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モンステラと母と娘

ウチがここに来て早一年になる。

「サトミ、今日も学校行かないの?」
「うーん」
ウチの家はほぼこんな感じではじまる。
「今晩は同窓会あるから遅くなる。戸締まりだけは忘れないでね!」
「はーい」
母はいつも忙しそうだし、ことばの量が娘の十倍ぐらいある。

母はウチにときどき話しかけてくる。
たとえば同窓会の次の日のこと。
「ねぇ、わたしってさ、つくづく他人に興味ないよね。そう、自分にしか関心ない。そのことを同窓会で前に座った男子についしゃべっちゃたんだ。そしたら、怪訝な顔されちゃってさ。なんだかね。ふっと席を立って別の場所へ行っちゃった。そんなにわたし変かな?まぁ、どうでもいいけどね!」
「・・・」
もちろんウチは植物だからなにも言えない。

娘は家にいる分、ウチにはよく話しかけてくる。
「ねぇ、お母さんが近所から野菜をお裾分けしてもらったの。でもさ、お裾分けの野菜って気持ち悪いよね。だって、ただの野菜じゃないもん。なんだか念が籠っていそうでこわい。それから、『タダより怖いものはない』って昔から言うし。そう思わない?あー、気持ちが悪い!」
「・・・」
娘はそんなこと言いながらウチに水を与えてくれる。

この家には小さなホワイトボードが壁につるされている。
二人の欲しいものが書かれていて、買い物が済んだらリストから消えるしきたり。
ウチが来てからずっと書かれているものがひとつある。
「観葉植物」の四文字。
どうやらモンステラは違うらしい。
「・・・」

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