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新しい机の詩


新しい家具を買ったときの、胸の弾む高揚感は
まるで自分の一部が若返ったような、
そんな気分を連れてゆく。

片付けもはかどる。
新しい友人にふさわしい舞台のために。
掃除機もかけるし、洗濯機も回す。
ついでに粘つく食器も洗う。


ほらまるで、家具屋のコマーシャルのような
無人で無垢な部屋になったじゃないか。
座るのが勿体無いくらいだが、座る。
うむうむ、地方の田舎貴族になった気分だ。
羽根のペンとインキがほしい。


...

あるはず無いので本を読む。

虚数についての本であった。
著者は「虚数」が英語では「Imaginary Number」なのだから、「想像数」と訳されなかった事を少し残念がっていた。
(「虚数」もこれはこれで趣き深いとも語っていたが。)


もし「想像数」という言葉があったら...と
言葉の如く想像してみる。

例えば歴史を語る文脈で、「もしあの人が長生きしていたら...」などの、歴史の "ifルート" が語られるが、同じように言葉にもあるだろう。


「オリムピック」だったかも知れないし、
「一月」ではなく「睦月」のままで、
「ゑ、ゐ」が残る未来があったかも知れない。
「大化」に始まり「令和」まで続く、元号が
あるのは奇跡かも知れない。


そう考え出すと... "if" の未来は敷衍する
「東京」ではなく「武蔵国」と
「日本」ではなく「大和国」と

「地球」ではなく「方舟」と
「銀河」ではなく「天海」と
「宇宙」ではなく「虚空」と呼ばれる

そんな未来があったかも知れない。


....

気付けば 、"if" を辿った未来の枝葉は、
重い辞書を閉じるように、新しい机に
向かって吸い込まれていった。
かつて大地と繋がっていた机のもとへ。
私の想像が終わったのだ。



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