詩 シダリイズ(2011年)

自分が殺されてしまったことを知った神様が
両眼から三つ編みの血の雫を流している
とても高い塔の見晴らし台で
緑色の水溜まりに寝そべって
裸になった彼女の心はゆびさきで
瞳の奥に絵を描いている
きみの母親はまるできみと瓜二つ
淡い紫色と
スミレ色が混ざり合った水蒸気になって
いつまでも
いつまでも同じまじないをくちづさんでいる
天使たちの羽根だけが舞い降りて
ちぎれたガラスの綿毛みたいに
オレンジ色の夕暮れの響きを
ほんのりとうつしている
まるで天国から見棄てられたせいで
街中に散り敷かれている
まがいものの宝石に囲まれているみたいに
きみは
今だけはほかのものは何もみたくないとでも
いいたげな横顔のままで
うづくまる
星空の暗さとやさしさを閉じ込めたみたいに
黒く美しいその髪の毛を
いつか自分が自分になる前の
あの懐かしい夜の不安が遺してくれた
かけがえのない贈り物みたいに
いつくしみながら
冬の地平線の向こう側から
口を開いてやってくる
鮮やかな緋色の未来の予感を
飲みほしていく僕の背中は
ウルトラマリンの原石みたいに
黄金色をした海の故郷に
沈みこんでいく夢の気配に
次第次第に
浸されていく

(2011年、タイトルはG・ネルヴァルの詩からの引用)


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