(63) まいにち三題噺【SF】夜/死神/最強の大学

(63) まいにち三題噺【SF】夜/死神/最強の大学

 最強大学ストロンゲスト・アカデミーでは、最強になるための研究が繰り返されている。進歩派は自らを強化する方法を求めて、遺伝子改造や薬物の研究をする。衰敵派は他者を弱化または死亡させる方法を求めて、化学兵器や細菌兵器を開発する。定義派は最強とは何かを論じている。

 今日は衰敵派が新技術を発表している。夜の死神と題した大量殺戮兵器だ。外見は各人の手元にあるタブレット端末と似ているが、インターネット経由での動作と似た方法で、特定した個人を殺害できると発表した。そんな動作を可能にしたのは、これまで地球上では発見されていなかった物質だ。発見者は「インディアン風の装いをした男が提供した」と供述しており、秘密保持のために発見者は死亡した。これで最強を得られると確信している。

 一方で、進歩派からは批判が巻き起こる。自らの外に持つ強さでは、奪われれば形成逆転されるし、破壊されるリスクもある。強さは自らの中に持つべきだとする論調だ。定義派もこの批判に賛同する。いかに夜の死神が優れていようと、あくまで道具の性能であり、求めているはずの個人の強さとは違うと主張する。同時に、特定していない個人との力比べでは無力だとも指摘している。

 意見が割れたときは、最強大学ストロンゲスト・アカデミー流の決め方をする。つまり、実力勝負だ。衰敵派の主席が夜の死神を構えた。起動する前にと、進歩派の末席が飛びかかる。左右の手に短剣を持ち、踊るように右、左、右と衰敵派の主席に斬りかかる。ここは講堂なので、後退で躱すにも限度がある。定義派が椅子を投げ込んで退路を制限する。

 短剣が喉元に届く直前に、夜の死神が最初の動作を済ませた。間近に迫った進歩はの末席は、手から短剣を落とし、すぐに抗いきれずその場に斃れた。

 その調子で進歩派の数を末席から順に半分に減らしていったところで、講堂に異変が起こった。まずは照明が点滅し、次に扉が音を立てて歪んだ。誰もこの部屋から逃さない。天井が破れて、電気の配線が露出する。照明や空調機を投げ出して衰敵派の手元へ襲いかかった。夜の死神を破壊するためだ。

 抵抗しようにも、夜の死神は正体不明の相手に対しては手を出せない。指摘された通りの脆弱性だ。手元で焼け落ちた元・夜の死神を前にして、進歩派に胸ぐらを掴まれた。これも指摘されていた脆弱性だ。

「校長先生だ」

 定義派が呟いた。最強大学ストロンゲスト・アカデミーを統べる存在でありながら、名前も顔も性別も人種も、人間かどうかさえも不明な存在だ。噂によると自らのライバルを求めて最強大学ストロンゲスト・アカデミーを作ったと言われている。相手にならないような初心者狩りがのさばるたびに介入してきた。

 今回の一件を統括するのは進歩派に任された。

「衰敵派、残念だったな。お前は最強にはなれなかった。失敗を恥じることはないが、失った人材の補填はしてもらうぞ。六〇人だから、そっちの二〇人が三人ずつ産んだら帳消しになる。検討を祈る」

―― この作品は2021年05月02日カクヨムに投稿したものです。 ――

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