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シティ・ポップ感覚で考える「とんぼ」my love、そして柳沢きみおマガジンの行方。


月刊柳沢きみおマガジンなるものがある。

連載扱いで旧作を載せつつ、新作(ドフトエスキー「罪と罰」など)も載せてしまうというヴォリューム。
マンガ業界を舞台にしたイラストと文章で綴られる絵物語すらあるチャレンジぶり。だが、vol.20で発行が止まってる事実に昨日気がついた。ちなみに柳沢版「罪と罰」は4〜5回で継続断念、新作連載は(ここでしか読めない)只野仁新作と絵物語のみにはなっていたのだが。最新号のリリースは昨年11月下旬となっている。まあ電子オンリーだったからなァ、、、。まだkndleでは読めるので存在知らなかったひとにはぜひclickしてもらいたいものだ。

さて初夏真っ盛りのTシャツの季節だ。紅茶染めのTシャツ、今年こそDIYしないとなァ。柳沢ファン、読者を自称するのであればチャレンジしなければいかんですよ。郷ひろみの「よろしく哀愁」を口づさみながら「歌謡曲はしみるなァ」とカチ割りビール(氷入りのビールorワイン)を嗜むのが正しい柳沢きみおファンの姿なり。シメはカップ焼きそばか具なしのインスタントラーメン。そのまま寝落ちして起き抜けにグラスいっぱいに氷をぶちこんだアイスティー。これでキマリだ。天気がよけりゃふらりと外に出て立ち食いそば(冷やしたぬき一択)をキメるのも悪くない。ホープ軒のラーメンでもいいじゃないか。そして食欲を満たし家に帰って腕立て伏せ&逆立ちをして爆睡、深夜に目覚めてカチ割りビール以下略なきみお`sライフサイクル。平和っちゃ平和だ。

さて前置きが長くなったが先々週に人生初体験。「とんぼ」を見た。ええ、「とんぼ」です。幸せのとんぼよォどこへぃ♫の「とんぼ」だ。

まだ見てなかったの?と言われても仕方がない。「親子ゲーム」も「親子ジグザグ」もリアルタイムで見てたのにもかかわらずなぜか「とんぼ」は見てなかった。どうしてそんなことになっちまったのか?まったく思い出せないんだけどね。

結論からいえば傑作。初回からラストシーンまですべてが最高。無駄なエピソードを極限まで削り取り、義理と人情、くそったれの東京シティを舞台に長渕剛扮する主人公小川英二の孤独っぷりをハードボイルドに描いた、おそらく長渕剛役者人生の中でも最高傑作と断言したい。

初回カーラジオから流れる「順子」(オンエア時はサザンオールスターズ「みんなのうた」)が流れた瞬間、「気持ち悪りぃ曲流してんじゃねえよ」とキレる英二、毎回のように繰り出される勢い余って時々コケるのもカッコいい長渕キックの鋭さもまったく古びてない。

これ、だらだらと主人公が育った環境を説明づけちゃうと単なるうっとおしい人情ものに成り下がってたと思うんですよ。仙道敦子扮する妹と英二の兄妹は早くに両親を亡くし親戚縁者を転々とし過酷な状況で育ったことは時折差し込まれた幼き頃の写真や兄妹の会話から想像はできる。だけど妙な回想シーンが差し込まれてないので観る側は想像するしかないんです。そこがイイじゃないですか。

たとえば小川英二は食べ物や飲み物、つまり自分の身体に吸収するものに関して側から見ていて異常と思えるぐらい「匂い」判断するとことか。ここからどれだけ過酷な状況で育ってきたのか想像するじゃないですか。妹(カフェバー勤務)は「お兄ちゃん、イイ加減その癖やめなよ」と嗜めるが英二はやめない。嗜める妹もわかってるわけ。このひとは変わらないと。つまりはNEVER CHANGE。第1話の出所後寿司食うシーンの名演ぶりはヤバいですよ。

地方出身と思われるタクシー運転手、その他市井の人々に英二はとにかくチップをはずみます。デリバリーの兄ちゃん、蕎麦屋のおばちゃん、、「いいからとっときなよ」と万札をねじこむ英二。東京のバカヤローで暮らす弱者を英二はとことん守りたいわけ。泣けるじゃないですか、ね?

「親子ゲーム」や「親子ジグザグ」で長渕が演じてきた「ちょいと人生はみ出ちまったけど、根はいいやつ」が本作「とんぼ」では思い切りドロップアウト。なんせ第1話が出所から始まるし。このドラマ、バディものという側面で観れるけど子分役の常吉がね、ほぼ本格的俳優業初の哀川翔が熱演。まるで「傷だらけの天使」における水谷豊なフィーリングでいい味だしてんのよ。英二と男女の仲になったカフェバーの店長、秋吉久美子からの手紙を常吉が読むシーンとか最高ですよ。

ああ、なんでこんないいドラマを当時リアルタイムで観てなかったんだろか。よくよく思い出すとある事実をボクは思い出した。

ボクが高校に入学したとき、同じクラスになったJという男がいた。

彼は自称ドラマーでちょうど本格的バンドブーム前夜。校内でいくつものエア・バンドが発生しては消えていった。「レベッカの曲、やりでよな」「でも男子校だし無理だべ」「聖飢魔Ⅱならできっぺ」「俺、うだえねよ。あんな高い声でねもの」「ボウイならどうだ?「わがままジュリエッド」どか、なかなかええぞ」「アン・ルイスの「ろっぼんぎしんじゅう」もなかなかエロいべ」とまあこんな具合。運がいいやつはエレキギターを手に入れてたし。だけど大抵エアバンドで終わったのはメンバーが揃わないから。そんな状況下でJは引く手数多の存在だった。なぜなら自宅にドラムセットがあったから。

だがJはどのオファーも断り続けた。理由は簡単。ドラマーでいたくなかったから。そう、Jは憧れていたのだ。長渕剛という存在に。

なんてったって愛読書は「君はギターの弦を切ったことがあるか」。フェイバリットソングは「乾杯」、「ひざまくら」に「二人歩紀」という純正コアファン。

「さいぎんのな、ロックを気取ったやづらは信用できねえべ。革ジャン着たらロックなのがよって言いてえべ。もっとロックなスピリッドが大事なんじゃねのが。その点剛は信用でぎっぺよ」
Jはボクの部屋に遊びにくるたびにそう語るとレコード棚の数少ないコレクションにダメ出しをした。
杉山清貴&オメガトライブを「歌はウマイ。だけどな、バラードは剛のほうがイイべな」とバッサリ、
杉真理は「けっこういいセンスでねが。「街で見かけた君」とかしみじみしてええ感じだな。「Love Her」は悪ぐはねえけんど「夢見る渚」のほうがこのひとらしいっぺ」と辛口。だけどもおニャン子クラブには寛容で理由は長渕の(当時の)親友だった秋元康が参加しているから。Jの推しは高井麻巳子だった。そして秋元が参画している理由というだけで「とんねるず」にハマり毎週火曜深夜のオールナイト・ニッポンのヘヴィリスナーだったJ。「あのな、「雨の西麻布」より「歌謡曲」のほうがな、イイ曲なんだよな」とよく言ってたっけ。

そんなJだが、ボクの部屋にあるモーリスのフォークギター目当てに週1回は遊びにきていた。だがギターを弾こうとしなかった。「コードぐらいは教えてやるよ」と言ったが「いやいや。何事にも潮目ってもんがあるんだ。今はそのときじゃねべ」と雑誌「BOMB」や「DUNK」のグラビアページをめくるだけの日々。そしてボクの部屋に遊びにくるたびに自身で選曲した剛コレクションを収録したカセットテープを持参。なのでボクは初期長渕剛ナンバー、ほぼJの選曲で知った。「夏の恋人」に「素顔」、「男は女が必要さ」に「賞金めあての宝探し」。全部Jのカセットテープがなけりゃ知ることもなかっただろう。

Jとは高2のクラス替え以来、疎遠になり会うこともなくなった。

そんなタイミングで長渕は「ろくなもんじゃねえ」に名盤「LICENSE」をリリース、翌年88年は「とんぼ」で自己最大のヒットを記録。アーティストとして大きくなっていく姿をJはどんな気持ちで見ていたんだろうか。ちなみにJはドラマーとして(校内バンドで)デビューすることもなく、かといってアコギで弾き語り文化祭出演もなく、校内バンドシーンで彼の話を聞くこともなくなった。

ちょうど「STAY DREAM」がリリースされた頃だろうか。ギター1本で武道館などを行ってたタイミングで(実際はコーラスの浜田良美もいたはず)Jは長渕のストイックな姿勢にとにかく浸水、いや心酔していた。「いろんなやづにな、剛は裏切られたんだよ。それでもな、、アコギ1本で再起する剛を応援するしがねえべ」と思い詰めた表情でJは発売されたばかりの「STAY DREAM」をダビングしたカセットテープをボクに渡してくれた。むちゃくちゃ硬質でストイックなアルバム。もしかしたらJがボクの家に遊びにきたのはそれが最後だったかもしれない。

バンドマンとして校内の人気者にもなれた(はず)で弾き語りだってちゃんと練習すればいけたかもしれないJは結局何者になることも選ばずに高校を卒業した。そしてボクはといえば彼の愛読書「君はギターの弦を切ったことがあるか」をいまだに読んでいない。

「とんぼ」を初めて全部観て、ボクはしきりにJのことを思い出している。
いろいろイメージとか思い込みとかあるかもしれないけど、食わず嫌いの方はぜひ観て欲しいなァ。
Netflixで韓流裏社会もの映画、それこそ「楽園の夜」とかハマったひとは観て欲しいよ。すべてのバランスが完璧。アーティスト長渕剛の主張、脚本、演出、プロデュース側の思惑がぜーんぶ絶妙なバランスで成り立ってる奇跡のようなドラマ。Paraviで観れるのでぜひに。人生変わるかもよ。

バブル真っ盛りのトーキョー・シティ。シティ・ポップ再評価大波きてるけど、今のアジア諸国のユース・カルチャーど真ん中のユーザーが考えるトーキョーってこの時代の街の光景がイメージ近いのかもね。1988年のトーキョー。地方出身者憧れの最先端シティ。2022年の日本の姿なんて想像も出来なかったよ。


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