『不思議の国のアリス』署名の無い手紙⑦

「署名の無い手紙」第6連です。

第6連

Don't let him know she liked them best,
For this must ever be
A secret, kept from all the rest,
Between yourself and me.

ダイナがマウスを（食べ物として）一番好きだって、マウス君に知られないようにね。
なぜならこれは大事な秘密、
他の誰にも知られちゃいけない
貴女と私だけの秘密だから。

第6連の話者はナレーターです。

(you)→アリス
him→マウス（アリスと会話している個体）
she→ダイナ
them→マウス（種族としての）
yourself→アリス
me→ナレーター

場面特定

命令文Don't let him know~はYou don't let him know~のYouが省略された形。
sheがダイナと気付けば、涙の池でアリスとマウスが話している場面だと分かりますね。

実はこの場面、『地下の国のアリス』の作者による挿絵ではアリスとマウスの他に大きな魚が描かれているのです。
さっき出来たばかりの水溜まりになぜ魚が？

テニエルの挿絵では消えてしまいましたが、この魚は「この場面にもう1人いる」というヒントだと私は考えます。

『不思議の国』限定のパズルのはずの「署名の無い手紙」のヒントが『地下の国』の挿絵にあることに驚く人はもういないと思いますが、それだけ重要な情報ということ。

ナレーターの存在を強調していたんですね。

「署名の無い手紙」のルールにも慣れてきたことだし、第6連の意味は涙の池でアリスがやらかした失敗談ってことでいいでしょう。

第4連と第5連であれだけ持ち上げておいて、最後で落とす仕掛けだったんですね。
ちょっと意地悪。

･･･などと思ったら大間違い。
ここからが本番です。

伏線回収

お茶会の場の「タイムテーブルが6を指す」というヒント。
ハートの王が言う「これは今までで最も重要な秘密」という台詞。
アリスが言う「この詩の意味を説明できたら6ペンスあげる」という台詞。

全てが「6」を強調していました。
「第6連」は特別なのです。

再掲第6連

Don't let him know she liked them best,
For this must ever be
A secret, kept from all the rest,
Between yourself and me.

(you)→アリス
him→マウス（アリスと会話している個体）
she→ダイナ
them→マウス（種族としての）
yourself→アリスのモデル(=Alice Liddell)
me→ナレーター(=Lewis Carroll)

1行目
解釈は同じ。「涙の池」の場面。

2行目
For･･･「おかしな掛け算」に出てきた[フォー]の同音異義語がヒント。
For→Fore

this･･･thisが指すのは「第6連」そのもの→this stanza→the 6th stanza→the 6th

3行目
A secret･･･英英辞典でarcana(arcanum)を引くとmysteryやsecretという語義が。
物語全編にタロットの寓意が散りばめられた『不思議の国』では、secretからarcanaを連想するのが当然。
A secret→the arcana

kept from all the rest･･･この文脈のrestは人でなくタロットカードなので、keep fromも「～から選り分けておく」という意味に。

4行目
yourself･･･youが作中人物としてのアリスを指すので、yourselfは「アリスのモデルとなった人物」、すなわちAlice Liddell。

me･･･ナレーター、すなわちLewis Carroll。

暗号メッセージ

For this must ever be
A secret, kept from all the rest,
Between yourself and me.
　↓
Fore the 6th must ever be the arcana, kept from all the rest, between yourself and me.

（拙訳）
将来のAlice LiddellとLewis Carrollの関係を示すとっておきのタロットカードは、まさに「第6番」で間違いない

大アルカナの第6番は「LOVERS」。

「署名の無い手紙」というパズル、そして『不思議の国のアリス』という物語は、Lewis CarrollからAlice Liddellに宛てた求愛の暗号メッセージだったのです。

あくまで筆者の仮説です。
定説ではありません。