『不思議の国のアリス』帽子屋の謎々への私の回答
ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』(Lewis Carroll, Alice's adventures in wonderland, 1865)で帽子屋が出題する謎々への回答です。
この問題は作者が公式の正解を遺していないこともあり、これまで多くの人が様々な回答を提示してきました。私も新説を出します。
「パズルは自力で解くことに意義がある」という方は、自分なりの答を得てからここへ戻ってきて続きを読んで頂けると幸いです。
「英語には自信が無くて」という方も、原文と翻訳を見くらべながら読んでみて下さい。
結構何とかなるものですよ。
1897年版のヒント
"Because it can produce a few notes, though they are very flat; and it is nevar put with the wrong end in front!"
はじめに
帽子屋の謎々は2つあります。
「カラスとかけて書き物机と解く、その心は?」という謎かけと、「キラキラ星」の替え歌の謎々詩です。
謎々詩
まず替え歌の謎々詩の方から。
Twinkle, twinkle, little bat!
How I wonder what you're at;
Up above the world you fly,
Like a tea-tray in the sky.
Twinkle, twinkle ー
twinkleは「キラキラ光る、チカチカ瞬く、ヒラヒラ羽ばたく」という意味の擬態語。
littleは「小さい、可愛い」。
be at~ は「~を狙っている、~に従事している」と訳すことが多いですが、ここでは「~に居る」と考えます。
詩全体で「little batの正体」を、2行目で「居場所」を問われているというわけです。
キラキラと鱗粉を光らせ、tea-trayのような羽でヒラヒラと飛ぶ、小さくて可愛い蝙蝠に似た姿の生き物。
答は「空の蝶」butterfly in the skyですね。
この謎々詩の前後にヒントがあります。
まず、帽子屋の時計が2日狂っているのは、パンナイフでバターを塗ったためと言われ、三月兎が時計をお茶に浸ける場面。
「時計を直接バターに浸ける」→「バターで揚げる」→butter+fry→butterfly
次に、帽子屋の歌に女王が言ったmurdering timeの台詞。timeを「時間」とすれば「拍子を乱す」という意味ですが、「人」とすると「タイム氏を殺す」という意味になります。
「死んでいる」はbe in the skyですから、
先ほどの「バターで揚げる」の話と合わせてbutterfly in the skyとなります。
謎々詩の前後にシャレードで答を折り込んであったわけですね。
1897年版の『不思議の国のアリス』で作者が示したヒントも検討してみましょう。
①produce a few notes
替え歌は、1~2行目と3~5行目の2回に分けて歌われています。
②they are very flat
蝶の羽はとても平らです。
③nevar put with the wrong end in front
リフレインの5行目を除く1~4行目の行末を数語ずつ拾って上から下に縦読みすると、bat+at+fly+in the sky→butterfly in the sky
3つの条件を全て満たしていますね。
謎かけ
続いて、謎かけを考えます。
Why is a raven like a writing desk?
私の出した答はLike a table。
1897年版のヒントを元に考えます。①produce a few notes
a ravenとa tableの発音を比較すると同音の[ei]だけでなく、[r]と[t]、[v]と[b]、[n]と[l]といった個々の発音が似ています。
A raven prudeces a few notes like a table.
というわけです。
②they are very flat
書き物机もテーブルも天板はとても平ら。
A writing-desk is very flat like a table.
ですね。
③nevar put with the wrong end in front
1~5行目の行末を右から左に数文字ずつ拾って下から上に縦読みすると、el+yk+y+ta+tab el→elyky ta tabel→Like a table(nevar→ravenが利いています)
こちらも3つの条件を満たしています。
シャレードはどうでしょう。
謎かけ出題の直前、第7章が始まってわずか1ページほどの間に、a table, the table, the table, the table, your tableと、tableという単語が5回も連呼されます。三月兎が勧めるワインもtable wineかもしれません。
しかし、謎かけの後はピタリと止むのです。
不自然ですね。
(次に出てくるのはアリスがお茶会の場から離れてホールのglass tableの前に立つ場面)
これがtableを示すシャレードの片方です。
謎かけ出題の後には、お茶会のメンバーが「AとBは同じ」という意味の文について延々と議論をする場面があります。三月兎の'I like what I get' is the same thing as 'I get what I like'!という台詞もあり、これがlikeを示すシャレードのもう片方になっています。
合わせてLike a tableになりますね。
「僕にはさっぱり分からんよ」
ここで、前半の流れを振り返ります。
①table連呼
②謎かけ出題
③likeにまつわる会話
④1分程の沈黙
⑤時計をお茶に浸ける
⑥「the riddleの答は分かったかい?」
「僕にはさっぱり分からんよ」「僕も」
⑦「答の無い謎々で時間を潰すなんて」
⑧謎々詩出題
⑨「murdering time」
⑩「話題を変えよう」
①③が②のヒント、⑤⑨が⑧のヒントなのは既に述べました。
もし、帽子屋の言うthe riddleが指すものが②の謎かけではなく⑧の謎々詩の方ならば、⑥の時点では問題もヒントも出ていないわけですから「さっぱり分からない」のも当然。
まあ、確かに嘘ではありませんが。
ちなみに『鏡の国のアリス』で「答の無い謎々」の話題が出てきますが、あれは詩とチェス手順との関連についての発言なので、こちらの「答の無い謎々」が詩と関連がある方の謎々だと示すヒントになっています。
treacle
ここからは後半です。
まず、ドーマウスの話「井戸の中の三姉妹」について考えます。
後の法廷の場面でもtreacleがtrickの洒落として出てきますが、こちらにもtrickが。
①lived on treacleのlive→like(視覚韻)
②learning to draw→tableau→table
③in the well, well in
welkin(大空、空、天)から、in the well+well in→in the welkin→in the sky
④"Three little sisters"の小話自体が"Twinkle, twinkle, little bat"の詩と同様の謎々。アリスは「糖蜜ばかり食べてたら病気になる」と発言しますが、逆に蜜だけを常食する生き物を考えれば良いのです。
もちろん答はbutterfly。
つまり、treacleに関係する言葉だけでLike a tableとbutterfly in the skyが表現されていたというわけです。
M尽くし
①mousetrap→batter+flip→butterfly
②the moon→in the sky
③memory→memorial tablet→table
④much of a muchness→like
mで始まる4つの語句でも、Like a tableとbutterfly in the skyが表現されていました。
drawing of a muchnessというダメ押しも。
ドーマウスの話
①ドーマウスがすごいスピードで話す→fly
②帽子屋の台詞「nothingより多く飲むのも少なく飲むのも同じ」→like
(余談:more+less→molassesですね)
③アリスがbread-and-butterを食べる→butter
④帽子屋と三月兎がドーマウスをtea potに押し込む→go to pot→dead→in the sky
⑤tableには「テーブルを囲む人々」の意味がある→a table of the tea party→table
お茶会後半全体でも、Like a tableとbutterfly in the skyが表現されていました。
アリス自身も加わって4人全員参加で。
最後の謎
結局、第7章の最初から最後まで2つの謎々のヒント尽くしだったわけです。
これに何か意味はあるのでしょうか。
"Is that the reason so many tea-things are put out here?"(アリス)
謎かけではtableに、謎々詩ではtimeに関係する話が行われていました。
so many tea-thingsが第7章全体のT尽くしを指しているとすると、2つのシャレードでtable+time→timetableが浮かびます。「timetableが6を指している」
これがアリスの言うthe reasonなのですが、後のパズルの鍵になるのでまた別の機会に。
まとめ
帽子屋の謎々は謎かけと謎々詩の2つある。
謎かけの答はLike a tableである。
謎々詩の答はbutterfly in the skyである。
出題の前後にシャレードのヒントがある。
帽子屋が「分からない」というthe riddle
は、謎々詩の方を指している。
後半では、treacle、M尽くし、4人の言動で2つの謎々の答が表現されている。
お茶会の謎は、後のパズルに続く鍵となる。
おわりに
いかがでしたか。155年前のパズルですが、未解決のまま放置しておくにはもったいない面白さではないでしょうか。
真実は永遠の謎ですが、賛同してくれる人が1人でもいれば嬉しく思います。
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