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ボーカロイドの深淵を覗こう #37

こんにちは。ボカロが好きです。ボカロはいいぞ

 さて、「アンダーグラウンドボカロジャパン」「感性の反乱β」「POEMLOID」「VOCALOIDよれよれ曲リンク」「ボカイノセンス」の全曲周回を目指して感想を書いていくシリーズの37回目です。第一回はこちら一覧はこちら

 クレジットについて、概要などに表記がなければ作詞作曲を投稿者本人が行ったとして表記します。絵や動画については概要欄/タグ/動画内にクレジットがある場合のみ表記します。

 万が一ですが、クリエイター様御本人で自分の曲を紹介してほしくないということがありましたらご連絡ください。

 それと、このシリーズはあくまで「レビュー」ではなく、「私が聞いた印象録」として受け取ってくださるとありがたいです。聞いてみて全然違う印象でも、各々が各々の内奥に起きた情動を信じてください。そして自分の感動(それは言葉としての「感想」でなくてよい)を大切にしてください。

それではいきます。

0361. 駅前インスタントゴーレムス / 神理教問題(問題児P・nicol(たまごやきP))

タグ:VOCALOIDよれよれ曲リンク
作詞・作曲:神理教問題(問題児P / nicol(たまごやきP))
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/10/4

 これまで多く紹介させてもらった問題児Pさんとnicolさんのコラボ。不穏な重低音から宇宙人的なミステリアスな雰囲気のサウンドが響きます。内容は自動書記(思いついた言葉をそのまま並べるシュルレアリスムの方法)かのような意味不明な内容。本来繋がりようがないような言葉同士がつながるという意味で予測不可能な面白さがあります。そんな予測不可能性に合わせたかのような、ノイズや不規則なサウンドも面白いです。

0362. 安定した喜怒哀楽 / キチガイP

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:キチガイP
ボーカル:鏡音リン
投稿:2010/10/8

 安定した……とはいい難いような躁鬱の中での自らの精神から収まりきらない情動をそのまま音楽に昇華したかのような雑然とした曲です。即興性も感じます。サウンドもインダストリアル風の激しいサウンドでリンのハスキーなボイスに合っています。「喜怒哀楽僕のヤク速くして早く」など、節々から追い詰められているような印象もあります。それらを率直に音楽にしているのも良いです。

0363. 火葬場くん / あびゅうきょ工房

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
企画:あびゅうきょ工房
作詞・作曲:ゆーま
イラスト:あびゅうきょ
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/10/9

 優しい曲調ながらも面白い内容の曲です。「めいわくメールをもやしつづけてじかはつでんが6ボルト」など面白い歌詞で好きです。『絶望機の終り』などプロの漫画家であるあびゅうきょさんの優しいタッチのイラストも曲にとてもあっています。「火葬場」というやや恐ろしげなテーマと優しい曲の間のギャップが面白みと温みのコントラストを上げているようにも思います。

0364. NOISELOID / nick

タグ:VOCALOIDよれよれ曲リンク
作詞・作曲:nick
ボーカル:鏡音リン
投稿:2010/10/11

 タイトルの通り極度に加工され声ともならないようなリンの声が特徴的な曲です。もはや効果音のような声ですが、それが以外にもアンティークな伴奏にあっています。もはや動画でリンが音に合わせて口を動かしているからリンの声と認識することを要請しているようで、音楽の認識を動画にたくしているという音楽認識の面白さがあります。声への加工もたくさんのバリエーションがあり、どうやってこんな声にしているのか気になります。

0365. ふゆぞら方程式 / かめりあ

タグ:感性の反乱β
作詞・作曲:かめりあ
イラスト:十人十ゐろ
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/10/14

 かめりあさんによるゆめにっきの「雪の世界」のイメージソングです。ゆめにっきをプレイしたのが太古の昔すぎてゆめにっきを踏まえた感想を出せないのですが、とても冬らしいミステリアスで静粛な雰囲気があります。冬のすべてを静寂しじまのうちに白に飲み込むような恐ろしさと美しさを表現しているように感じます。かめりあさんらしい複雑なリズム感も好きです。

0366. 僕は神を絶対に許さない / キチガイP

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:キチガイP
ボーカル:鏡音リン
投稿:2010/10/16

 プログレッシブなリンの叫びが生々しい曲です。陰鬱な雰囲気がノイジーなギターや無調のようなピアノの旋律に合っています。自分の運命を神に呪う切実な叫びが伝わります。後半の激しいギターなどもそういった怒りややりきれなさをかき鳴らしています。「神は僕の全てを逆にする」という表現が良いです。

0367. ボールペンガフロケット /くつした

タグ:感性の反乱β
作詞・作曲:くつした
イラスト:てぶくろ
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/10/16

 ストーリー性を感じる曲です。幼さと不気味さとレトロな雰囲気がとてもあっています。少しダークな絵本のような感じがします。犬、羊、猫という動物たちがかわいいながらもどこか隠喩的に感じます。「わんわん泣いてももうあなたはいない」と別離を悲しむ深い感情が伝わります。アウトロのノイズがとても余韻を感じて好きです。

0368. 空が落ちた / 大丈夫P

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン / VOCALOIDよれよれ曲リンク
作詞・作曲:大丈夫P
イラスト:さわやかP
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/10/17

 大丈夫Pらしい高密度な曲です。プログレの複雑な音が不安を誘うミクの歌に合っています。ギターがとてもかっこよくて好きです。「6万で買った空ですよ」など「空が落ちた」とDAWの「SONARが落ちた」がかかっていそうです。曲を作れなかったりDAWが落ちた鬱憤をそのまま歌っているようで面白いです。

0369. 落下 / 俺+

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:俺+
イラスト:真理恵
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/10/18

 ローテンポな落ち着く曲です。タイトルやイラストの通り、空間の広がりや澄み通った空気感を感じます。3:11頃からのラストのギターのフレーズが特に好きです。空からの落下と同時に、海の底や夢の中に沈んでいくような雰囲気も感じます。打楽器の落ち着いたサウンドも素敵です。とても深みがあって何度も聞きたくなるような曲です。

0370. のどかな窮日 / ヒッキーP

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン

作詞・作曲:ヒッキーP
動画:マッペ / ヒッキーP
ボーカル:鏡音リン
投稿:2010/10/22

 マッペさんの個性的なPVとヒッキーPの激しく前衛的な内容が相乗効果を起こしています。「ないないない」と連呼するリンとギターのサウンドがとてもかっこいいです。0:50位からの展開も途轍もなく、予測不可能なダークな雰囲気とかっこよさ、不気味さがあります。一度聞いたら頭に残り続けるような曲です。

今回はここまで!

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周回の中で特に気に入った曲をマイリストに入れておきます



日記:2022/09/20

 眠い!! というわけで、前回の日記(日記とは?)で「ヘテロドキシー」の感想を書いたわけですが、今回は「死んでしまったんだ」の感想を書こうと思います。Kiite Cafeの感想に書いてある奴です。文字数の制約で省略した書き方を戻したりはしています。

 Kiite Cafeって何? という方がもしいらっしゃればこちらをご覧ください(常連さんのわかりやすい使い方の紹介です)

 それでは……。

死んでしまったんだ / 椎乃味醂

【もしもコウモリの感情や、どこでもないところからの眺めに、本当にぼくらが触れられたのなら、どんなによかったでしょうか。】

 トマス・ネーゲルは『コウモリであるとはどういうことか』で次のように述べている。

 「たとえ私が徐々に形を変えていって、ついにはコウモリになることができるとしても、現在の私を構成している要素の中には、そのように変身した未来の私の状態の体験がどのようなものになるのかを、想像可能にしてくれるものは存在しないのである。」

ネーゲル(1989), p.264

 コウモリを科学的に理解していてもそれは「生態」を知ることであって「コウモリである」ことではない。自己が自己である限り「コウモリである」ことはできないという【クオリアの私秘性】、ウィトゲンシュタインが「私は、私の世界である」「主体は、世界に属してはいない。それは、世界の限界なのだ」(ウィトゲンシュタイン, 5-63,5-632)と述べる、<私>は<あなた>にはなれないという究極的な【情報の非対称性】が自己と世界の間には横たわっている。その隔絶は疎外感を齎すが、同時に世界-内-存在としての自己を世界から切り離し、自己を規定する根拠として機能しうる。

 では現代はどうだろうか。自由意志で選んだと思われた「趣味」が「階級」によって無意識的に決定されていることを『ディスタンクシオン』でブルデューが指摘したように、【ベンダーに狭められ】「自律」を奪われたフィルターバブルであたかも「自由な議論」の真似事をしているにすぎないのかもしれない。

 【機械語が歩道を整備】した現代は議論という行為、情報すらも消費物となり、情報消費が目的化してゆく。<私>が希薄化した世界では、責任の所在も曖昧に【君の、吸い上げた記号でできた物語】がナラティブとして消費され、<私>としてではなく<全体>として還元されてしまう。こうして【想像と推測】が事実としてあたかも<私>と<あなた>を橋渡ししたかのように錯覚させる。

 「自由と認識へと通じているかに見える行路の果てには、懐疑主義と無力状態が待ち構えている。わたしたちは、世界の内側からのみ行為できる。しかし、一方で、外側から自分を眺めれば内側から経験している自律は幻と化し、外側から見ているわたしたちには行為することなどまったくできない」

ネーゲル(2009), p.196

こうして事実は、自己は、【死んでしまった】のかもしれない。

引用
椎乃味醂「死んでしまったんだ」, ニコニコ動画, 2022, 2022年9月14日閲覧, https://nico.ms/sm40358339
ネーゲル, 永井均・訳『コウモリであるとはどのようなことか』, 勁草書房, 1989
ネーゲル, 中村昇+山田雅大+岡山敬二+齋藤宜之+新海太郎+鈴木保早・訳『どこでもないところからの眺め』, 春秋社, 2009
ウィトゲンシュタイン, 野矢茂樹・訳『論理哲学論考』, 岩波文庫, 2003

参考文献
ハイデガー, 細谷貞雄・訳『存在と時間』, ちくま学芸文庫, 1994
ブルデュー, 石井洋二郎・訳『ディスタンクシオン』, 藤原書店, 2020

 というわけで、感想でした。あくまで感想です!! 話半分でお願いします……。正直「ヘテロドキシー」よりも自分の勉強してきた分野とも離れるので読解に自信はありません。もっと詳しい人がいたら教えてください。さしあたっては『閉じこもるインターネット』(パリサー)を読んで勉強します。

 とはいえ、実はネーゲルは自分のお世話になった教授にも関係があり、題材としてくれたのはとても嬉しいです。本曲は椎乃味醂さんの曲の中でも特に、認識論や分析哲学といった分野と社会学を同時に踏み込みつつそのエッジィなサウンドともに社会構造に切り込んでいて本当に格好良く思います。ボカコレの場で発表しているのもすごい。

 個人的には思弁的実在論(オブジェクト指向実在論Object Oriented Ontology(OOO))とかの曲も作ってくれないかなと密かに願っています。

それでは!

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