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ボーカロイドの深淵を覗こう #15

こんにちは。ボカロが好きです。ボカロはいいぞ

 さて、「アンダーグラウンドボカロジャパン」「感性の反乱β」「POEMLOID」「VOCALOIDよれよれ曲リンク」「ボカイノセンス」の全曲周回を目指して感想を書いていくシリーズの15回目です。最終的にこれらのアングラボカロジャンルの目録として機能するようにするのが目標です。第一回はこちら

 クレジットについて、概要などに表記がなければ作詞作曲を投稿者本人が行ったとして表記します。絵や動画については概要欄/タグ/動画内にクレジットがある場合のみ表記します。

 また、万が一ですが、クリエイター様御本人で自分の曲を紹介してほしくないということがありましたらご連絡ください。その番号を欠番として紹介を取り下げます。

それでは いきます。


0141. おえあいあ / EvP(イーブルP)

タグ:VOCALOIDよれよれ曲リンク
作詞・作曲:EvP(イーブルP)
ボーカル:初音ミク
投稿:2009/2/9

 よれよれというかエコーが強くかかったミクが特徴的なエレクトロ。残響感が音に包まれるようでとても良いです。キーボードやリズムを刻むドラムも印象的なフレーズで惹き込まれます。


0142. ストレッテン / ぷれいらP(300)

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:ぷれいらP(300)
ボーカル:初音ミク
投稿:2009/2/14

 音をどこまでもどこまでも引き伸ばした実験作。ところで、PLAYERの誤字からその名がついたぷれいらPは「300」「ppppp」「err」などのアカウントを使い分けているようで、作品の内容なども明確に雰囲気を分けているので、ぷれいらP(300)のようにカッコでアカウント名を書いておきます。また、pppppのユーザ名からpppppPと付いている動画もありますが、大百科記事が立っていたりとぷれいらPが一番定着していそうなのでこちらの名前で統一します。(過去のものは修正しました)
 さて作品の内容ですが、唸り声のようなノイズが乗るほどに引き伸ばされたミクの声がだんだんと飽和していきます。映像には「じかんをのばす」とありますが、これを聞いている時間までも伸びているような感覚に陥ります。「音楽的時間」というのはベルクソンのいう「深く主観的な時間、というよりも客観的でも主観的でもないような、生に関わるすべての出来事のうらに流れているような時間」すなわち「純粋持続」になぞらえられることもありますが*、まさにそのような主観的な時間感覚を露呈させるかのような意欲作です。

*栄長敬子「音楽的時間の意識と音楽すること」,『新潟青陵大学短期大学部研究報告』,第39号,2009,(http://www.n-seiryo.ac.jp/library/kiyo/tkiyo/09pdf/t0915.pdf


0143. あんな奴のために歌うくらいなら死んだほうがマシだわ / sansui

タグ:VOCALOIDよれよれ曲リンク
作詞・作曲:sansui
絵:白熱灯
ボーカル:初音ミク
投稿:2009/2/16

 題名と同じフレーズを繰り返しながらリズムやコーラスが有機的に変化していく曲。ミニマル・ミュージック感もあります。途中からのノイズや低音も含めてすべてミクの声で、徐々にずれたり合わさったりという緊張感や宙吊り感がとても心地よいです。ノイズや低音も美しくアカペラ曲としてもとても良いです。
 ミニマル・ミュージックといえば非ボカロですが大御所スティーブ・ライヒの「Music for 18 Musicians」が大好きなのです。本曲も「Music for ~」と同じく、6分30秒にわたってミニマルの持続的な繰り返しと変化が聞けてとても良いです。


0144. 題名未決定 / hyton

タグ:VOCALOIDよれよれ曲リンク
作詞・作曲:hyton
ボーカル:鏡音リン / 鏡音レン
投稿:2009/2/20

 気の抜けた手書きPVも含めての「よれよれ」曲。ブラやパンティが地上に襲ってくる謎の展開も面白いです。最後のリンのつぶやきに賢者タイム的哀愁すら感じてしまいます。


0145. のどが渇く / ヒッキーP

タグ:感性の反乱β
作詞・作曲:ヒッキーP
動画:まっぺ
ボーカル:鏡音リン
投稿:2009/2/27

 殿堂入り曲であり、ヒッキーPの2番目の再生数を誇る代表曲の一つであり、リンによるロック。ついこの間MARETUさんがRemixを投稿していました
 「ほら、ほら、人気者だよ。群がれよ。/ほら、ほら、人気がない人だ。見下せや。」など、権威主義や偽善的な正義への攻撃性を音楽に昇華しているような気がします。「節制!節制!」からのキャッチーなメロディで締めるのもとても好きです。


0146. めまい / ぷれいらP(ppppp)

タグ:VOCALOIDよれよれ曲リンク
作詞・作曲:ぷれいらP(ppppp)
絵:NANIKA_SHEILA
ボーカル:初音ミク
投稿:2009/3/5

 ダウナーなギターが気持ちいいシューゲイザー。ぽつぽつと語るような内省的な歌詞も良いです。ギターの音や内向きな精神性が「よれよれ」です。ラスサビの歌の繰り返しや盛り上がるノイズ、ギターもとても美しいです。


0147. 訳ありUFOおじさん / ぷれいらP(err)

タグ:VOCALOIDよれよれ曲リンク
作詞・作曲:ぷれいらP(err)
ボーカル:初音ミク
投稿:2009/3/7

 イラストで「300年前に地球へ来たんだ」といっているのがオジサンでしょうか。「訳あり」「UFO」「おじさん」という結びつかなそうな3つが並んでいる題がまず好きです。
 ローテンポでメロディは単調ですが、歌詞が意味深だったりそのまま受け取ればよいのかよくわからないような歌詞で謎の魅力があります。個人的には不気味なアウトロが好きです。ちょっとゲゲゲの鬼太郎感ありませんか?


0148. X pattern for rindustrial #1 / ヒッキーP

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:ヒッキーP
絵:無機銘 白紙
ボーカル:鏡音リン
投稿:2009/3/9

 ノイズ満載のインダストリアル。リンの「あ~~~」というコーラスに合わせてドリルのような攻撃的な音が襲ってきます。退廃的でダダイズムな攻撃性と、リンの声がから抑圧されたようなフラストレーションを感じます。とてもかっこいいです。


0149. YES, YOU CAN! / なっとくP

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:なっとくP
ボーカル:鏡音リン
投稿:2009/3/15

 YES, YOU CAN!という掛け声が印象的なテクノ。日本語っぽい英語を歌う所謂逆空耳で、二番では掛け声の合間にはあらゆる資格試験が読み上げられます。電波的なPVも合わせて電子ドラッグのタグがよく似合います。サウンドも重たくミックスもとてもきれいで前衛的な内容の割にとてもクオリティが高くて良いです。


0150. 2.5次元糸あつめワールド / カオスP(幻術植木鉢)

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:カオスP(幻術植木鉢)
絵:時田
ボーカル:初音ミク
投稿:2009/3/23

 とても染み入るポップス。Bメロからサビへの盛り上がり、サビの疾走感どれもとても良いです。サウンドもとてもきれいでかっこよいです。
 内容は抽象的で難解ですが、PVも含めて私はミクと創り手を歌うようないわゆるミク概念に重なるように思いました。ODDS & ENDS的な内容。クリエイターと分かれて「死」を迎えたミクが人間を振り返っているような気がします。そして「あなたは忘れてリアルも充実してる」ようになったマスターへ、ミクが遺影から「本当に?」と語りかけているように受け取りました。コーラスがミクの叫びのようにも感じます。
 上手く表現できませんが、心が突き動かされるようなとても好きな曲です。


今回はここまで。それでは!


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周回の中で特に気に入った曲をマイリストに入れておきます



日記 2022/5/25

 大友克洋全集の「BOOGIE WOOGIE WALTZ」を読みました。

 大友克洋先生は「AKIRA」(映画のみ)や、「MEMORIES」を見たくらいしか教養がなかったので、全集刊行を期に読んでいます。
 全集ってバブルの時にインテリ志向であらゆる作家や哲学者の全集が観光されたそうですが、この大友克洋全集もそうだし、最近もよく見る気がします。「情報が物理的に集積されている」というところで電子との差別化とリッチさを持った全集が一周回って有利なのかも。あるいは「(オタク/世間的に)ノルマになってるような感すらある作品」みたいなのを浚う需要がある気がします。

 それでいくと、私は小学生でコロコロを読んでいて、そこからジャンプではなく小説に移行したので少年漫画の履修がごっそり抜けてます。いい加減教養としてもそこらへん読んでいきたいです。ワンピースもNARUTOも銀魂もハンターハンターもBLEACHも鬼滅の刃もなんも読んでない。私は本は紙じゃないとまだムズムズしてしまう人間なのですが、漫画についてはiPadにKindleを入れたら拡大できるのいいじゃんと気付きました。読んでいきます。

 「BOOGIE WOOGIE WALTZ」の話に戻ります。漫画史のことは詳しくありませんが、大友克洋先生が絵の緻密さや構図が革命的だったのは聞いたことがあったので、その伝聞通り絵ウッマ……と思って読んでいました。そしてどれも難解というかぬるっと話が進んでいく印象。抽象的なことや内省的なことしか喋らないし視点や時系列も頻繁に入れ替わる。全然説明もないし。正直物語を理解できているのか微妙なのも何話かあるかも。

 「鬼滅の刃」に表象されるようにZ世代は説明を求めると言いますが、これは思うにやはり、情報へのアクセス速度に比例して説明の要求が増えたんじゃないかなと思います。情報化によって「知らない」⇔「(今調べて)知った」⇔「知っている」の矢印の長さ(=手軽さ、所要時間、状態の本質的差異)がどんどんと短くなってきているように思います。だからこそ「調べられないわからないこと」という矢印がつながらない隔絶された「未知」に不快感すら感じる人が多いのではないでしょうか。

 私は哲学の本とか技術系、宇宙物理や数学などの本読んで「何言ってるか全然わからね~~~」という感覚がむしろ好きなんですけど、そういう「わからなさのここちよさ」みたいなものは少なくなってしまいそうです。(あるいは「わからなさのここちよさ」は提供されるもの=それを意図したものだけになりそう)

 ところでこの矢印の距離が「0」になった究極的な情報社会を描いた小説に野崎まどの『know』というのがあります。とても好きな本なので最後に布教しておきます。


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