーズ(当時観たことなかったけど)なノリもあったかもしれないアニメを観て翌日近所の本屋でキャプテンを読んだ。そしてあの独特の絵柄とコマ割りが醸し出す雰囲気にヤラれることになる。近所の佐々木書店に毎日通ってむさぼり読んだ(立ち読みで)。なんせ月のおこずかいが500円時代の小学生。やりくりして単行本を買うのも至難の技だし当時愛読していたコロコロコミック1冊を買うのがやっとの時代だ。週刊少年ジャンプも時々やっと買えた困窮ぶりでしたからね、コミックスで「キャプテン」を揃えるなんて夢のまた夢。ゆえに当時「立ち読み」で内容を吟味しまくる作業は必要だったんですよ。

「リングにかけろ」も「すすめ!パイレーツ」もお年玉とか駆使してやっと購入出来た身分で「キャプテン」全巻購入はハードル高めだった。「こち亀」もそうだったな。自分の好きなエピソードやキメの絵が多そうな巻のみ購入ってのが当たり前。「リンかけ」だとブーメラン・フック登場の巻、つまり河合武士と初対戦の章ね。そうやって吟味を重ねてマンガの単行本を買う至福。今じゃ絶対味わえない。

ボクが1番好きなのは丸井だ。グローブを新調するも1個年下のイガラシをレギュラー起用のため補欠に回され退部を決意するがなんの努力もしてない自分に気づきこっそり隠れて個人練習、決勝戦でその成果を出すあたりとか最高だしキャプテン時代も決勝戦で青葉を下すも戦力をすべて使い果たして全国大会辞退とか泣けますよね。そんな谷口、丸井が築き上げた基盤を確実に形にしたイガラシも嫌いじゃないんですよ。実家が下町の中華料理屋(今でいう町中華ですな)で朝練前に弟と朝飯代わりにラーメン作るシーンがもう大好きなんですよ。いいなァ、中華料理屋は朝からラーメン食えるかァとボンクラ小学生は思ったものです。それでも当時読めたのはイガラシ編まででどうにも印象が悪い近藤キャプテン編を読んだのはずいぶんあと。もしかすると「キャプテン」が文庫版で発売された90年代になってからかもしれない。もちろん近藤編が嫌いかっていうとそうじゃない。自分らの代を捨て石にして後々墨谷を強豪として長く君臨させるためにというプランが明かされる最終回はちょっと泣けたし。

だけどやっぱりボクのベストは丸井編ですよ。対青葉戦延長最終回の丸井がもう最高。最高って今書いてる時点で泣けてくる。

「おれはなんの能もないキャプテンだったけど」
「おまえたちがみせてくれたようにおれなりのことをみせてやるぜ」
2コマに渡って描写されるこのシーン。もはやこの時点で選手層の薄い墨谷は満身創痍なんですよ。それでも誰も諦めずに試合に向かう姿勢。思い出すだけで泣ける。


この試合こそ谷口が残した墨谷イズムの集大成じゃないですか。選手層も薄く越境入学で入部してくる天才もいない。ただ目の前の勝利だけを見据えてボロボロになりながら試合に臨んでいく。実際谷口時代から青葉のエースを張っていた佐野は執拗な墨谷の攻撃に途中降板するわけで全国レベルの投手をそこまで追い込んだ墨谷イズムはここに完成していたという見方もあるわけじゃないですか。谷口〜丸井ラインを経ての完成。そして勝利するもすべての力を使い果たした墨谷は全国大会出場辞退を選ぶという結末。試合には勝ったのに終わるんですよ、ばっさりと。でも読んでるほうとしては納得しかなくて。延長につぐ延長で選手層も薄い墨谷が無理を重ねてるのはわかるもの。で無理にだらだらと全国大会出場しないことを選ぶことで伝わるリアルな感情。これは「スラムダンク」最終回と並ぶ英断だと思いますよ。

ある程度都内で名声も積んだ上での墨中もイガラシ時代となるといろんな事情が微妙に変わってくるんですよね。新しく入部してくる登場人物皆それぞれそれなりのプレイヤーだし。だから教育ママが登場して練習時間云々なドラマになってしまったと思うんですが。あの教育ママ最悪だよ!思い出した。松尾だ。

結局ボクが「キャプテン」をちゃんと買ったのは京都で一人暮らし始めてからなんですよね。ボロアパートの隣にあった深夜営業の本屋でホーム社発行の愛蔵版を買ったのが初。「プレイボール」までってことになると90年代本格突入後のマンガ文庫ブームに乗って発刊されたタイミングですよね。続編「プレイボール」だと電機屋の息子で野球部キャプテンの田所が好きですね。中華そば奢ってたい焼き奢って谷口の空回り気味のやる気を鎮めようとするくだりとか(もちろん谷口くんは諦めない)。あとは卒業後快進撃を続ける後輩にうな丼奢ろうとするも予算オーバーでカツ丼に変わるとこ。かつ丼をカチ丼とか言っちゃってるとことかさ、イイ。実にイイよね田所。こういうちょい出のキャラが活きてないとね。

リアルタイムといえば当時ちばあきおが連載していた「ふしぎトーボくん」とか「チャンプ」はもっと後追いなんですよね、読んだのは。月刊少年ジャンプを定期購読してなかったしボクがジャンプ読者の頃は本誌以外となるとネクスト枠って意味もありフレッシュジャンプやさらに季節ごとの増刊号とかをチェックしてたのでほぼノーチェックだったから。月刊を読んでいた友人は殆どいなかったと思う。弓月光の「ボクの婚約者」(名作/単行本読破必至アイテム)とかみやすのんきの「やるっきゃ騎士」のようなエロコメに力を入れていた印象もあるからシェアしづらかったのかも。そしていつのまにか「ガッツ乱平」のような作品は影を潜めてしまった気がする。けっこうロングラン連載だった記憶なんですけどね。乱平は。


コージィ城倉センセの「プレイボール2」は一応読んではいる。まさかの谷口最後の夏の結果には驚いたけどサッカー部キャプテン登場にはもっと驚いたなあ(笑)さらに谷口くんの「俺は父ちゃんのような大工になるよ」宣言にはさらに驚いたけど。このまま丸井編に突入するのかそれともまさかの谷口ノンプロ編か大学進学編なのか、、実は先行きものすごく気になってはいるんですけどね。あ、近藤キャプテン中3最後の戦いを描いている「キャプテン2」に関しては未読。いやウェブで1回目は読んだかな。ワセダに進学したサッカー部キャプテン相木が近藤の家庭教師として登場。「プレイボール2」にも登場したんですよね、相木。大工になる宣言した谷口に「大学進学も考えろ」と説得する役として。まあ相木が谷口の野球復帰をビンタで後押ししたわけだし影は薄いけど重要な役どころなんでしょう。とここまで書いて「プレイボール2」が次号最終回だってことを知る。なるほどな。2017年から連載続いてたから潮時だったんだろうか。ボクは時折うっすら滲み出てくるコージィ城倉「おれはキャプテン」的テイストが嫌いじゃなかったですけどね。

でも優勝とか勝利とか、もしくは何連覇してプロ入り(最近だとメジャー入り)がゴールになりがちな野球マンガってジャンルの中でやっぱり「キャプテン」と「プレイボール」は異色だしそれゆえに世代を超えてリアリティがあるんだと思います。天才なき集団戦でも十分ドラマは味わえる。ちばあきおが残した不朽の名作は教科書レベルで読んだほうがいい。てか日本もさ、考えたほうがいいよ。国語の教科書に星新一、村上春樹をのっけてるんだしマンガの名作を味わい考察する時間作れば?学校指定の必読マンガとかさ。でもセンス問われるから無理か笑。

でもさ、「キャプテン」「プレイボール」の2作品は本気で未読のひと悔やんだほうがいいよ。「キャプテン」なら青葉初戦の谷口くんの涙、丸井時代最後のページの嬉し泣きと悔し泣き。イガラシ時代の選抜出場辞退のシーン、近藤はやっぱ最終回かな。まずは手にとって(電子ならクリックして)それぞれ思い想いの感動を得て欲しい。まあボクの場合はやっぱり丸井・・(以下割愛)。

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