散文詩 銀結晶(2004年)

 繊ヶ(せんせん)とささくれだっている銀結晶の内壁は、とてもひんやりしていました。外界からやってくる午後の日差しは、爽やかに凍てついた楽園の呼吸のようでした。

 そういうわけで、年を取らない、姫百合の花の精にさせられてしまった王女は、この銀結晶の住処の中に閉じ込められて、何年も何年も暮らすことになったのでした。

 毎年毎年、春が過ぎると、地平線の向こう側から、夏が歩いてやってきます。夏は自分の姉妹の秋を、冷たい冬を、そっくり背中におぶっていました。季節と言う名の妖精たちは、この水の流れる蒼い惑星を、自由きままに旅していきます。

 彼らの全地球的な歩行に少しでも触れたら、不意をつかれた緑色の幾何学たちは、全身をぱあっときらきらさせて、ひときわ眩く息付くでしょう。

 雨期になったら、その緑色たちの葉裏という葉裏には、空から落ちてきた、たくさんの雫の小さくて丸い粒たちが宿って、夜明けや黄昏の光を映して燃え上がります。

 秋になったら、宝石みたくさんのトパーズやアメジストでできた、流麗なドレスで着飾って――道をゆく人々の眼を楽しませながら、風に吹かれて、地面の上にまで散り敷かれていきます。

 厳しい寒さがやってきたら、水気をなくして、みるみるみるみる末枯れていって、いましもかさかさ変形しては、ぼろぼろぼろぼろ、道路脇の排水溝の中に落ち着いたりもするけれど、またその次の、春が巡れば、地面を被った、白くてきれいな雪のレースの下に隠れて、まだあどけない子供たちが、芽を吹いて、みずみずしい双葉をつけて育っていきます。

(2004年 2012年)

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