小説 失われたお菓子を求めて(2007年)

昼下がりだった。わたしは公園のベンチに腰掛けて、目の前のむき出しになった土色の地面を見るともなしに茫茫と見ていた。そこらかしこの隅々に、散乱したタバコの吸殻や、小さなビニール袋、中身の入っていたり入って居なかったりする、食べ残しのついた透明なプラスチックの容器などが転がっていた。乾涸びた百合の木の木の葉たちがところかまわず散らばっていた。オレンジ色の目をしている、鳩たちが、近くをぞろぞろ歩いていた。そのうちの二、三匹は、両翼を慌ただしくばたつかせていた。ふと気がつくと、二匹の鳩が仲良くならんで立っていて、何かをよけるみたいに首をひねらせ、お互いの体のあちこちを、ちょんちょんとつついていた。毛づくろいをしているのか、あるいは体についた虫かなにかをとっているのかもしれない。そうして一段落すると、ふいに一匹がその細長い両足をすっと折り曲げて――きょとんと腰、というか全身を地面に据えた。けれどもその時、足を折り曲げ、全身を地上に据え付けている、鳩たちの様子は、わたしに何かを思い出させた。――「こ、これはハトサブレ、ハトサブレやー!!!」。その光景の突然の感動は、わたしの脳髄をして、有名なお菓子の形状および色彩および味およびその他もろもろのことどもを思い出させるのに十分過ぎて余りある位なのだった。そうして、この余り物、とでもいうべき余乗部分は、わたしの心に取り付いて、こういう文章をかかせないでは居られないくらいの、まったく見事な余りものっぷりだった。そういうわけで、勢い余ったお菓子の記憶は、わたしの時間をぱりぱりかじって、この文章をかかせて、そうしてかじられたわたしは記憶の中で、お菓子をぱりぱりかじるのだった。かりっとした歯ごたえや独特の甘さが鼻をついた。――書いているうちに、今やお腹すいてきたのは、思い余って言うまでもない。

(2007年頃 2012年推敲)

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