(72)『パラパラのフィリア』まいにち三題噺season2


【学園モノ】黄色/地雷/魅惑的な城 (1529字を/49分で)

 毎年の春でも、今年は馴染みない道を進む。六年間ずっと通い詰めたの小学校への道を外れて、今年からは中学校へ向かう。地域でも有名な名門校で、先進的な一号棟と古風な二号棟か並ぶ。アルトは一強棟へ向かい、最初の挨拶を済まて教室へ向かった。二階の端にある一組の、窓側先頭の席。

 外へ目絵を向けると二号棟がよく見える。中世か近世風の古めかしい外壁に。星形の角度がついて守りの厚さになっている。城壁を好むアルトはもちろん、この壁の魅力に耳まで紅潮していた。校長先生もきっと同じように城壁に発情している。アルトにはわかる。この手入れの入念さ、保全の環境、見せつけるような配置。どれをとっても壁大好き人間、あるいは城大好き人間によっる手だ。犬を飼わない者が犬の住環境を整えないように、シスジェンダーの女が金的の痛みを知らないように、城好き以外なら見落とすような細かな手入れが行き届いていうr。

 アルトは早くあの二号棟へ行きたかった。今日の開放スケジュールは午後の二時からで、それ以前に接近すると鋸壁から飛来する鉛玉で命を失うことになる。疼く体を抑えて午前の授業を受け、給食を食べて、午後の授業をひとつ終えたらすぐに二号棟へ向かった。副産物として最後の授業をさっそくサボることになったが、校長先生ならきっと見逃してくれる。他の生徒や教師陣にも城に発情する変態がいるかもしれない。囲んで殴り殺すには惜しいと思える規模でさえあれば人々は見栄を気にしてシャーデンフロイデを抑えて賢そうに振る舞う。

 開場まであと五分。まずは外側から舐め回すように観察して、手ごろな場所にある突起を舐め回す。雨の日に壁を食べる貝類の気持ちが今ならわかる。愛しい城を見たら誰だってこうなる。アルトもこうなる。舌への刺激に別の誰かの体液の味が混ざった。やはりここには居る。

 約束の二時、城門が開き、アルトを招き入れた。城の喩えるなら胎内だ。もはや興奮を抑えずに駆け込んだ。この先は地雷原になっているが、アルトと城は一心同体となり、どこにどの規模の地雷があるのか手にとるようにわかる。たとえばアルトの足元にある対人地雷は、アルトの体重が足りず反応しない。あと二キログラムフォースの力が必要だ。

 そこに恋敵が現れた。

「残念だったな新入生! 二号棟は俺の嫁だ!」

 あの顔は見たことがある。月刊城の会の先月号に載っていた、三年の、当時は二年だったテノル先輩だ。ペットボトルの水を投げて、寸前で転がり、アルトの足元に来た。質量は二キロに満たないが、これが流石の技巧派だ。あるとがこの場を動こうとすれば足に力をかけて、その段階で地雷の起爆に必要な力がかかる。作用反作用の法則を熟知し。城愛好家の習性も知り尽くしたテノルの前に、アルトは打つ手がない。と、見せかけた。こういう男は策が万全に決まったと思った段階で油断が生まれる。それを防ぐには確認し続ける他なく、そのためにはテノル自身もこの場に釘付けになる。本末転倒だ。爆発するまで待つか、さもなくばどこかで背を向ける。

 時はすぐに来た。テノルは城の中へ、奥深くへ侵入する。足元への力がかからず、地雷の上を降りる方法。頭から倒れることだ。鼻で着地すればぎりぎりで信管を刺激せずに体重を移動でいkる。そこから勢いを乗せて脚を持ち上げて、再び脚が下で頭が上の位置関係に戻す。鼻を鍛えておいて正解だった。本来の目的とは外れるが、潰しが効く技能とはこういうものだ。

 入学して早々、最初の目標ができた。テノル先輩の脳を破壊する。ただし時期を考える必要がある。きっとその後には校長先生も控えている。きっと連戦になるだろうな。危険度評価は黄色だ。

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