短歌 (2005年)

まざりゆくミルクと珈琲遊歩道くずれた砂糖が降りてくる

置き去りの氷のなかに浮き上がる神経繊維の城砦細工

ゆびさきで優しくちぎって薄くした積乱雲をこっそり見上げる

瞬きの鋭い切り口きみの顔瞼の白みが生き埋めになる

声の端に薄く引きづりひたされた光に滴る汚濁の血痕

口をつき喉もとをすぎほつれを梳かす風に消えゆくきみの声

沈黙をやさしくつぶすその睫毛魅せられている甘い戸惑い

蜘蛛の巣に監禁された未来はいつも血と銀色の身をこぼす

打ち寄せて消える飛沫の裂け目から流れ出ていく死の黒い冬

すこしずつ耀きをますくちびるで口笛をふく冬の明け方

晴れた日に長々続くおしゃべりを盗聴している黒い影

丁寧に林檎の皮を剥くように冷たいナイフを押し当ててみたい

死に掛けた蚯蚓の躯を食んでいる青鈍色の蟻の群れ

さかあがりいきおいつけてとびあがり宙返りして星になる

丘の上UFOを呼ぶ瞼の裏でサイケデリックな星間戦争

風穴を開けられ閉められ鍵掛けられて閉じ込められて窒息死

溶けていく浮遊蝋燭幽霊に取り付かれているぼくの顔

剥製にされた草原閉じ込めた蒼い硝子玉ころがしてみる

影のさすカナリア色の目薬の痛みのようなきみのまなざし

人魂が行き交う街の水底の少女の寝息に耳を澄ませる

爪楊枝ぽきぽきおって投げ捨てて拾い集めてガーゼで包む

大声できみの瞳は6万ボルトといいたくなるが遠慮しておく

(2005年)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?