(68) まいにち三題噺【邪道ファンタジー】天使/冷蔵庫/業務用の殺戮

(68) まいにち三題噺【邪道ファンタジー】天使/冷蔵庫/業務用の殺戮

 毎年の三月はキリング・マシーンのライセンスを更新する時期だ。アルファが運用を任されているキリング・マシーンは型落ちが近く、今年のうちに新しいものに買い換えるつもりでいる。古いとはいえ、家庭用と比べたら性能は遥かに上だ。片手持ちこそできないが、それを補ってあまりある広範囲への影響を可能としている。かつて人間界に落としたときは、民族ひとつを根絶やしにするために使われたと教わっている。

 更新の手続きを済ませたばかりのアルファに対し、天使長から指示が下された。これからランチをと思っていた所なので、露骨に嫌な顔をした。天使長はただでさえ悪臭と醜悪な顔をしているのに、さらに無茶振りが加わったらいよいよ邪魔な老人だ。しかし相手は特化型のキリング・マシーンを所有しており、迂闊なことをしたらアルファでは力負けする。

「狩るべき人間がいる」「プリンヲ タベタイ!」

 天使長の双つの頭が別々の話をする。虎の頭は理性的で、ライオンの頭は本能的な言葉を使う。いつものことなので、アルファは理性的な虎の頭にのみ返事をする。

「狩るべきとは?」
「私の冷蔵庫から勝手に、プリンを食べた男がいるのだ」
「天界に? 人間が?」
「左様。どのように侵入したかは不明だが、とにかくその男をひっ捕えよ。なだ近くにいるはずだ。探せ」

 人間が訪れるはずがない場所に訪れる。明らかに相当のやり手だ。アルファは腕力に関しては平均的な人間よりいくらか上程度なので、正面からの対峙は避けたい。しかし、情報を集めて闇討ちをするのも問題だ。情報を集めている事実を知られれば、闇討ちされるのはアルファになる。

 ならばアルファがやることは決まった。自分よりも立場が低い誰かに押し付けてしまおう。危険な相手と戦うなど、自分が死ぬリスクが大きすぎる。アルファと戦うよりは勝ち目があると思うような誰かに押し付けてしまおう。

 同じくキリング・マシーンのライセンス更新を済ませたブラボーに声をかけた。アルファより下位で、持っているキリング・マシーンはすでに型落ちしたタイプだ。外部からの乗っとり方法がすでに広く知れ渡っていながら、サポート対象外なのでいつまでも対抗策がないままになる。いつでも乗っ取り放題のカモだ。

「なあブラボー、狩ってほしい奴がいるんだ。ペット程度なんだが、僕のキリング・マシーンでは規模が合わなくて困ってる」

―― この作品は2021年05月07日カクヨムに投稿したものです。 ――

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