詩 (無題)(2004年)

唇のなかに
互いのてのひらに
滲んだままで記される
内側に触れていく
凍りついた夜のためいき
白く、白く
かすれていく二つの口
昨日に消えた黄昏の中で
その黒髪に光が当たって
新しい薔薇色が生まれる
黄金や紺碧や翡翠の粒がきらめいている
透明な針金で編んだ二人の周りで

まばたきのように
呼吸のように
夜明けのなかで見えない跳躍を繰り返しているものを見ていた
地球の表面をめぐるあらゆる潮の満ち引きの
つぎつぎに色と形を変えて代謝されていく血流の
ありえない、ありえたかもしれない
時の声の隙間で
それが何かおぞましいものと一つになって
ぼくたちの夢を動かしていくのを見ていた

今まで考えたこともないくらいに
複雑に演算された組み立て方で
青白く炎上していく放射線の中継地点で
人間たちすべての
みんなの持たないすべてはずっと鮮明になって
永久に越えられない
声にならずに群生していく苦悩と手を繋いで
未来という名の、解かれていく時の格子に
いつか戻ってくるのを見ていた
口ずさむメロディーの中に
ためいきの中に
かすかに産み落とされていく絶望の私有地で
あて先のない暗号解読に駆り立てるために
重ねられた手の温度差の中にあるみんなのゼロの上で
みんなの一つにならない、重ねられないゼロの上で
それが戻ってくるのを見ていた

歌いながら
自分自身を手放しながら
きみは眠り、境界の向こうでぼくは目覚めていた
何度も、静寂の中で何度も、眠りは目を見開いて
移りすぎていく窓を見ていた
何かがぼくたちの抜け殻を満たしていた
隔てられたものは感じることができた
きみがその髪の毛の一本一本を掻き分けていく動きの内に外に
見つけることができるものがあるから
完全についての安らぎと、安らぎのなさを
いつも不完全な姿で手にしていた

分散されて白く降りてくる光のなかを
短すぎる足跡
短すぎるせいで殆ど消えない
消えないような軌道を描いて
何かが消え去っていくのが見えた
それが何なのかこの上もないくらいに完全に理解していた
明晰すぎて言葉にすることはできなかった

(2004年)

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