小説 ステーション(2007年)

 真昼だった。風は道行く人たちの全身に思い切り体を衝突させて、そのシャツやワンピースやスカートやらの襞という襞を、ぱたぱたと急かしていた。湿気を知らない空の波たちが次から次に寄せては返して、おもむろにめぐってくる初夏のおとずれを、自由気ままに告げていた。その鉄道駅はアール・デコ調のデザインで建築されていた。花崗岩のブロックで敷き詰められた広場の中心には、大きな欅の木が植えられていた。風に吹かれて、ぐらぐらと揺れだしたわむ様子は、まるで着飾った若い女が――その虚無的でがらんどうの内面精神と、同じようにどこか無表情なままでじめじめしている、内蔵たちの有機的な複雑関連体を根こそぎ剥奪させられて、有無を言わせない沈黙の絶叫を氷のようにほとばしらせている神的な重力によって、奇怪な天上の造形物に変身させられている様を見ているようだった。

いたるところで、節くれだちながらも、先端に向かってぐんぐんやせ細っていく禍々しい枝たちの体中には、赤やオレンジ色の糊のような、半透明の塊まりがこびりついていた。この奇妙な女性の千ヶに割かれた四肢の表面を取り囲みめぐるようにして、青い、夏の色をした、鮮やかで心持ち淡くなっている幾何学的な結晶たちが、様々な姿で、地上的な個性を現象しながら、きらきらきらきらと、絶唱していた。

わたしがやつれきって黒ずんだ梢の一本をつかんで、そのまま引っ張ると、緑色たちは、その両性具有の両親たちから無理やり引き離されて、風に体を捻じ曲げられて、ひゅるひゅると舞い上がり、めくるめくような幻惑の中で黄色い陽射しを透過させていくのだった。

それはどこか遠い極北にある異国の土地で、青白く燃焼する炎の帯にしばりつけられ、いまわのきわまで踊り続ける刑罰を与えられた踊り子のようだと思った。有機的な色ガラスの破片たちが、自分たちの体を神経質そうに痙攣させながら、ばらばらばらばら広場の地面に墜落するのが、ゆっくりゆっくり、スローモーションを見ているように、こちらからはっきり伺えた。

(2007年ごろから執筆し2012年完成)

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