『不思議の国のアリス』音声劇の意味
『不思議の国のアリス』の第4章、White Rabbitの家でアリスが巨大化する場面では、アリスの視界が閉ざされるので一種の音声劇のような状態になります。
このエピソードは『地下の国のアリス』にもありますね。
「Pat」がアイルランドの男性に多い名で、「White Rabbit」がイングランド男性を、「リンゴを掘る」がジャガイモを表しているという話は有名ですね。
それがジャガイモ飢饉(the Potato Famine, 1845-1849)を暗示しているということも。
今回は別の話を考えます。
辞書によると、アイルランド・ゲール語のarmは[arəm]と発音し「武器、軍隊」という意味だけで「腕」の意味はありません。
本文では、英語読みで[arəm]と読めるようにわざわざ「arrum」という綴りまで創出しています。
また「キュウリの生け垣」と訳されることが多いcucumber-frameは「生け垣→hedge」からhedge schoolを連想させます。
アイルランドの人々は「刑罰法」で民族の母語であるゲール語の使用を禁じられましたが、かつてのゲール詩人たちはイングランド兵の目を盗んでhedge schoolでゲール語による教育を行いました。
ゲール語での出版はもちろん、カトリックの学童へは正規の学校教育すら禁じられていた時代の話です。
イングランド人には「腕」の訛りとしか聞こえないarmを、本来の「軍隊」と考えると。
(小さな悲鳴)
(何かが落下する音)
(衝突音)
(ガラスの割れる音)
「armです!」
「あんなものは要らん。行って撤去しろ!」(ガラスの割れる音)
「cucumber-frameは驚くほどたくさんあるに違いないわ」
・・・
視覚的には、家から突き出したアリスの巨大な腕にWhite RabbitとPatが右往左往するユーモラスな場面なのですが、「音声のみ」に絞ると裏の意味が見えてくるわけですね。
参考:上野格『図説アイルランド』(河出書房新社)P.102-P.103
ルイス・キャロルはジョナサン・スウィフトやW. B. イェイツのようなアングロアイリッシュではありませんが、Wikipediaによるとドッドソンの一族はアイルランド系の血を含む北部イギリス人とのことです。
ならば、アイルランド政策にも強い思い入れがあったのではないでしょうか。
「ジャガイモ飢饉」や「ヘッジスクール」の描き方を見ると、そんなことを想像します。
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