(74)『発明高校生の銅像さん増産LIFE! スタスタ&チューチューの章をどうぞ』まいにち三題噺season2


【純愛モノ】冬/銅像/ねじれた主人公 (1118字を/27分で)

 冬休みが近づき、三年生は多くが神妙な面持ちか浮ついた面持ちで通り過ぎる。二年のアルトはいつも通り、趣味を兼ねた銅像磨きをしながら挨拶だけは送る。返事は少なく、理由は無視よりも耳に入っていいないような気がする。つい昨日まで仲良く話た先輩さえ何かに囚われたような顔で、上の空で歩いている。受験かそこらがそうまで恐ろしいのか、と想像を膨らませて、すぐに片付けて、銅像磨きに戻る。

 名門校に相応しく、都内でも有数の銅像を擁している。歴代の校長先生や教頭先生に加えて、退任した先生やどこかで賞を獲った生徒や、不慮の事故で亡骸に転職した者まで銅像にしている。アルトが高い倍率のお受験を突破してまで志望した理由だ。銅像への愛着によって留年を繰り返し、アルバイトを始めたり、片手間に就職したり、片手間に起業して、在学をずっと続けている。銅像がたっぷりあるこの住所はアルトの理想郷そのものだ。いずれ来たる全人類銅像化計画の実行まではこの地の銅像で満足していよう。

 卒業生が挨拶に来たとき、せっかくなのでアルトが開発した新システム、銅像化ビームを照射してみた。木を隠すなら森の中、銅像を隠すなら銅像の中だ。あの生徒はすでに複数の銅像が建てられているので、ひとつ増えてもすぐには気づかない。銅像化ビームは未発表の技術なので、真実に近づくものを過去に囚われた群れが叩き潰す。この調子でどんどん銅像を増やしていく。アルトは恍惚の表情を浮かべた。自らの手で銅像を増やしたのだ。愛しい新銅像は偶然にも手の形がちょうどよかったので、人目を確認し、アルトは自らの股間部にあてがった。愛する存在と自分が同じ空間でやることは、やはりこれに限る。美しい銅像だ。イオン交換が起こる。万が一に備えて銅像化ビームで銅像となった人間はもう元に戻せなくなっている。誰にも邪魔はさせない。

 アルトはこの調子で銅像を増やしていった。不審に思った警察が訪れた日もあったが、銅像化ビームがあれば警察にも勝てるし情報を秘匿し続けられる。その場に邪魔な塊が残って追撃を防ぐし、空想上の尊厳にかまけて破壊を躊躇する。情けない連中だ。アルトの情け容赦のない銅像化ビームにより、日に日に銅像が増えていく。多くは男の銅像だ。使い捨てても数頭が残っているだけで次世代を各保できる都合で、アルトに迫る暴徒は男が多かった。一部の狂った女がアルトに依頼して特定の男の特定の一部を求めて分け合うこともあった。アルトは不気味に思いながらも協力者は使い物になるので使い、銅像を増やしていった。余った部分は鋳つぶして銅が必要な業者に卸す。家屋の屋根、電子機器の配線、放熱装置など、銅の需要はいくらでもある。

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